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第33回1000字小説バトル Entry15

犬好き⇒善人?(犬好きならば善人か?)

「犬好きに悪い奴はいないって言うが、ありゃとんでもねぇ偏見だ。俺は盗人だが、犬は大好きだぜ。どのくらい好きかって?今日はその話をするか。
 あの朝、電器屋の倉庫を叩いた帰りに、俺はあの喫茶店に入った。徹夜の仕事で疲れててな、熱いコーヒーが飲みたかったんだ。俺はカウンターに座ってコーヒーを注文した。一口啜ってふと隣りを見ると、どうにもパッとしない女が座ってた。30前後ぐらいに見えたが、顔なんかまるで覚えちゃいねえ。とにかく地味な女だったぜ。そいつがな、足元にバッグを置いてるんだ。どっかのブランド物のハンドバッグさ。ここは平和な国だ。普段なら何の問題も無いだろうよ。だが俺の前では不用意過ぎる。あれじゃ盗ってくれって言ってるようなもんだ。俺はコーヒーを飲み干すと、女のバッグを掠め盗って店を出た。当然だろ?隙を見せるほうが悪いんだ。
 俺は家に帰ってからバッグを開けた。けどその中には、財布どころか金目のもんは何も無かった。手帳とか化粧品とか読みかけの文庫本とか、そんなもんに紛れて、あのアルバムが入ってたんだ。アルバムって言ったって、ちゃんとしたやつじゃねぇよ。あの、ペラペラの紙で出来た、写真を現像するとタダで貰える、安っぽいアルバムだ。俺はまったく無防備にアルバムを開いた。後悔してるよ。あんなもん見なきゃよかった。どんな写真が入ってたと思う?犬の写真だよ。どれもこれも、40枚全部、1匹の犬が写ってた。俺は途端に嫌な気分になった。なんだか自分がひどく卑しい人間に思えちまったんだ。それで俺はどうしてもあのアルバムを捨てれなかった。持て余して、結局交番に届けることにした。今にして思えばとんでもない間違いだ。でもあの時はなぜかそれが正しいと思い込んでたんだ。
 それでこのザマさ。おまわりが俺の顔を覚えてやがった。ずいぶん前に指名手配されてたのを、そのときようやく思い出したよ。まったくあの時は、本当にどうかしてた。
 何もかも、あの冴えない女のせいだ。……あの表情。そう、顔は忘れたが、あの表情だけは覚えてる。今までに見たこともない表情だった。アルバムの最後に、1枚だけ人間が写ってる写真があったんだ。本人が、たぶんセルフタイマーで撮ったんだろう。犬を抱いて笑ってる女の写真だ。それがなんとも奇妙な笑顔だった。女は確かに笑ってるんだが、あれは、何て言うか……、そう、まるで、泣いているように見えたな」

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