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第33回1000字小説バトル Entry39
「今日で辞めるんだ」
レジをがしゃぴん、と打ちながら彼は言った。何気ない仕草が、やはり相変わらず決まっていた。
「そっか」
あたしは相変わらず凡庸に答えた。
深夜3時のコンビニ。客はあたしの他にはいない。
「そっか」
凡庸に繰り返しながら、彼に初めて会った時のことを思い出す。
三ヶ月位前、行きつけのコンビニに新しいアルバイト店員として彼が入ってきた。
印象的な人だな、と思った。
何となく、他の人とは違っていた。声も仕草も佇まいも、何ていうか、違った。
「君、いつもこの時間に来るね」
品物を手渡しながら彼が話しかけてきたのが、それから十日程だろうか。
「ええ、まあ」
間近で見る彼の顔は、やはり印象的だった。コンビニエンスストアの弱々しい蛍光灯なんてかき消すくらい彼は印象的で、生々しかった。
それから少し話すようになった。
「今日で辞めるんだ」
彼はレジの中身を数えながら、そう言った。
「どっか引っ越すの?」
相変わらず凡庸にあたしは聞いた。
「まあね」
「どこ?」
「さあ。まだ決めて無いんだ」
「そうなの」
「うん。でも多分またどっかのコンビニの店員やるよ」
「ふうん。好きなの?このバイト」
「好きだよ。君みたいな人に会えるしね」
「ははは。また」
「ははは。でも本当にこのバイトは好きだよ。色々な人が来るからね。それを見てるのがなかなか楽しいんだ」
そう言いながら彼はレジからお金を取り出して、そしてポケットにねじ込んだ。
「ち、ちょっとそれ良いの?」
「良いんだ。どうせもう二度とここには来ないんだから」
「でも犯罪じゃない」
「犯罪だけど」
きょとんとして彼は言う。
「でもそれがどうしたの?」
どうしたの、と言われて、ああそうだね、本当に、犯罪だから何なんだろうね、と思った。
「そうだね。そんな事どうでも良いね」
「そんな事よりさ」
「なあに」
「一緒に行こう」
「え、あ、あたしも?」
「うん、行こう」
彼はカウンターを飛び越して、あたしの手を取って歩き出した。
「ち、ちょっと」
彼はあたしの手を強く引く。
「一緒に行こう。海なんてどう?」
「この寒い時に?」
「だから良いんだよ」
その手は暖かくて、罪も罰も最初から知らないその手は本当に自由で、あたしはこの人ならもしかしたら本当に世界を変えてしまうのでは無いか、と一瞬本気で思った。
「そうだね。良いかも知れないね」
「よし、決まりだ」
そしてあたしは産まれて初めてバイクに乗った。
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