第35回1000字小説バトル Entry29
○月○日、今日店に変な客が来ました。ニ人組で灰色の作業着を着ていました。しかも泥で大変汚れています。私はすぐさま危険人物と判断し、店に入ろうとするところを呼び止めました。
「い、いらっしゃいませ。どういうご用件でしょうか」
「ベールのレンタルをお願いしていたんですけど」
ベール? そんな電話あったっけ……と思いながらドレスから一番遠い席に案内する。
今日の店内では二組のお客様がドレスの試着と写真撮影をしていました。一人は紫のカクテルドレス、もう一人は白のウェディングドレス。どちらのお客様も美しい。それに比べてこの人達は何でしょう。一人は長靴で一人は地下足袋!
「あの、ベールとおっしゃいましたが、どのようなベールを?」
二人顔を見合わせて「二千円の、一番安いのをお願いします」
なんと! 一番安いのだと。ハレの日の衣裳をケチるなんて。
「私達予算があまりないんです」
ワタシタチ ヨサンガ アマリナインデス?
もしや、このまま駆け落ちでもするのでしょうか。駆け落ちなんかされて変な噂がたつと大変。これを阻止するには……値段を吊り上げるしかないわね。よーし!
「三千円です。断固三千円!」
「えっ、ニ千円からと聞いたんですが」
「いーや三千円からしかありません」
「どうする?」「困ったねえ」
作業員達は相談を始めました。私はそっと席を離れ、チーフに相談に行きました。話し合いは続いています。きっと明日から食費を百円減らして三千円のを借りよう、とでも言っているのでしょう。
「チーフチーフ! 怪しいニ人が駆け落ちするんです! この際一気に五万円に値上げして諦めてもらいましょうか」
「まあ、意地悪はだめよ。ニ千円でいいじゃない。但し貸すのは仮衣裳合わせのサンプルにしたまえ」
チーフ……。なんて好いアイディーアなの!
私は笑顔でニ人の前に戻りました。
「ニ千円でよろしいですわ。おほほほ」
「(二人もつられて)おほほほ〜」
三人の高笑いがつるりとした壁と天井に反射しまくりました。
「ではどうぞ」
私がベールを手渡すと、作業員達はまるで初めて見たかのように驚いていました。きっと感動したのでしょう。メーター五百円の布を三等分しただけというのは秘密です。
その後、作業員達を玄関口まで見送りました。階段を降りていく後姿を見届けてから背を向けましたが、振り返るとニ人は見慣れたピンクのドアの向こう側に消えていくところでした。