第33回1000字小説バトル Entry16
JR池袋駅から私鉄電車に身を預けて30分。
この辺りもまだまだ都心通勤圏である。駅の周りは思った通り繁華街が広がっていた。
「すみれ幼稚園の辺りまで」
タクシーの運転手には、上司から教わった通り告げた。
運転手が料金メーターのスイッチを入れ、タクシーは駅を後にした。
この会社に訪れるのはこれで2回目だ。
普段は、担当者であるこの会社の社長が私の会社の事務所までやって来るので、殆どの事が足りてしまう。
だが、今回の仕事は急を要した。
「いやぁ、すいません。わざわざご丁寧に。木内です」
名刺には専務と刻まれていた。息子と聞いていた。
30過ぎ。短髪。眉毛に僅かな剃り込み。幸か不幸か父である社長によく似ている。
「社長は外出したんで、サンプルは私が預かってました」
「伺ってます。これがそのサンプルですね」
「ええ。ま、お座り下さい。狭いところですけど」
テーブルの上には週刊誌が重ねられている。その横にサンプルを広げて簡単な商品打ち合わせを行った。
「有難うございました。次ありますので、そろそろ失礼させて頂きます」
「じゃぁ駅まで送りますよ」
「そうですか。すいません、お言葉に甘えて」
「クルマ廻します。外で待ってて下さい」
裏口に向う彼。
問題はその車だった。
現れた車は日産プレジデント。窓ガラスにはぶ厚いスモークが貼られ、タイヤホイールは激しく光り輝いている。
無論、車高が非合法の低さであることは言うまでもない。
完全なヤンキー車だった。
「違いますよ。後ろに乗って下さい」
なぜか後部座席に促され、車はゆっくりと発進した。
運転は丁寧極まりなかった。
駅に到着したプレジデントが静かにロータリーを半周する。嫌が負うにも一帯の注目を浴びている。
「待って下さい、私が開けますよ」
車が停止し、自らドアを開けて降りようとすると、運転席から飛んできた丁寧発言。
冗談じゃない。
ただでさえ作業衣を着ているあなたが、そんなことをしたらどうなる。 「兄貴、行ってらっしゃい」とでも言うつもりか。
「ありがとうございました。社長によろしくお願いします」
迅速に車外へ降りる。彼も運転席から外に出た。
「お疲れさまっス」
勢いのある声が一帯に響き渡った。
聞こえないよ。僕知らないよ。