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第37回1000字小説バトル Entry37

思惑

 良一はいつになく上機嫌で家を出た。
 新婚3ヶ月目。新妻の真理子は思っていたよりも料理上手で、今朝のオムレツは絶品だった。糊のきいたワイシャツも磨かれた靴も妻が家事に手を抜いていない証拠だ。
 結婚して良かった、と良一は思う。
 不満があるとするなら、それは少ない自分の給料だ。真理子が上手くやりくりをしているのだろうが、二人が生活するのに精一杯で余暇を楽しむゆとりのない程度しかない。
 が、それも今日解決する。
 自家用車に乗込み自宅前の単線道路から幹線道路へとすんなり出た。運転の最中も、意識しないと口の端が自然にもちあがる。
 良一はパンがあまり好きではない。しかし妻には朝食はパンというこだわりがある。遠慮してか真理子の朝食時間は良一が出勤してからが日課だった。
 もうそろそろかな、と良一は時計を見る。
 昨晩といっても午前を回っていたので正確には今朝になるのだろうが、遅い帰宅をした良一は起きて待っていた妻を気遣って先に休ませた。一人、用意された夕食を取り、風呂に入り就寝したのだが、床につく前、なにか飲みたくて冷蔵庫をあけるとお茶のボトルの横にある牛乳に気がついた。この家で牛乳を飲むのは朝食にパンを取る真理子だけだ。
 ふと、結婚直前に悪友から貰った奇妙な薬のことを思い出した。
「心臓麻痺で死んだように見えるらしいぜ。しかも、時間が経てばたつほど薬も検出されにくいんだと。試しに一つやるよ。」
 はじめは冗談だと思っていた。半信半疑で少量水槽に入れてみた所、熱帯魚が全滅してしまった。それ以来怖くてしまいこんでいた薬。それを牛乳にいれておいたのだ。
 保険をかける相手ができて本当に良かった。
 快適な生活に満足はしているが、女は別に真理子でなくても良い。
 目前の信号が黄色に変わる。良一はブレーキを踏んだがスピードが全く落ちない。
 驚き、焦って何度も何度も繰り返す。
 努力虚しく赤信号に変わった交差点に良一の車は突進した。
 危機的状況で良一は別のことを考えていた。
「私よりも良一さんに何かあったら、私……」
 真理子の不安を解消し、信用を得るためにも保険は夫婦で入ったのだ。
 側面から大きなトレーラーがクラクションを鳴らしつつ突っ込んでくるのが見えた。

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