←前 次→

第37回1000字小説バトル Entry32

提言

「どうも」
 電車に乗っていた四谷京作に声をかけて来たのは、小さな子供だった。
「子供……?」
「はい、ボクは非力で幼くてそれ故に世間の汚らしい害毒に染まらず権威に媚びず的確な指摘が出来る純真無垢な子供さんです」
「――なんかこう、純真無垢さが感じられないんだけど」
「何ですって? それじゃ、パスポート見せましょうか、パスポート!」
「……ムキになる辺りが子供っぽい反応だけど、何かなぁ」
「理解して頂けたところで――」
 子供は四谷の顔を、びしりと指さした。
「子供を代表して、あなた方大人にもの申す!」
「大人の代表は俺でいいわけ?」
「論点をすり替えないでください!」
「すり替えてないって」
「大人はいつもそうだ、嘘吐きだ!」
「嘘は言ってないだろ」
「もうたくさんです、本題に戻ります!」
「あー、はいはい」
「まず一つ、電車の中で新聞を大きく広げないで下さい。ウザイです。ジャマです!」
「あー、まあ確かに」
「大体、折角広げるならスポーツ新聞のエロ記事でも表にしとけってんですよ。子供がジャイアンツのオーナーの愛憎劇とか、丸山の北米ツアーの成績なんて見たくありませんよ」
「読んではいるのかよ?」
「それから、ボランティア! 年寄りの手を引くとか、席を譲るとか、遠慮しないでやりゃあいいんですよ、やりゃあ」
「でもちょっと勇気が湧かないんだよなあ」
「かーっ、これだ」
 子供は肩をすくめ、首を横に振る。
「なんだよ、アメリカンジェスチャーなんかして」
「ちょっとの勇気、図々しさがなくて、この生き馬の目を抜く国際社会でどうやって勝ち残れるんです!」
「ボランティアってそういう動機でやるもんかね――かく言う君はやってんの?」
「失敬な! 子供が自分の得にもならない事をするわけないじゃないですか!」
「……それ、胸張っていいことなのか?」
「まあ、そんなこたぁどうでもいいんです」
「いいのかよ!」
「それよりもなによりも選挙、アレなんですか!」
「投票率低いもんなぁ」
「投票率なんて知ったこっちゃないです。何で自民党以外の政党に入れるんですか!」
「いや、何でって……」
「今の日本を作ったのは自民ですよ? 今の日本に弓引くつもりですか? 天に唾する行為ですよ、それは!」
「……それは、理解出来るな」
「でしょう!」
「うむ素晴らしい、君は立派な子供だ!」

 画面が切り替わった。
『子供の純真な目は、大人を見つめています――公共広告機構です』
 えーしーー。

←前 次→

QBOOKS