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第30回1000字小説バトル Entry12

エレクトリックポップ世代の幼年期

 電力会社から山のような督促状が届いたが、私とルームメイトには払う金がない。
 記録的な猛暑でエアコンはフル回転。冷蔵庫にはぎっしりと缶ビール、おまけに二人とも暗がりが不安なので眠る時も蛍光灯を消すことができない。電気を止められては生活などできようはずがない。
 2人でタバコを吸いながらつらつら考えたが、状況を打開するような名案が浮かぶわけでもなく、そのうち電力会社から再度通告がきた。
 「滞納分を即刻返済すること。もしくは、滞納額に応じて象を捕獲すること」
 象達が逃げ出したという。全国の動物園から。彼らは町に現れ暴虐の限りを尽くして南進中だという。小学生達を頭から踏み潰し、誰彼となくその長い鼻で絡めとっては力任せに締め上げる。慢性的な交通渋滞と報道管制によって、北の町は完全に機能を停止している。
 まあ、私達は知る由もなかったが世の中にはそういったことが起こりつつあるらしかった。激動の時代である。
 考えるまでもなく私達はさっそく遠征に出発。薄汚いトラックの荷台に他の料金滞納者連中と一緒に乗り込み、各地を転々とする。
「宿舎に戻れば冷えたビールが待ってるさ」
「冷蔵庫が動いてりゃあね」
 誰かの煙草をみんなでまわしのみしながら鼻歌交じりの長い長い旅だ。
 凶暴かつ狡猾な象たちとの戦いに、やがて私達は疲弊し何度か生死の境を彷徨ったりする。悲しい別れがあり地元の娘との淡いロマンスがあり殴り合いの喧嘩があり、料金滞納者達は新たな友情の絆で結び付けられる。
 ある夜、私は遠征先の地方のクラブでこの世のものとは思えない美女と遭遇する。ありったけの金をはたいて彼女に酒をおごりホテルに連れ出す。
 並んで寝そべりながら、これまでしとめてきた象の話を彼女に聞かせる。彼女は眠そうな目をしてそれを聞いている。
「象が逃げ出したなんて、聞いたことないわ」と、彼女。
 やがて彼女は鼻提灯とともに居眠りを始め、私は彼女に毛布をかけてあげる。彼女がうっすらと目を開けて言う。
「電気は消さないでね」
 クラブに戻ると、下世話な想像力ではちきれんばかりの仲間達。しかし、私の話を聞いて誰もが同情の言葉を口にし、私の肩をたたき宿舎へと帰ってゆく。
「あと、32頭さ」ルームメイトが呟く。
 あと32頭、私も同じ言葉を繰り返す。
 一人冷たいベッドに身を横たえ、静かに涙を流しながら、私のペニスは恥ずかしいほどに勃起している。

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