第37回1000字小説バトル Entry15
「長くてもあと半年の命です」
担当医から告げられた運命の一言。そうか、私はあと半年でこの世を去るのか。ドラマで何度も見たことのあるシーンを体験するなんて思ってもいなかった。
なんで私はこんなにも落ち着いているのだろう。人生の終わりを告げられたのにちっとも怖くない。まだ実感していないだけか。いや、違う。私は嬉しいのだ。こんなつまらない人生に終わりが来るのが嬉しいのだ。
毎日汗水を垂らして働いても、雀の涙ほどの給料しかもらえない。しかも、その少ない金を妻と娘に取られて、私の元には殆ど返ってこない。
私は家族の奴隷なのだ。
大学からの大恋愛を経て結ばれた妻も、今となってはただの豚だ。私と顔を合わせる度に愚痴を言ってくる。
「あんたなんかと結婚したのが失敗だったわ」
それはこっちの台詞だ。
あんなに可愛かった娘も、今では私のことを親とさえ思っていない。去年の春に高校を卒業して以来、仕事もせずに街を遊び歩いているだけだ。最近は外泊が増えて、まともに話もしていない。注意しても聞こうともしない。
「うるさいなぁ。私にはかまわないでよ!」
子供なんて作るものじゃない。
残った時間は自分の為にだけ使おう。
これからの事を考えるとワクワクしてくる。二十年近く家族の犠牲となって働いてきた私に神様がくれたプレゼントなのかもしれない。
ガチャ!
勢い良くドアが開いて、私の病室に誰かが入ってきた。
妻と娘だった。
「あなた……」
担当医に話を聞いたのだろう。二人とも表情が険しい。奴隷がいなくなるのがそんなに残念か?
「お父さん……」
娘が涙を浮かべ、私の事を見つめている。私がいなくなるとお前も遊んで暮らしていけなくなるからな。いつもは毛嫌いして私に近寄ろうともしないのに今日はどうしたというのだ。
「お父さん!」
娘が叫んだ後、声を出して泣き始めた。それにつられてか妻も泣き始めた。
なんで泣くんだ? 二人とも私が居なくなった方が良いのだろう。いつも、邪魔だと言っているじゃないか。
何故、泣くのだ。
何故、悲しむのだ。
私が死んだ方が嬉しいのだろ!
二人とも泣き続けている。
そういえば、妻も娘も泣き虫だった。娘がまだ小さい頃、夜鳴きが治らない娘を背負いながら、妻も泣いていたっけな。
なぜか、あの頃の光景が甦ってきた。
残りの半年。あの頃にような三人に戻れるかな。
そう思った瞬間、私の頬にも涙がこぼれた。