第36回1000字小説バトル Entry7
本日ニ時五十五分に、小生、時計収集家の時田氏に誘われて屋敷を訪ねた。大小様々な時計を埋め込まれた絢爛豪華な飾門をくぐると、其処は異世界、ワンダァランドである。
ROLEXやIWCなどのスゥイス高級時計から、ドイツのジーン、アメリカのハミルトン、果てはファッションブランドのカルティエ・ブルガリ・グッチなど、ありとあらゆる時計を集めも集めたり、その数、数千点。
一体に、何処のどの部屋が、如何なる機能を持って使用されているのか。どれが寝室で、どれが客間なのか、只々、時計の装飾に溢れ、その奇観たるや魔界の園に遊ぶが如し。
小生は約束通りの時間に、目の前に推参したはずだったが、奇人時田氏の機嫌は頗る悪い。
「ヤァ、時田君。どうだ」
「嫌、残念だが、十五秒遅いよ。十五秒と云えば、是は当に致命的な遅刻だ。さて、君の同僚であるマスコミの面々は此方か?」
「紹介しよう」
小生が振り返って、後ろのカメラマン、記者を指差したところ、
「嫌」と時田氏が手を振る。「失礼ながら、君の今の遅刻で、方々を誰何する暇はなくなった。もはや時間は迫って居る。早速、本題に入るとしよう」
と堪え性もなく続けた。「私は世界中の時計を集めて数十年にも及ぶ時計コレクタァの第一人者である。それは自他共に認める処。が、集めるだけではどうにも我慢できなくなってしまった」
「其れは存じている。最近では工房を作り、職人を雇い、数々のオリジナール時計を作り出して居るとか」
「然り。そして、此処に方々をお招きしたのは他でもない。我が最高傑作が誕生したからだ。この場を其の披露式と致したい」
と云いながら、氏は腕時計を確認した。
「さァて、時間です。得とご覧あれ!是の歴史的瞬間を!」
すると、ボオン、ボオン、ボオン、と屋敷中の時計が一斉に鳴り出し、其れが寸分も違わぬテンポで音を合わせた。と、同時に一同は見たのである。
時田氏の目玉が飛び出すと共に、其の顎が外れたように開くと、中から鳩が出てきて三度お辞儀した。タキシードが捲れ、胸の扉が開いて、鳩に合わせるかのようにラッパを口にした兵隊人形が続いた。
驚くべし。時田氏は自らが鳩時計となって仕舞ったのだ。
当に究極の時計コレクタァ!
一同、あまりの驚きに其の帰路、蹌踉として歩が進まぬ。
時田氏の満足そうな笑顔の凄みよ!
思い出すだに、悪夢の中に投げ込まれたような錯覚に囚われざるを得ないのである。