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第34回1000字小説バトル Entry1

夏来刑事の事件簿

某マンションで狩野静香(23)の変死体が発見された。

発見者は女性の同僚。

着衣の乱れや暴行の跡は無く、部屋も無傷なことより自殺又は事故死の見方で事件は調査された。

解剖の結果、毒物等は検出されず、心因的又は物理的要因が引き金のショック死との見方が強まった。



「静香に会わせてください」
現場前で男が騒いでいる。警官が必死に押さえている。
「おい、あれは誰だ」
夏来は岩井に訊いた。
「狩野静香の恋人の、凡倉雄です。あの凡病院の次期院長で医者です。このマンションも凡が買い与えたようです」
岩井が述べた。
「医者か。怪しいな」
岩井は無表情で答えた。
「いえ、凡はここ一週間は学会に出席するために、海外にいました。それに、アレを見れば解かると思いますが彼女に骨抜きにされていたようです」
岩井は顎で凡を指した。凡の整った顔は女性を惹きつけるだろうが、アレをみるとどんな女でも離れていきそうだ。凡の顔は涙と鼻水でドロドロだった。

「ずいぶん美人だな」
狩野静香の全身と上半身の写真を見ながら夏来は首を揉んだ。
「もともとはOLでしたが、今は『T's W』というモデル事務所に所属しています。モデルとはいえ素人の域を出ず、無名でした」
夏来は頷きながら続けた。
「とはいえ、体の線の崩れには敏感だったはずだ」
「多分そうでしょう」
「見ろ、一週間の献立が貼られている。主食はスパゲッティだけだ」
「流行の『低インシュリンダイエット』じゃないですか」
「ああ、胃の内容物を見てな、ピンと来た」
狩野静香の胃の中にはGI値の低い(糖の吸収が遅い)食べ物しかなかった。
「だが、いくらGI値が低いからといってパスタのみを食べ続けることはダイエット法としては間違っている。岩井、『小麦アレルギー』って覚えているか?」
岩井の顔色が変わった。小麦を体の許容量以上に摂取することによるアレルギー反応で死に至るとテレビで取り上げていたのを、署で一緒に見たのだ。
「もし、狩野静香のアレルギーの原因が小麦だとし、それを知っていながらこの献立を実行するように勧める人物がいたら……」
アレルゲンを調べられる人物はすぐあそこにいる。
「動機は?」
「所属事務所には以前から売春疑惑がある。もし、凡がそれを知っていたら? 男は泣くか怒るかしか知らん」
「すぐ調べてみます。刑事はダイエット法に詳しいのですね」
夏来は腹をさすりながら言った。
「うちのやつがうるさいんだ。『低インシュリン』はこりごりだ」
岩井は一礼をして駆けて行った。

ダイエットとは健康になるための手段だが、痩身としての意味だけが一人歩きをし、この事件では人を殺す手段として使われている。

もう少し痩せないと、体がもたないわよ

夏来は妻の言葉を思い出した。

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