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第38回1000字小説バトル Entry1

計算可能

 車は高速を東へと走る。
 リアシートでは七歳の息子が眠りこむ。十年落ちのリッター車は、時速100キロ を超すと振動と騒音をより増したが、それも連続なら子守唄に近づくようだ。
 陽は西に傾いている。前方へと伸びる影が、夜に向かって走り続けている事を教え ていた。実家を出た時には、陽は前から射していたのに。

(ここで問題です。夜はどれほど足を早めましたか)

 地球の半径が6400キロ。円周は掛ける2掛ける3の一割増しで4万くらいか。 日本の緯度だと、円周はその半分よりも小さかろうから2万キロ以下だ。二十四時間 で割れば……800ぐらいだろうか? 減らして700キロ。これが太陽の時速だ。
 速度計は100キロを指す。つまり今、自分は日没を一割以上は早めている。暗算 の精度からすれば、答えはその程度だろう。
 後で正しく計算するのも一興だが多分やるまい。ちらと後ろに目を遣る。息子はす うすうと眠っている。

(問題です。この子は生まれて何度眠りましたか)

 365掛ける7で……2500日+α、それに誕生日まで3ヶ月ほどだから90日 足す。違う。9ヶ月を足して2800日ほど。昼寝とか入れて一日平均1.8回眠っ たとすれば、2800の倍の一割引で5000回以上か。

(問題です。この子があなたと居られるのは、あと何日ですか)

 そんなのは、あいつ次第だろう。
 ルーフの窓を僅かに開き、ポケットから煙草を出した。火を点ける間、視線が前方 から離れた。

(問題です。前の車にぶつかる可能性は)

 前との車間は50メートルほどか。車が一秒間に進む距離は、100掛ける100 0メートルを3600で割る、200割る7として30メートルくらい。火を点けよ うとした時に前の車が急停止して、視線を戻すまで二秒とするなら、多分衝突してい る。
 前の車が急停止する確率までは、勘定できない。まあ自分がハンドルを離し、アク セルべた踏みで目を閉じれば100%死ねるのだろうが。こんな事ぐらいだ、世の中 で確実に知れるのは。

(問題です。いま何問目ですか。今までの人生、何問、正解できましたか)

 知るものか。

 前方からは夜が迫る。およそ一割増しで迫ってくる。
 息子は後ろで、およそ5000と何回目かの眠りを貪る。灰皿を開き、煙草を突っ 込む。およそ2秒、前方が留守になる。計算できない確率によって事故は起きない。 車は高速を東へと走る。一日が終わる。何回目かの一日が終わる。

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