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第31回1000字小説バトル Entry36

ターザン夢を見る

冒険というものはこのターザンとは無縁である。
ターザンはジャングルに何十年も棲んでいて、自分が何者であるかを知らない。もちろん、人間というものを見たこともないので人間であることも忘れている。ただ猿でないことだけは、薄々気づいている。
ところで、有名なハリウッド映画の「ターザン」の名誉のために断っておくが、この物語の主人公とは同じ境遇、同名であるというだけで、いっさいの関係はない。面倒な盗作はやらない。
それでもターザンは生きている。存在を問われることもなく、けなげに、ただのんびりと。そこにはまったく、想像のロマンもない。ターザンは愚鈍であって、人間社会とは交渉のない世界をこれで生き抜くのが、今回作者のちょっとしたアジである。

ある日で始まる午後のこと。ターザンはいつものようにゴリラと同じほどの、人間ばなれしたものすごい量のエサを食べた。それはまったく時間の感覚のないターザンが、えんえんと食べ続けるから、そうなるのだ。最近、ターザンはチンパンジーより(もちろん、チータなどと名づける知恵もないので、それとは「他人」である)ゴリラの方と仲が良いので、なんとなく満たされた気分をドラミングで表現してみようと思う。
「ドッコ、ドッコ、ドッコ・・・、ぶっ!」
むせてしまい、変な汁がでた。ターザンは泣いた。泣いたのではない、涙が出た。とてもつらいと感じた。こんな時ふと、人間に帰ったかのように遠い目をして、空を見上げているのが哀れ寂しげである。空はのっぺりとしていた。太陽だけがギザギザとした痛さがあった。なんか感激してきたので、「ンッロオオ」と奇声を発した。決して密林の王に目覚めたわけではない。
ターザンは裸足でそこらじゅうを、猛烈に走った。まったくの暴走である。驚いた不思議な色の鳥たちが、いっせいに鳴き狂った。はばたく羽の音に、ターザンはより一層興奮してきたが、人間の限界を超えるはるかな速度で走ったので、息が続かなくなった。その場にぶっ倒れて、気を失った。辺りはだいぶ影になってきた。
「ターザン、おいしっかりしろ」
遠くのほうで声がした。いや、
「ターザン、しっかりして」だったかもしれない。
とにかくそれは、とおくの遠くの、ずぅっと遠くで聞いたような気がした。


平成十四年一月三十一日

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