第33回1000字小説バトル Entry31
「何でも一つだけ、願いを叶えてやろう」
瓶から出てきた魔神は、ドジョウ髭をいじりながら言った。
「そうだなぁ」
格幅の良い魔神よりも更に格幅の良い――を通り越して肥満体の男は、首を傾げる。
「まさか『ちょっと待って』とか言ったらおしまいなんて事は……」
「ない。お前の心の中のイメージを読み取って思い通りに実現するから、大丈夫だ」
「はー、最近のは進歩してるんだ」
「色々疑われる事の多い職業だからな」
魔神は何か悪い思い出でもあるのか、遠い目をする。
「ふーん」
男は首を捻る。
「じゃ、質問はアリ?」
「種類による」
「種類って?」
「何でもアリにしたら、宇宙の深淵に付いて尋ねられて、教えているうちに相手が正気を失ってしまった事があってな。それ自体が願いなら教えてやらん事もないが?」
「いらないいらない。そんなの知ったって、お腹が膨れるわけじゃないし」
「賢明だな。どうせ人間に理解できる知識でもないのだから」
腕組みをした魔神は「早く言え」とでも言わんばかりの顔をしている。
「じゃ、毎日満漢全席ってのは?」
「忠告するが、中華以外を喰いたくなったらどうする気だ? それにあれは、数日をかけるコースだ。生活に差し障りが出るぞ」
「それじゃ、毎日フルコース」
「食い物以外の願望はないのか――まあいいが。お前のイメージではフランス料理一本になってしまう」
「えーと、一生喰いきれない金」
「具体的な金額は?」
「ひ、百億円」
「昔、どこだかの国でそういう願いを聞いたら、インフレでコーヒー一杯も買えなくなった事があったぞ」
「ええと、それじゃ死ぬほど旨いもの」
「河豚の卵巣とかか?」
「そうじゃなくて、その、旨くてたまらないもの」
「具体的になんだ、それは?」
「えーと、えーと――そうだ、それじゃ、一生旨いものを喰えるように、っていう願いはどうなんだ?」
「抽象的過ぎて、お前自身がイメージしきっていないな。もう少し具体的にはならんのか」
「うーん……」
肥満体の男は、コンビニの袋からカップラーメンを取り出す。
そして無造作にスープとかやくを開け、お湯を注ぐ。
「ふんふふんふふんふんふーん……」
時計で時間を確認した後、彼は蓋を取り、テーブルに置く。
「うーん、面白いなぁ」
出来上がったラーメンは、蓋に描かれた『調理例』と全く同じだった。
ずずずず、ずぞぞぞ。
「あーーー、期待した通りの味!」
至福の笑みを浮かべ、男はラーメンを食べ続けた。