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第39回1000字小説バトル Entry7

駆け抜けろ!

 金木犀の香るグランドが、朝日を浴びて耀いている。
 万国の旗が色とりどりに飾られ、白い白線が眩しく光っていた。

「さあ、今日は頑張るぞー!」
 息子の運動会に父兄の参加があること知った一週間前から、私は毎朝このグランドにやって来て、タンゴ(犬)とランニングをした。土の堅さやコーナーをチェックした今、沸き上がる期待に胸が高鳴った。

 家に戻り朝食を摂ると、まず準備体操を始めた。
「パパ、ずいぶん張りきってるじゃない。今日は猛にいいとこ見せてね」妻が弁当を作りながら言う。
「パパ、頑張ってね。僕期待してるから!」息子が嬉しそうに跳ねる。
(ムフフ、俺の凄さを見せてやるぜ!)

 グランドは超満員の熱気で沸き上がっている。
 そろそろ『親子障害物リレー』が始まる頃だ。私の筋肉が耀いて見えた。
(よし、いける!)
 トラックの中に息子と並んで駆け足で入る。期待に胸が躍り、大声で叫びそうになった。
 二手に別れると、反対側の息子に手を振った。

『パーン』
 第一走者が飛出した。平均台を駆け抜け、跳び箱を越え、ネットを潜り、がむしゃらに走ってくる。 私はその男の子に叫ぶ「よし! 行けーっ!」
 順調に駆け抜ける赤と白の帽子。どちらも息を呑むほどの接戦だ。
 反対側に息子が並んだ。
(頑張れよ猛! パパの所に飛び込んでこい!)
 襷を受け取ると息子は勢いよく駆け出した。敵の選手も息子を追いかけて懸命に走る。十メートルほどの差が微妙に詰っていく。
「猛! 振り向かずに走るんだー」
 私は息を弾ませコースに立った。息子が襷を外してやって来る。胸が高鳴り私の身体にスイッチが入った。
「ズウォーッ!」
 雄叫びを上げて息子から襷を受け取った。風を切る音が耳元で騒がしい。ハードルを蹴倒し、パンに食付くと、次の梯子潜りに向う。会場のどよめきが空気の壁となって私に押寄せる。
(ここを抜ければゴールだ!)
 勢いよく梯子に飛び込んだ。
(思ったよりも狭い……ヤバイ! 抜けられない!)
 私の腹が梯子に引っ掛かり抜けられない。相手の選手がスルリと抜けていく。振り向いた選手が笑っていた。
(畜生ーっ! ぬ、抜けられない……)

 競技が終了した。肩を落とした私に妻と息子は優しかった。
「パパは頑張ったよ」そう言ってくれる妻や息子に申し訳なかった。

夕暮、タンゴを連れて近くの土手に寝ころんだ。紫色の空が虚しかった。
夕陽が沈んでいく。寝ころんだ私の腹に夕陽が沈む。

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