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第31回1000字小説バトル Entry9

戦場

「畜生!こいつぁ陥ちねえぜ」
三度目の突撃の後、逃げ帰った塹壕で隣り合った戦友が吐き捨てた。
敵陣は堅牢で、俺たちの捨て身の突撃にもまるでびくともしない。
その兵士は自棄のように敵陣に向かって小銃の引金を引き続けたが、たちまち猛烈な反撃を食らい、慌てて頭を引っ込めた。
ド、ドーン。
揺るい地響き。迫撃砲弾が近くに落ちたのだ。
ぱらぱらと塹壕の中にまで土が降り注いでくる。
「おい!バカな事やめてくれ!」
たまらず叫ぶ。巻き添えは御免だ。
散発的な銃撃音。
ゴロゴロいう雷鳴は遠くの着弾音。
血と硝煙と泥の匂い。男どものすえた体臭。
ここは戦場だ。


「なあ、あんたタバコもってねえか?」
この軽率な男の面倒を見るのは御免だったが、戦友意識はそれ以上に堅かった。
黙ってマルボロを一本抜き出し渡す。
「すまねえ」
男は泥まみれの顔でさもうまそうに一服つけた。
俺もつい誘われて一本抜き出す。
肺に吸い込まれていく紫煙。気持ちが軽くなる。
軍曹が塹壕沿いに走ってきた。
「いいか、赤の信号弾で突撃だ」
早口で伝えまた走っていく。
「なあ、あんた。この戦争終わると思うか」
遠い目で男が言った。
「さあ、わからんね」
「そうだよな。俺ら下っ端にゃ、戦争の行く末なんて、な」
「分ってんのはお偉いさん」
「ああ、総司令官閣下だけってね」
「そうだ。今は・・・」
「今は、あれか」
塹壕の傍から目だけ出して前をうかがう。
目の前の荒涼とした風景の先にそれはあった。
難攻の要塞。あの不落の敵営が。

灰色の空に赤い光芒が上がる。
突撃信号だ。
俺たちは叫び声をあげ塹壕を飛び出した。
戦列からは同じようにバラバラと男たちが飛び出し、銃を乱射しながら、叫びながら駆けている。
激しい銃撃。タタタタタと軽快な機関銃のドラムロール。土煙がいたるところで上がる。銃弾を浴び、死の舞踊を踊る兵士たち。後方の砲兵が頭越しに大砲を撃っていく。着弾。閃光。轟音。
恐怖をかみ殺し、走った。野獣のような咆哮をあげた。殺せ殺せと叫んでいた。
いつのまにか、俺も撃たれた。地面にドウと転がる。
死にいく意識の中、俺は攻撃の成功を祈った。
そして、どこか遠い空の総司令官の事を思った。


* * *


「ねえ、まだ駄目?」
「う、うん。ごめん」
「いいのよ、あわてないで」
「もうちょっとなんだけど」

ピンク色に彩られた狭い部屋の中
我らが総司令官は孤軍奮闘していた。


* * *


総司令、後は頼む。
なんてったって俺らの、精子をかけた戦いだ。

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