第36回1000字小説バトル Entry24
イノコリジは噴火の予兆を察知した。一刻も早くこの状況をニヒトピポウに伝えなければならない。およそ14606ティケタ(時間の単位)周期で起こる噴火の前には必ず空が急に明るくなり、すぐに薄暗くなる。そしてもっとも顕著な予兆として、島を構成する二つの大きな山の間隔が広がり、その間にある噴火口がわずかに盛り上がる。そうなると28ティケタ以内に噴火が起こる可能性は限りなく100%に近い。予兆を察知して的確に避難すれば噴火の危険は避けることができる。噴出物を食料としているイノコリジ達にとって、噴火は生きていく上でも欠かせない現象なのである。二人はたまたま火口の右側にいたので右側の大きな山の陰に避難した。左右に別れているときは左右の山に別々に避難する。家財道具を持たない彼らの避難はちょっと急ぐだけで簡単に完了する。島にはもうひとつ小さな山があり、そちらに避難しても噴火による直接の危機からは逃れられるのだが、噴火に前後して必ず巨大な水柱が天に向かって吹き上がる場所があり、非常に危険である。実際、ティケンティトはその水に呑まれていなくなった。
噴火が終わると空の上に巨大なオーロラが現れ、不思議なことに噴出物のほとんどがそのオーロラに吸着されてなくなってしまう。その後はるか上空で大洪水を思わせる轟音が響き渡れば避難解除の目安となる。念のためもう一度空が明るくなり、やがてもとの暗黒の世界に戻ってから彼らも火口近くに戻り、その複雑な地形の奥ひだに残された噴出物を無心に食い始める。再び1万数千ティケタの平穏が訪れたのだ。
イノコリジ達が避けなければならないもうひとつの災害が鉄砲水だ。まったく、この島はうまくできていて、鉄砲水のときには噴火口の中に避難することができる。火口の中の温度は平均して摂氏36・4度、少々暑いが我慢できない温度ではない。
イノコリジもニヒトピポウもこの島に生きることを幸福だとも不幸だとも思わない。島から出たことのない二人は噴火のたびに心の中でつぶやくだけである。
「またフンか…」