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第31回1000字小説バトル Entry16

手紙

拝啓 宮内様

 突然のお手紙申し訳ありません。
 どうしてもあなた様に知っていて欲しいことがあるのです。
 依子さんの事についてと申せば、大体の見当はつくと思います。
 私は大変な悪筆である為、読みにくい所も多々あるでしょう。
 しかし、決して途中で投げ出さずにお読みください。
 お願いします。

 ただ冗長に文を連ねても意味がないと思いますので、単刀直入に申し上げます。
 依子さんは生きてらっしゃいます。

 あなた様は、依子さんを死んだものとして扱っておいでだ。
 その気持ちも分からなくはありません。行方不明の妻をひたすら待ちつづける心理は、経験のない私にとってすら酷く辛いものであると楽に想像できます。特に、その状態が数年も続いておられるのならば。 
 しかし、彼女は生きておいでなのです。
 彼女を死んだものとして割り切っておられたあなたにとって、この手紙はないはずであった希望であると同時に、身を切られるような痛みを伴うものでもあることでしょう。
 私は残酷にも、そんなあなたに対して更に酷な事を告げねばなりません。
 依子さんは、記憶を無くしておいでだ。それも、あなたと結婚した19××年からの記憶を。
 つまり、彼女にとってあなた様とは、未だ十代の素敵な恋人であるのです。
 私は彼女の口からあなた様の事を知りました。(あなた様のその後の経過は興信所にて調べさせていただきました。不快な思いをされたならば、すみません)
 あなた様には、当然の疑問があると思われます。それは、依子さん自身が自らのの年老いた姿に気づいておられるのか、ということでしょう。
 私どもが依子さんを発見した時、彼女は極度の狂乱状態でありました。彼女は初めに自らの皺だらけの手を見、それにより疑問を持ち、恐る恐る自らの姿を窓ガラスか何かに映したのでしょう。私にはそのような情景が、ありありと想像できてしまうのです。
 依子さんにとっては、まだ十代であった頃から精神のみの時間旅行をしたようなものでしょう。決して戻ることの出来ない時間旅行です。
 何故この手紙を出すのに4年の歳月を要したということについても、疑問をお持ちでしょう。
 それは、依子さん自身の心の整理の時間であると思われて差し支えありません。
 兎に角、現在の依子さんはあなた様に会いたがっておられます。
 お返事をお待ちしております。

 敬具

 追伸 依子さんの決意を鑑みていただけると幸いです。

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