「筋肉痛?」「ちがう、腱鞘炎」 勉強のしすぎで、と付け足してから、救急箱の中の湿布をひったくってリビングを出た。ゲームをする時だけかける青縁の眼鏡を指であげてから、背中ごしに彼は言う。「無駄な努力だけはするなよ」 大事なテストの前日にプレステ2やってるのに、人並み外れた成績を残す。彼は我が家の頭脳であり、自慢の長男だった。 日本一の難関大学に進学することも、この小さな街で知らない人はいないだろう。このテの噂は30分で5キロ四方に伝わるのだ。町中を巡ったそれは決まって最後、私の元に返ってくる。「お兄さんはいつもすごいのね」という言葉に変わって。 去年も一昨年もその前も、どんな努力を積み重ねたとしても私は天才の妹だった。 机の上に置き去りにされた数学のテキストが生緩い風にめくられて、その音が私をぼんやりとした思考から呼び覚ました。「これ、もう使わないからやるよ」と、天才が置いていったもの。最初から使ってないくせにと独り言を言って、いくらか色あせた表紙をめくる。 余白にびっしり書込まれた計算式。ラインマーカーを引きすぎて逆に見にくい解説。天才、あんたも私と同じ、じゃないか。 そして、最後のページに小さな字で書かれた言葉がテキストの中身と噛み合わなすぎて笑った。『数学は考えるな、感じろ。3月20日 兄より』「朝食に駅弁食べたいから始発で行くよ」 そんな言葉に似合わない、送り出す者の寂しさがこの街をすっぽりと包み込んでしまったような朝。彼の荷物は少なかった。 頑張れ、と父のように激励するほど私は偉くもなく、母のように密かに涙するほど寂しくもない。それでも思い浮かぶ言葉が、あった。「あたし今、李白の気持ちがわかる気がする」「なんだそれ」 故人西のかた黄鶴楼を辞し、のあれだよ。兄貴。「孤帆の遠影碧空に尽き、か」 そんな絵になる景色じゃないだろ、と呟くとくるりと向きを変えて彼は歩き出した。 とけ残った道路沿いの雪が春の日差しをうけてキラキラ輝いている。どこまでも続いているように見えるこの田舎の風景が途切れたとき、どんな世界が広がっているのだろうか。それはきっと彼の目にしか見えないものであり、私の目でしか確かめられないものだ。 相変わらず筋肉も贅肉もついていない、細いだけの背中が朝靄の中に消えていく。そして私はもう、その背中を追いかける気はない。 私たちは今、それぞれの道を歩きはじめた。
※作者付記: 故人西のかた〜と孤帆の遠影〜は李白の「黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之くを送る」より抜粋しました。ひよっこですがここで勉強させてください。
吹雪は数日に亘り、山小屋に閉じ込められた登山隊の食料はすでに尽きていた。「もはや生きて朝を迎える事はできまい。ここにビデオカメラがある。みんな家族にメッセージを残すことにしよう」 隊長が提案すると、男たちはこわばった顔で頷いた。順番にカメラが回され、ひとりずつ遺言を記録した。 ところが最後の青年がカメラを手で覆った。「僕は結構です」「最後のお別れなんだよ」 青年はため息をついた。「実は僕は、途中、皆さんと別れて自殺するつもりでした。あなたたちと違い、僕の人生には何も良いことがなかった。信頼した人には必ず裏切られ、試験にはことごとく落ちる。就職すれば会社は潰れ、おみくじを引けば必ず凶……」「不幸な人生だったんだね」 男たちは心から青年に同情した。「しかし、ここで悔いを残してはいけない。最後にメッセージを贈る家族はいないのかね」「いません」「友達は?」「それもいません、僕はどこまでも天涯孤独です。ただ、どうしてもとおっしゃるのなら……」 青年はしぶしぶカメラの前に立った。「……となりの部屋の京子ちゃん、いつも夕食を作ってくれてありがとう」「なんだ、ちゃんと女友達がいるじゃないか。それとも恋人かい?」「別に愛しているわけじゃありません。そのくらいなら、文学部の尚子ちゃん、いつもノートをありがとう。スナックの里見さん、いつもデュエットありがとう。八百屋の明美ちゃん、いつもソーセージおまけしてくれてありがとう」「なんだ、なんだ、けっこうもてるじゃないか、君」 隊長の明るい声に瀕死の男たちの顔が少し和んだ。誰かが笑いながら口を挟んだ。「まあまあ、別に怪しい関係でもないだろうし……」「当たり前です。愛のない、ただの肉体関係にすぎません」 事もなげに言い放って、青年は続けた。「もうちょっといいですか? ……喫茶店のレイちゃん、いつもコーヒーありがとう。コンビニのしおりくん、いつも避妊具ありがとう。ソープランドの……」「おいおい、まだ続くのか……」 隊長の口調は、あきらかにうんざりといった感じだ。青年のメッセージを聞く男たちの顔は、だんだん元のように暗く沈んでいった。「君はやっぱり死んでもいいかもね」 誰かがぼそりと言った。 こうして、雪山の登山隊は驚異的な生命力で、後三日間を生き抜き、ひとりを除いて全員が無事救助された。 彼らの「死んでたまるか」という叫び。その命のともし火とは?
俺が階段を上っていると、カップルが上から降りてきた。彼らは腕を組み、お互いにしか聞こえないような程度の声で会話していた。俺は、意識的に、ただしそれを悟られないように、彼らの方から顔を背けて彼らの横を通った。 街路樹が赤や黄の衣をまとう季節の昼休みの公園。人はほとんど居なかった。俺はベンチの上に腰を下ろし、コンビニの袋をがさがさと開いた。大量生産され、電子レンジで機械的に温められた弁当が姿を現した。この弁当がこれから俺の腹に入り、俺の身体を動かす燃料になる。なんだか自分がロボットになったような気がした。その燃料は俺の身体をゆっくりと温めていった。すべてを食べ終えて、ホット缶コーヒーを一口飲んで、躊躇い気味にタバコの封を切った。タバコに火をつけ、煙を大きく肺に送り込んだ。 タバコを止めたのはいつだっただろう?と、煙に痺れる頭で少し考えてみた。そうだ。たしか、結婚したときだ。そう思い当たって、タバコの味は苦さを増した。妻となった彼女に窘められて止めたんだった。 そう言えば、簡単に止められたような気がする。止めてイライラするようなことも無かった。喫煙を再開したときにそう思えるのが少し悲しかった。そして、俺がタバコを吸うことを咎める人は、もういなかった。 タバコの灰が風にあおられて、スーツに落ちた、俺は少し慌てて立ち上がり、その灰を払い落とした。足元で何か動くものがあった。寒さで動けなくなったアシナガバチだった。黄色と黒の勇ましい姿も、翅を動かすことさえままならない状態では、より一層悲壮感を増す結果になっていた。 アシナガバチが飛ぶことはもう無いのだろう。彼は、ここで寒さに凍えながら土に還っていくことになる。俺はアシナガバチが羨ましく思えた。アシナガバチは、俺よりも早く彼女に会うことができるのだ。そうか、だから俺はタバコをまた吸い始めたのか。俺は大きくタバコの煙を吸い込んだ。 俺は、早くお前に会いたいよ。 でも、少しの間待ってくれないか。男が一人、待っている女の前に現れるのに手ぶらって訳にいかないじゃないか。こっちでお前のために何か土産話の一つでも作っていくから。 残念だけれど、俺はまだ「飛べない蜂」じゃないんだ。俺はまだ飛べる。ただ、「飛ばない」だけなんだ。 俺は、根元まで燃え尽きたタバコを落として、足で踏み潰した。 そして、また、新しいタバコに火をつけた。
彼女との初めての旅行は東京だった。 彼女が決めた。いつも僕に任せっきりの彼女が、珍しく僕と東京に行きたいと言った。 嬉しかった。でも、少し不可解だった。 そう言った彼女は、聖女のように悲しそうに見えたから……。「先生」――と彼女はいつも呼んでいた。「先生」とはフラワーデザイナーを養成する学校の講師で、彼女はその教え子。「先生」はプロとして働いた経験はないものの、ずっと有名デザイナーの元で助手をやっていた。その経歴を買われて養成学校に赴任。その初めての教え子が彼女だった。「先生」は彼女の才能を認めてくれた。そして「先生」に教えを受け、彼女はデザイナーとして才覚を解放させていった。 普段、寡黙な彼女が「先生」の話をする時は違った。楽しそうだった。 東京に着いて、初めて行った場所は安っぽい雑居ビルの屋上だった。 彼女が導いた。 どうして? と尋ねる前に、彼女は切り出した。「先生……。ここから飛び降りたの」 下を見る。黒いアスファルト。約三〇Mはある。故意でなければ自殺だ。 彼女は滔々と語り出す。二ヶ月前「先生」は自殺し、彼女はその現場に行きたかった事。彼女がどれだけ「先生」を慕っていたか。どれほど心の支えになっていたか。そしてどれぐらい愛していたか――その思いを。 だが、空しい響きだった。 それは彼女の妄想の産物だからだ。 最初から「先生」などいない。そして彼女は才気溢れるフラワーデザイナーの卵ですらない。 すべては妄想。 本当にいたのはデザイナーを挫折し、なんのコネもないのに卒業後デザイナープロダクションに就職出来ると宣伝する詐欺紛いの養成学校の講師を務め、良心の呵責から精神を病んだ――優しい一人の女性。「おい」 声を掛けられ、我に返った。ずっと目を開けていたはずなのに、その時初めて大きな夕日が眼前にあることに気付いた。ビルの谷間から覗く落陽は、額縁に飾られた一枚の絵画に見えた。 ゆっくりと振り向く。ビルの警備員が立っていた。「屋上は立入禁止だ。困るんだよ。ちょうど二ヶ月前……」 知っています――。 屋上の出入り口に向かって歩き出した。途中振り向くと「彼女」はまだ夕焼けを眺めていた。綺麗。死ぬにはいい場所だ。本気でそう思った。「僕は帰るよ。……君が残した宿題を片づけないと」「彼女」は僕を見ると、聖女のように笑い、そして花弁になって散った。 僕の旅は漸く終わりを告げた。
つつじが足元を彩り、欅の緑が日傘になる講堂脇のベンチはお気に入りの場所だ。講義なし、天気良し、という絶好の午後はここに来ると決めている。入学以来二度目の春の空気を私は深呼吸した。「綾乃ちゃあん」 文庫本を開いてすぐ、五月晴れの上空から私を呼ぶ声がした。蜻蛉眼鏡をかけ直して見上げると、巨大な四枚の三角翅をはばたかせ、蝶子が私めがけて急降下してきた。ばふーんばふーんと音を立てて低空でホバリングしながら、蝶子は大きな黒目をくるんと回して笑顔で横ピース。私は舞い散る燐粉に口元を押さえ、座ったら、とベンチを指した。 蝶子は光の加減で色の変わる翅をたたみ、乱れた髪を整える。「喉渇いちゃった」 蝶子は鞄からペットボトルと渦巻のストローを取り出す。口をつけて飲みゃあいいのに。私はくるくるとストローを昇るお茶を見ながら思う。 飲み終えた蝶子はペットボトルとストローを無造作に鞄に入れた。彼女は何でも鞄に放り込む。蝶にそんな習性があるのか私は知らないが、ブランド物の手提げ鞄はまるではずれの福袋だ。ケータイやら財布やらお菓子やら彼氏と撮ったプリクラやら。そう、蝶子には彼氏がいるのだ。こんな粉っぽいズボラ女のどこがいいというのか。「綾乃ちゃん中に入ろ」「やだよ」「だって最近、蜘蛛多いのよ。あたし虫キライ」 虫はあんただよ。 諦めた蝶子は勝手に話し始める。例によって彼氏のノロケ話だ。仕方なく本を閉じて聞いてるふりをする。生返事が二桁になった時、大きな黒目をまっすぐ向けて、蝶子がいきなり私の手を握った。「ねえ、部屋に誘われたらどうしよう」「…はあ? おぼこじゃあんめえし」「やーだオヤジコメント。いつだって初めての人とはドキドキするわよ。綾乃ちゃんも宮城君の時そうだったじゃない」「見てたみたいに言うな!」 顔が火照る。蝶子は片頬で笑うと、殊更に声をひそめてみせた。「実はそれだけじゃなくて、いるのよ、部屋中」「何が」「カブトムシ」 ちょっと見モデルっぽい優男の彼氏は、昆虫マニアだったらしい。「別れな。変な注射される前に」「やだ」「そいつ絶対蝶子の見た目だけで選んでるよ」「いいの。見た目を少しも気にしない男なんて自分勝手な人に決まってるわ」 蝶子はベンチの後ろで翅を揺する。「そのうち絶対、彼にあたしの良さをわからせてやるんだから」 拳を握る蝶子の翅に木漏れ日が七色に反射して、何だかとても眩しかった。
ひがしとにし、ふたつのくにが、となりあってありました。 おたがいのくにには、1000づつ、ひとがいました。 くにのさかいめを、おたがいのくにのへいたいがひとりづつ、まもっていました。 あるひ、ひがしのくにのへいたいが、つよいかぜにあおられてころびそうになり、うっかりくにのさかいめをふみこえてしまいました。 にしのへいたいは、とてもやさしいへいたいだったので、こうかんがえました。「やや、ひがしのくにのへいたいが、くにのさかいめをこえたぞ。1ぽをゆるしては、2、3ぽとせめこんでくるだろう。そうなれば、ぼくのこどもたちや、ともだちがころされてしまう」 にしのへいたいは、ひがしのへいたいをうちころしました。「これで、ぼくのこどもたちや、ともだちはぶじだ」 ひがしのへいたいには、ふたりのやさしいこどもがいました。 ひがしのへいたいがころされたことをきいて、たいそうかなしみました。「かわいそうに、おとうさん」 おとうとはなきくずれます。「でも、しんでしまったものはしかたがない。これからのことをかんがえよう」 あにが、いいました。「おとうさんは、にしのへいたいがころしたそうだ」「そうか。そんならんぼうなへいたいが、もしひがしのくににやってきたら、ぼくらのこどもたちやともだちがころされてしまうにちがいない」「みんなをまもるために、そのにしのへいたいをころそう」 ふたりは、ぐんたいにはいり、へいたいになって、そのにしのへいたいをころしました。 にしのへいたいには、ふたりのやさしいこどもがいました。「なんてことだ、おとうさんがころされてしまうなんて」「うらまれていたおとうさんがころされるのは、しかたない。でも、ぼくらのこどもたちや、ともだちにはなんのつみもない。まもらなければ」 ふたりは、ぐんたいにはいり、へいたいになって、そのふたりのひがしのへいたいをころしました。 ひがしのへいたいには、それぞれふたり、あわせて4にんのやさしいこどもがいました。 4にんは、ふたりのにしのへいたいをころしました。 4にんのひがしのへいたいをころしました。 4にんのにしのへいたいをころしました。 8にん。 8にん。 16にん。 16にん。 32にん。 32にん。 64にん。 64にん。 128にん。 128にん。 256にん。 256にん。 489にん。 にしのくにのひとたちは、へいわにくらしました。
岬から飛んだ。太平洋に突き出した、自殺の名所で観光地の、椿の咲き乱れるナントカ岬。落下速度は、想定していた通りの猛スピード。ただ、なかなか下に着かない。これは想定外だった。投身自殺はちっとも一瞬の出来事なんかじゃない。後悔したり、恐怖したり、なんでもやりたい放題の時間がたっぷりある。岩にくだける波を見ながらそんなことを思う。ふと、すぐそばに人の気配。顔を右を向ける。僕と並んで、ハゲのおっさんが飛んでいた。いや、落ちていた。スカイダイビングのときみたいに、手足を広げて、腹を下に、こう。おっさんが落ちながら、大声で僕に言う。大声なのは、僕らの体が空気を切り裂く音がすごいからだ。「あんた自殺なんかしちゃダメだよー!」僕も大声で答える「あなたも同じでしょうー!」ハゲのおっさんは、一差し指を立てて、チチチとやる。そしてまた大声で、「生きるのに……は要らないが、死ぬには……が要るー!」「何が要るってー?」「理由だよー!」「りゆうー!?」「そう、理由ー!」そんなやりとりをしてても、僕とハゲのおっさんはいっこうに下に着かない。まあ、そんなことを今はどうでもいい。僕はおっさんに訊く。「あなたには理由があるんですかー!?」「私には理由があったー!」「あったーって、なんで過去形なんですかー!?」「私は既に死んでいるからだよー!」「はあ〜!?」ハゲのおっさんが、親指を立てて、自分の上を指す。僕は首をひねって上を見た。無数の飛び下り体が、空中を落ちてくる。そして、下。やっぱり無数の飛び下り体。男や女や、若いのやそうでもないの。「みんな、ここで飛び下り自殺した者達だよー!」「魂ですかー!?」ハゲのおっさんは頷く。「私達は永久にここで落ち続けるんだー!」「ここで死んだ者はみんなですかー?」「そうだー!」僕は急に気が遠くなった。どうりでいつまで経っても下に着かないと思った。この僕はただの魂で、体はもうとっくに下まで落ちて死んでしまっていたんだ。「それは違うぞー!」おっさんが更に大きな声で否定する。「見たまえー!」おっさんは僕らの真下を指差す。さっきはなかったあのデカイのはなんだ?「クジラだー、クジラの死体だよー!」おっさんがそう言った瞬間、僕の体は一気に加速した。あっという間もなかった。クジラの死体に激突し、体まるごとめり込む。……ふう。腐りかけのクジラの死体に埋もれて、僕は何もない空を見上げた。
今日は1日に7回以上欠伸をする生物たちが滅ぶらしいとのこと。 この六畳間に置いてあるテレビからそんなニュースが流れる。窓からはのっぺりとした陽光が、肌寒い薄緑の畳に差していて気持ちがいい。組み立て式のアルミラックがべたべたするのは、2日前に缶ジュースをぶちまけてからだ。触感は最悪だが、匂いはそんなにきつくないのでほっとくことにした。隣にいる友人は昨日の夜突然酒を持ってやってきた。近くの酒店が週末特別セールをやっていて、持ってきたビール6本セットが半額だったそうだ。「欠伸7回はしねぇなぁ」 友人が鼻をほじりながら大の字になって呟く。「俺もだな」「どうやって滅ぶのかねぇ」「いつも通りだろ」「ああ、そうか」 友人はむくっと立ち上がって遮光カーテンの陰にゆっくりと隠れた。「す〜っと、こんな感じか」「そんなんじゃ全然す〜っとしてねぇよ」 二人して馬鹿笑いする。 俺たちは今日もメシを食って、明日も寝床につく。玄関のチャイムは相変わらずぶっ壊れてるから、仕方なく玄関に大学ノートかパチンコ屋の広告の裏面(真っ白いのが多い)を使って、『御用の方はドアを直接ノックしてください』と張り紙でもすることにしよう。俺は几帳面だ、と思う。いちいちそんなことするヤツを見たことが無い。俺は几帳面だ。「見ろよ、このアナウンサー消えかけてるぜ」「ああ、そうだな」「こんなポマードべったりの7:3アナウンサーでも欠伸するんだな」「しかも1日7回以上か」 消えかけたアナウンサーは平然としている。明日からまた別のアナウンサーがこの時間帯のニュースを担当するんだろう。驚くことじゃない。まぁ仕方ない。 明日はまた何かしらの条件下で生物が滅ぶらしい。何とか最後まで存在を保ったアナウンサーが、滅亡予報を流してニュースは自然に終わった。結局今日もたいしたニュースは流れなかった。そんなたいしたニュースなどそうそう流れはしないだろうが。 俺が滅ぶ時はどんな条件に当たるのか。几帳面な、酒好きな、安月給な、ぽっちゃり好きな、漬物嫌いな。思い当たることがありすぎて考えるのも面倒になる。痛いのだけは勘弁だ。「……でもけっこういるんだろうなぁ」「何が?」「1日に欠伸7回するヤツ」「ああ、まぁな」 少し空気が冷たいが、洗濯物がよく乾くいい日和だ。どうせならこういう時に滅びたいもんだが、こんな日和で滅べなくともそれはそれでまぁ仕方ない。
定刻よりも早く起きたので、早めに家を出た。冬晴れの空を眺めていると、駅までの道を少し遠回りしたい気分になった。先月越して来たばかりなので、新しい街が珍しかった。大通りから脇道に入って坂を上り、そして下ると警報音が聞こえ、踏切に出た。 踏切は二つの警報ラムプを交互に光らせ、ゆっくりと竹のアームを傾け、歩行者の通行を遮断していった。早朝のことでもあり、止められたのは私だけだった。頭上のスピーカーからは、けたたましい警報音が流れ、両方の鼓膜を震わせた。 暫らく待つと、銀色の電車が右から左へもの凄いスピードで通過して行った。郊外とはいえ、駅の近くには違いないはずなのに、その特急か快速かわからない高速電車は「こんな田舎の駅に用はねえや」と言わんばかりに通過した。テレビで見た悲惨な電車事故の写真が頭の中をよぎった。 電車が行き過ぎたにも拘らず、竹のアームは上がらず、警報ラムプは光り続け、警報音の鼓膜への刺激は継続していた。 隣にイタリア製のスクーターに乗った僧侶がやって来て止まり、スタンドを下ろした。ヘルメットを被ってないのに、頭がツルツルなので違和感がない。「反対側からも来るのか」 思った通り、今度は左から紅いストライプの二階建て電車がやって来た。今度の電車は、ゆっくりと進み、行楽地へでも向かうのか、笑顔を浮かべた二階席の家族連れとことごとく目が合った。幼児らは元気に手まで振っている。「いい気なもんだな」 出がけに無言で不燃ゴミの袋を差し出した寝ぼけ眼の妻の顔が浮かぶ。娘はもう、起きただろうか。紅いストライプの二階建て列車は通過し続けた。 お座敷車両があり、大きな窓越しに宴会が繰り広げられている。大画面にカラオケの歌詞が映し出されて、手拍子まで聞こえてきそうだ。食堂車両では晩餐会が繰り広げられ、弦楽隊が弓を振るっている。 車両はフィリピンバーからキャバレーへと連なって、やがて病室車が続く。白い包帯を巻いた患者たちのうつろな視線が繰り返す。最後に天国のような車掌の特別車両が連なり、長い車列は終わりを告げた。 警報は、なお暫らく鳴り続けたが、やがて収まり、警報ラムプが嘘のように消え、竹のアームがゆるゆると上がりはじめた。 僧侶は、袈裟を整え、スクーターのスタンドを上げて、ひとつ高いエンジン音を上げると、踏切を軽快に横断していった。竹のアームから花びらがこぼれ、春の訪れを告げた。
「桜」。それは見るも美しい日本の花。「月」。それは夜闇を照らす一筋の灯。「女」。それは天下の帝も魅了する妖艶な生き物。「大喜利」。それは芸人達が凌ぎを削る修羅場。第一問.大事な桜の木を折ったブッシュ大統領が父親に言った一言とは?答.「サクラキレくて儲カリマンネン」第二問.それを聞いた父は拳骨をした?答.「儲カラン儲カラン、スグ散ッテマイヨルデ」第三問.桜前線が待ち遠しい季節ですが、花見は何の為にやるんですか?答.人より早く「つくつくぼーし」をする為。第四問.遠山の金さんが最後の最後まで正体を明かさないのは何故ですか?答.金さんも「つくつくぼーし」がしたい。第五問.「つくつくぼーし」とはどういう意味ですか?答.これを見てもシラを切るってェのかい? の意。第六問.夏といえば海の季節ですが、敢えてアフリカに行って何をする?答.オアシスを探す。第七問.ベタつく汗を一瞬で飛ばす画期的なアイテムとは?答.防水タオル第八問.雨ニモ負ケズ風ニモ負ケズ夏の◯◯ニモ負ケズ……。◯◯に入る言葉は?答.ジェロ第九問.海水浴やプールに行く観光客の目的は何ですか?答.水着の素材を確かめたい。第十問.夏の話題にも飽きてきたので、「月」を使って俳句を書いてください。答.如月や 秋の夜空に 花火かな第十一問.月見バーガーの次にマクドナルドが出した秋の大ヒット商品とは?答.読書汁第十二問.月の裏側は一体どうなっていますか?答.鬼の形相第十三問.秋風に たなびく雲の 絶え間より 漏れ出づる月の?答.さやけさやけさ第十四問.「鏡餅」で、あいうえお作文を作ってください。答.開運を祈る 賀正の気分で みかんを乗せて もっとはばたけ 力の限り第十五問.節分には豆まきをしますが、豆まきをしないと、何がどうなると言われていますか?答.昔からの言い伝えでは福が逃げるというが、実際、地球は回っている。第十六問.バレンタインデーの由来は結婚前の男女の交際を認めたローマ法王が暗殺された日でしたっけ?答.多分な第十七問.おっさんの反対語は何ですか?答.断る第十八問.では、おばはんの反対語は何ですか?答.しつこい第十九問.お疲れのところ恐縮ですが、ギャグをお願いします。答.3!、3!、4!、8!8!……ニジュウロック〜。第二十問.お疲れ様でした。答.あほにものいうとんか。第二十一問.最後に自己紹介をどうぞ。答.遅っ!!