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第35回1000字小説バトル Entry1

カラス

「東京都がさ、4000羽のカラスを駆除するのに4000万かけたんだってよ」
「うん?」
「つまりは、1羽のカラスに1万もかけてんの」
 和風トンカツ定食の味噌汁をずずっとすすりながら、先生は言った。ぼんやりと窓の外を眺めているのでつられて目をやると、電線にとまった一羽のカラスをみつけた。
 ややざわついた店の空気の中に窓の外から入る4月のやわらかな空気が溶け込んで、不思議な空間になっていた。
「つうかさ、なんでカラスは嫌われてると思う?」
「えー…」
 生ゴミをあさるから、と答えようとしたら、先生の方が先に答えた。
「黒いからだよ」
「え?」
 大根おろしのかかったカツをほおばりながら、ふざけたような、それでも真剣な目でこちらを見ながら言う。
「東京都がカラス駆除すんのにそんな大金かけてんだったら、カラスの遺伝子操作して、七色のカラスをつくりゃーいいんだよ。」
「七色って、レインボーの?」
「そう。黒やめて、ピンクとか黄色とかにすんの。」
「水色とか、緑とか?」少しわくわくして私が言う。
「そうすりゃーそこらへんの女がさ、”あっみてみてーあのカラスピンクでかわいー”とか言ってさ。街中にカラフルなカラスがいんだよ。」
「あは、それ、いいね」
「逆に初代の黒いカラスは貴重になってきてさ、おう、あいつ黒くてしびぃな、てなるじゃん。で女が”あっあのカラス黒くてかっこいー”とか言って。したら街は平和になんだろ?」
「うん。平和だね」
 先生は1ヶ月前まで、塾の講師をしていた。先生が塾を辞めた理由は知らないが、”退職願 退職します。”と書いた紙を塾長の机の上に置いて、それきり塾には行ってないそうだ。
 私は先生に気に入られてたので、先生が先生を辞めてからもこうして学校をさぼって会ったりしている。
 私服姿の先生は、年よりもずっと若く見える。私は、乱暴なのに下品ではないその話し方が、すごく先生に合っているな、と思いながら、クリームスパゲティを口に運んだ。
 キャベツの千切りに大量のソースをかけてから、先生はふっと目を細めて笑い、
「って彼女に話したら、そんなん考えてるひまがあったら早く仕事探しなさいっておこられたけどね」と言った。
 私は七色のカラスがゴミ捨て場を荒らしているシーンを想像して、やっぱりかわいらしいから許してしまうだろうと改めて思ってから、やっぱり先生はすごいな、と思った。
 それから、もし先生が彼女と別れて、私と付き合ったとしても、結婚するかどうかは考えてしまうだろうな、となんとなく思った。
 春らしい風にのって、一羽のカラスが、電線から飛び去って行った。

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