第36回1000字小説バトル Entry4
みたび、雨だ。
天気が悪くてすまんな! 俺の名前はキリン。今は捨て猫をやっている。俺がこのダンボールハウスに投げ込まれてから、いままで96人がここを覗き込んでいった。この俺様がどれだけ魅力的かわかるだろ?
一度目の雨がやんだ時だった。34人目の来訪者、八百万が一人、道草の神が、俺の頭をなでながら言ったんだ。
=百番目にお前を見つけたものが、おまえの運命を決めるよ=
奴が言った百人目は目の前だ。俺の心臓は待ちきれず、最高に高鳴っている。
「仔猫だ仔猫」
「お〜、たまんねぇ!」
人間が三人、俺の前で立ち止まった。一人の人間が俺の頭上に赤い傘を傾ける。黄色い傘をさした二人目はその後ろからキャピキャピと覗き込んでいた。三人目は一番遠くで、青い傘の下から、うかがうように俺を見下ろしている。一気に三人! 99人目! あと一人!
「やめなよ、ヒロ。そんな汚い猫」
遠巻きに眺めていた三人目が何かをいうと、俺に傘を差し伸べてくれた人間の顔色が変わった。俺は人間の言葉が解らないが、ほめ言葉か悪態か、くらいは雰囲気で感じ取れる。この青い傘の人間、百人目じゃないとはいえ俺に傘をさしてくれるこの人間に、何を言ったんだこのやろう!
「汚いけどさぁ、ゆり。かわいいじゃん。こんなに一生懸命わめきちらしてさあ」
黄色い傘の人間が、おもちゃを見つけた犬のような顔をして、いとおしそうに俺を見つめてきた。
怖い。
俺の抗議の声は思わぬところで、思わぬ方向に作用してしまったようだ。
「くだらない。ヒロ、いつまでそうしてんの? 濡れるよ」
悪口の人間が少し口調を強くして何か言った。赤い傘の優しい人間は、なごりおしそうに俺を見た。だがやがて、先に行ってしまった二人を追いかけて雨の向こうに消えていった。あの人間の、少し寂しそうな目が、俺の脳裏に焼きついてしばらく離れなかった。あの人間が気になって仕方なかった。これまでの96人も、98人目、99人目にも無論、こんな気持ちになったことはないのに。
「あ〜いたいた。くそ〜雨の日にかぎって電話入んだから」
俺を現実に引き戻したのは、百人目の声だった。
百人目。
ついにこの時が!
「こいつも最終的には処分になんのかなぁ。動物を助けたくてこの仕事選んだのに。仕事は処分だけだかんなぁ。求人もっとよく読めばよかった」
この人間が俺の運命を決める!
「首輪してんのか。名前は、ロングネック? なんじゃそりゃ」