第35回1000字小説バトル Entry24
「え?…うん。この間はごめん、いきなり帰っちゃって。……ううん、違うの。うん…じゃ、また」
ピッ
「ごめんね」
夜の東京駅十八番ホーム。携帯電話を鞄にしまい彼に微笑みかける。タラップには大きなバックと彼。
「誰から?」
「あ、今の人?私の許婚」
「……はぁ?」
口をポカンと開けたまま固まる彼。
「な、なんだよそれ?聞いてないんだけど」
「うん。正月、実家に帰った時にね、いきなり紹介されたの」
言おう言おうと思ってはいた。だけど彼は就職やら引っ越しやらの準備で忙しく、会える機会も少なかった。
「マジで?」
「うん。ダメ?」
「いや、ダメとかって問題じゃなくて」
彼は今日、大阪へ行ってしまう。私は無事卒業できたものの、就職浪人。
「優くんがダメって言うなら、この縁談断るけど」
再び固まる彼。
「って言うかお前、親の決めた縁談なんか素直に受けんのか?」
「その人お金持ちなの。それにね、先方の親が市議会の人で、実家との付き合いなんかもあって、無碍に断れなくて」
「結婚…しちゃうんか?」
声が心なしか弱々しい。
「嫌?」
「だから、嫌とかそう言う問題じゃなくて」
「そう言う問題なんだってば!なんで分かってくれないの!」
叫んでしまった。自分でも驚いてしまうくらいの大声で。一瞬、周囲の人達からの注目を浴びるが、もう私は止まらない。今この時になって、こんなに好きだったんだって気付くなんて。馬鹿だ、私。
「み、彌久」
「好きなんだってば…」
確信がなかったから?…違う。怖かったんだ。友達でいられなくなるのが。
「ごめん」
「……ぇ?」
今度は私が固まる番だった。
「ごめんな。今まで気付けなくて」
何かを叫びたいけど、そのムカツク優しさに言葉すら失う。
「正直、何て答えたらいいのか…」
ただの友達のままでもずっと傍に居られると信じていた。いつかきっと私のこの気持ちに気付いて、振り向いてくれるだろうなんて…。
『お下がり下さい。十八番ホームより新大阪行き最終列車、のぞみ九十五号が発車いたします』
ざわめきが消え急に静かになったプラットホームに、発車のベルが鳴り響く。
「向こう付いたら、手紙書く」
やがて、ベルが鳴り止む。黙っていると、何かを言わないと私……。
『はいお下がりくださいドア閉まりまーす』
ふいに涙が零れ出した。胸が苦しくて息が詰りそうで。
閉まるドア。その向こうで唇が動いた。彼が何て言ったのか。その答えは遠く離れていった。