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第36回1000字小説バトル Entry47
自分の腕の上にカッターの刃をあてるたび、僕は、欲望の波に自分の気持ちをさらわれてしまう。
今朝で、三回目だ。
人生という階段に登り飽きた自分は、今度はその階段を下りたくなっていた。
自分は、まだ三十歳という始まりに近い階段だが、世の中の時間についていうことが出来なくなったのだ。
この人となら幸せに生きていけると思っていた人には裏切られ、転職したばかりの会社を都合のため辞めさせられた。
最近の出来事で幸せだったのは、運転免許がゴールドカードになった事だけだった。
だが、そんな事は社会の身勝手な時間によって流されていた。
しかし、不思議なことに、居場所の無くなった時間に、僕はまだ、未練があるのか、自分の中の欲望という感情が生まれるのだ。
そして、自分の達成されていない欲望を探し出そうと心の扉を開いているうちに、自分は何故、カッターの刃を腕に押し当てているのかが分らなくなり、我に返った僕は、銀色の刃を鞘に引き戻すのだった。
人にはそれぞれの人生があり、そして、同じ道を歩む事は無いのは、自分でもわかってはいるが、生きているうちに、表には出せない自分の中の隠している不満はみんなの心の中に住みついていると思う。
みんな平等に幸福、不幸が訪れて来る事も理解できるが、人によっては、60歳を過ぎてから幸福の周期が来る人もいると思う。
その考えが無いとも言えず、その人は、60歳までは不幸の周期が続くという事になる。
これでは、不平等ではないか?
僕は、そんなくだらないことを考え始めた時に、自分の不幸の周期と協奏してしまったのだ。
友人、家族、医者。いろいろな人に助けを求めたが、自分の望んでいる答えは返って来る事は無く、自分の悪い考えの方が膨らんでしまった。
そして、今、僕は今日の朝の繰り返しをしている。
一度、我に返ると、一週間はその考えから離れる事が出来た僕も、とうとう、数時間で同じ行為に走っているのだ。
自分の中で、助ける事が出来なくなった苦しみは、誰にも止められる事無くカッターの刃をクリーム色の鞘からカチカチと押し上げた。
今、自分の腕の上にカッターの刃があたっている。そして、思いとどめる事の出来なかった自我に逆らう事無く、右手にもたれたカッターは人間の細胞を守る皮膚を切り開いた。
次の瞬間、少し黒っぽく濁った赤色の液体が腕に広がり、床に垂れて円になった血痕を見て、僕は、守らなければならない人生の中の交通ルールを守った。
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