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第37回1000字小説バトル Entry1
夕べも眠れなかった。今夜も眠れそうにない。
天井に蜘蛛が大きな巣を作った。下から寝転んで見ると、それは綺麗な八角形をしている。黒く、体の節に黄色の模様が美しい彼は八角形の真ん中で、ただじっと獲物を待っている。
だが、彼は巣を作ってから半月ほど獲物にありつけていない。いつ彼が餓死してしまうものかと気が気でなく、そのせいで夜も眠れないのだ。彼が部屋に現れてから、僕は布団を巣の真下に敷き、彼が獲物を捕らえる瞬間、つまり幸福の瞬間を彼と共に感じたいと思い、彼の監視に一日のすべてを費やした。どうしてもこの部屋から離れなければならない時には、彼に虫が近寄らないように蚊帳を張るのだ。彼だけに幸福が訪れるのは許せない。
ある日、部屋に蛾が侵入した。彼が蛾を見て微笑んでいるのが僕にはわかった。蛾は白い毛に包まれ、白い粉を撒き散らしながら八角形の巣に近づいていく。そして、蛾は獲物となった。喜ぶ表情も見せずに彼は闇雲に蛾にかじりつく。彼が獲物を捕らえたこの時、僕も幸福を味わうつもりだったのに、虚しさだけが僕の心に積もっていく。
羨ましい。僕も彼と同じ幸福を感じるために巣を作ることにした。裁縫箱に入っていた糸にデンプンのりを絡め、彼の巣と同じ八角形を作った。それから数日間虫は一匹も来なかった。幸福が訪れない事に腹を立てることも幾度かあったが、彼の冷静さを学び、僕も巣の下で修行僧のように黙って獲物を待った。
ある夜、暖かい空気に乗って一匹のアゲハ蝶が部屋に舞い込んだ。月の光に蝶の羽ばたきが輝き、僕は見惚れていた。あの美しさを僕は欲しいと思った。蝶は黒い光を放ちつつ、闇を泳ぎ、僕らの巣に近づいていく。
蝶の黒い羽が、ライバルである彼の巣に吸い込まれそうになった瞬間、僕は彼の巣を引き裂き、八角形の真ん中に陣取っていた彼の黒い体を握りつぶしていた。黄色い液体が僕の手に溢れている。僕はその液に塗れた死体を窓の外に投げ捨てた。そして蝶を濡れた手で捕らえた。僕は幸福に満たされ、気がつくと、美しい蝶を食べていた。
部屋には僕の巣だけが残っている。彼を裏切り、僕は美しいものを選んだ。これでよかったのだと自分に言い聞かせた後、窓の下を覗いてみた。彼が微笑んでいるのを僕は見た。
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