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第35回1000字小説バトル Entry13

道草

 学校の帰り道に、友達がすごいものを見つけたらしい。
「みんなには内緒だぞ」と耳打ちされて、僕は何だかわくわくしてついていった。
 そこは、小さい頃よく遊んでいた公園。端っこの、藪の中に置きっぱなしにされたポンコツ車の前だった。
 とうてい乗って動くような代物ではない。黒塗りの所々が無残に剥げ落ちているし、野ざらしの間に部品もはがされてとても痛々しかった。
「僕、帰るよ。道草食って暗くなると、親がうるさいから」
 すごいっていうからのこのこ来たというのに、ちょっと拍子抜けだ。ただの粗大ゴミじゃないか。それに僕の家は躾がうるさく、帰宅時間に遅れると母親が怖い。
 ところが友達はお構いなしだ。
「絶対びっくりするよ。いいかい」
 そう言いながら、運転席のドアを開いて中へ入り、向こう側の助手席に移った。
「このドアを向こうに開くと……ほら!」

 助手席側のドアの向こうの景色は、どこまでも続く砂漠だった。焼けた日の光がまぶしく目に飛び込んできた。
「なあ、すごいだろ」
 友達は鼻息を荒くして言った。
「これが、反対から入るとこうはいかないんだ。どうも、ドアから向こうの空間が、砂漠と繋がっているらしい」
 友達はそのまま助手席側から外へ出てしまった。
 慌てて僕も車に乗り込み、這うように反対のドアまで行ってみた。外に首を覗かせる。
「ここどこ? やっぱり、地球上?」
 友人は砂漠の上に立って、熱い日差しの中で目を細めている。
「お前も出てみろよ」
「うん。しかし、すごいな」
 僕もすぐにドアから砂漠に降り立った。太陽熱をたっぷり吸った砂の熱さが靴底から伝わってくる。
「本物だ。大人を呼ぼう」
「ちょっと待てよ。すぐ誰かに言うのはもったいないぞ。この砂漠を使ってできることないか考えようよ」
 それもそうだな、と僕も思った。
 いろいろなことが思い浮かんだが、じっくりと考えるにはここは熱すぎる。たちまち全身が汗だくになって、立っていられないほどだ。
「今日はとにかく家へ帰って、後でゆっくり考えることにしよう。遅くなるとお前の母さん怒るから。でもこれはふたりだけの秘密だぞ。いいね」
「ああ、もちろん。また明日、ここへ来てみよう」
「あれ……」
 その時、友達が素っ頓狂な声を出した。
「どうしたんだ?」
「車のドアが開かないぞ!」

 ごめん。
 なにしろ、僕の母親は躾が厳しい。
 車を離れるときは、必ずロックをしなさい、といつも言われていたんだ。

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