第82回1000字小説バトル



エントリ作品作者文字数
01伝言のぼりん1000
02(作者の希望により掲載を終了いたしました)  
03ヤリクチロヨラ1000
04逆転した街鬱宮時間1000
05コーチョーセンセイの鞄青野岬1000
06THE漫才プロジェクト小笠原寿夫1000
07ツールドフランスるるるぶ☆どっぐちゃん1000
08夕の鶴ごんぱち1000
09春の祭典とむOK1000
10二人の磁界ヘビトンボ987
11未来探偵【掟破り編】越冬こあら1000
12包括ぼんより1000
13世界完璧図書館探訪記アナトー・シキソ1000
14更科のおっちゃん棗樹1000
15残暑 〜トキノオワリ〜神崎翔1000
 
 

バトル開始後の訂正・修正は、掲載時に起きた問題を除いては、バトル終了まで基本的には受け付けません。

QBOOKSでは、どのバトルにおきましてもお送りいただきました作品に
手を加えることを極力避けています。明らかな誤字脱字があったとしても、
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エントリ01  伝言     のぼりん


 仕事帰りのバス通りで、ある青年が大変な事故を目撃した。
 路線バスが、突然、路上で爆発炎上したのである。中から転び出てきた瀕死の男が、たまたまその青年を見つけて大声で呼びとめた。
 青年は思わず駆け寄った。
「救急車が来るまで、安静にしていた方がいいですよ」
 と、青年がなだめたが、相手は興奮している。
「お前に頼みたいことがある」
「僕にできることがあるとは思えませんが……」
「極道組の若頭に、ボスが死んだことを伝えてくれ。残された組員は血の気の多い奴等ばかりだ、跡目相続の段取りを手早く済ませなければ大変なことになる」
「申し訳ありませんが、僕はそういう所には……」
「何! 俺の頼みが聞けないというのか」
 突然、男が喚き、懐から拳銃を引き抜いた。青年はその迫力にたじたじとなった。大怪我をしているとはいえ、相手はヤクザ。狂気を含んだ目つきは、人の命を塵よりも軽く思っているようである。
「わ、わかりました、でも伝言とおっしゃられても、メモも鉛筆も持っていません。なにしろ、僕、記憶力がとても悪いので……」
「要点だけでいいんだ。ボスのバスが爆発した、と。救急車がもうすぐ来るから、急いで頼む」
「ボスのバス……ですね」
「そうだ、しかもガス爆発だぞ。犯人はバスガイドに化けていた。なかなか手の込んだ殺しだ」
「ボスのバス、ガス爆発。犯人はバスガイド……」
「ついでにバスガイドはとてもブスだ」
「そんな事まで伝えるんですか」
「なんだか、いらいらする奴だな。これは外せないだろう、犯人を特定するための重大な情報だからな。ブスなバスガイドなんて、お前、今までで見たことがあるか?」
「そういわれれば、バスガイドはたいてい美人ですね。男が制服に弱い、というのも一因かもしれません」
「そんな薀蓄どうでもいい。時間がない。とにかく簡潔に伝えてくれよ。それに俺はとても気が短いんだ」
「ええと……」
「ぶすバスガイドの、ボス、バスガス爆発、だ。脳みそかっぽじって良く聞け」
「……いや、かっぽじるのは、耳の穴では……?」
「ええい、も一度。ぶすバスガイドの、ボスバスガス爆発……テキパキ言ってみろ」
「反復します。ぶす、バスガイドのボス、バスバスはつ……すみません、失敗しました」
「もう一度言え」
「ぶすバスガイドの、ボスボス爆発……ひえ〜」
「ちゃんと言え!」
「ぶすぶすガイドの……焦らせないで〜」

短気なヤクザは、たまらず拳銃の引き金を引いた。






エントリ03  ヤリクチ     ロヨラ


 蕗子先輩の笑顔をもう一度拝みたい、もう、いちど。いとど、ど、もう一度、ド・お、がみたい。がみたい。がみ、がみ、ゆえ、がみ、サマ。だから、だからこそ、ああ、神様。
 ええ、参ってます。正解です。間違ってません。ほら、ちょっとずつ、すこしづつ、蝕まれているでしょ。これがヤリクチ。一気にやったらバレてしまうから、すこしづつ、ね。これがヤリクチ。人生は腹立たしい罠なのかしら? ほほ。罠なのかしら? ほほほ。

 わたし、ちやほやされて育ってきました。並じゃないです。ちやちやほやほやって感じで、チヤチヤ、チヤガールのチヤ、或いはもうつやつやで、すなわち艶艶、色っぽい感じでね、ほやほやの方はといえば、出来立てホヤホヤの湯気がたっちゃうようなニュアンスでね、そうね、ちやほやっていっても、チヤ艶ホヤホヤのほうが適切なくらい、わたしはちやほやされて育ちました。外づらだけは極めて良かった両親にね。

 だからわたし他人のウソ見抜けません。蕗子先輩、幽霊みたいに綺麗なんです。お母さまがプロの洋画家ですって。是非お友達になって男の悪口言いまくりながらお買い物したかったんです。蕗子先輩のまわりには複数の守護精霊がいて良い香りと上品をただよわせ、偶然という名の好運を常日頃ひきよせています。「蕗子先輩と友達になれるんじゃない?」サークルのやつらに言われました。でもウソでした。だまされました。あいつら、わたしが蕗子先輩に心酔するのを見てあろうことか、事前に蕗子先輩に「あのこ同性愛っぽい」って言ったのよ。蕗子先輩、だまされるような人じゃない。わたし同性愛じゃない。でもわたし自身に悪意がなくてもわたしに纏わる人間たちに悪意があるならば、きっと守護精霊たちもあの女には近づくなって蕗子先輩にささやくでしょうよ。そうしたらもう永遠に蕗子先輩も守護精霊たちも、わたしに頬笑みかけてはこないのよ。外づらが良い両親には気をつけた方がいいの。偽りの言葉ばかりを投げかけて、子供にウソを見抜く術をおしえてくれないから。だってそうよね、自分たちが子供にいう言葉がウソだってバレたら、これは大変なことだもの。

 そう、参ってます。きっと正解。ほら、ここよ。ここがちょっとずつ、すこしづつ、ね。蝕まれているでしょ。一気にやったらすぐにバレるから、すこしづつ。これがヤリクチ。ほほ。人生は腹立たしい罠よ。たぶん、ずっと前から、わかっていたのに。






エントリ04  逆転した街     鬱宮時間


 「お風呂、いかがデスカ」
 恐らく三十歳は過ぎているだろう女が、上手いのか下手なのか分からない日本語で僕に声をかける。苦笑するしかなく何とか逃げるように立ち去るしか今の僕にはできない。歩いても憂鬱になるだけだ。車に戻ろう。
 この街のコインパーキングの値段は昼夜逆転している。十数分も歩けばたどり着くオフィス街なら今の時間は普通、一時間で百円の料金だ。それなのに僕は今、車を二十分で百円のコインパーキングに駐車し、煙草の煙で充満した車内で起きているのかわからない状態で手前の狭い道路を歩くまばらな歩行者を見ている。四十歳は超えているだろう小奇麗にした女を両脇に抱えた中年男性、集団の酔っ払い、二人連れでヘラヘラと笑う若者。ここを歩く人間は大体において何を目的としているのかが一目でわかる。たまに、トレーナーにジーパンなんて地味な格好をした若い女も通る。
 あまりにも目に余るものがあってふと夜空を見上げた。星なんて見るようなロマンチストではないにしても、夜空くらいしか視線を向けられる場所はなかった。雑居ビルに挟まれたここからは星の代わりにネオンが見えた。
 『ホテルラスベガス』
 多分、一世代は前に青春を生きたような人間がつけた名前だと思った。建物自体、お世辞にも新しいとはいえないし、内装、設備、サービスは最近建てられた流行のホテルに劣る。なぜそこまで詳しく知っているかと言えば、何年か前に当時付き合っていた彼女と一度だけ『休憩』で入ったことがあった。
 一時半を過ぎたところで僕は車から降りた。
 少し歩くと、『サレム』がある。雑居ビルの一階に店を構える『サレム』は、下手なカラオケが外まで漏れる周りの安っぽい飲み屋とは違い、もの静かな雰囲気を出していた。『サレム』だけが異空間のように僕には思えた。
 『サレム』の前で呆然と立ち尽くす僕に、さっき声をかけてきたばかりの女がまた馬鹿の一つ覚えで声をかけてくる。しつこいその女に耐え切れずにその場を立ち去ろうとまたコインパーキングの方に歩き出した僕の背後から軽快なスニーカーの足音がした。顔だけ振り向いてみるともう、嬉しそうに僕の右腕に抱きつく君がいた。
 以前、少しなら金くらいなら貸せると言った僕に、他人に迷惑はかけたくないと言った、大学の研究室の君がいじらしい。
 助手席に君を乗せ、三百円を精算機に入れた。
 無人のオフィス街を抜け、君の部屋へ向かう為に。






エントリ05  コーチョーセンセイの鞄     青野岬


 娘の中学校の入学式は、あいにくの雨だった。
 会場である体育館にはたくさんの人々がひしめき合い、騒然とした中にもどこか華やいだ空気が溢れている。しばらくすると生徒達の演奏するブラスバンドにあわせて、真新しい制服に身を包んだ新入生達が入場してきた。
「新入生の皆さん、そして保護者の皆様方、本日はご入学おめでとうございます」
 新入生が席に着いたことを確認すると、ひとりの初老の男性が壇上へ上がった。この学校の校長先生だ。
 しばらくファインダー越しに話を聞いていた私は、校長先生の顔に見覚えがあることに気がついた。
「あれは……吉沢先生?」
 吉沢先生は、私が中学三年生のときの担任だ。だいぶ白くはなったけれどウェーヴのかかったクセのある髪、日に焼けた浅黒い肌。そして何よりも変わっていなかったのは、ハリがあってよく通るアルトの声だった。
 まさかその吉沢先生と、こんな形で再会するとは思ってもみなかった。先生の記憶が頭の中で像を結んだ瞬間、淡い恋心を抱いていたかつての自分の姿が鮮やかに甦った。

 式典が終わり帰ろうとしていた娘を引き止めて、私は校長室を探して歩いた。雨も上がり、窓の外が明るくなっている。同じ地域にある公立校のせいか、校舎内の雰囲気は昔とそれほど変わってはいなかった。
「あ、あった。ここだ」
 トントンとノックをすると、中から「はい、どうぞ」と返事があった。聞き覚えのあるアルトの声だ。娘は「あたしはここで待ってるから」と小声で言い、私と一緒に中に入ろうとはしなかった。
「あの、私、前に金田中学校に在籍してたんですけれど……」
 そう告げた瞬間、先生の顔がぱっとまばゆい笑顔になった。
「金田中の生徒か! そうかそうか。ええと君の名前は……」
「旧姓は関本です」
「そうだ関本だ。昔とあまり変わってないみたいだなぁ」
 先生は「そうかそうか」と同じ台詞を何度も繰り返し、顔をくちゃくちゃにしながら目を細めた。
「先生、あの鞄……」
 ふと目をやった本棚の隅に、見覚えのある古い鞄を見つけた。
 そうだ、あの鞄。
 放課後の誰もいない職員室で、ひとりそっと抱きしめた先生の鞄だ。
「もうボロボロだけど愛着があってな。こうなったら定年まで使うつもりだよ」
「そうですか……あの鞄は幸せ者ですね」
 長い年月を越えて、今、過去と未来が繋がる。
 窓から差し込む麗らかな春の陽射しが、よれよれになった先生の鞄をやさしく包んでいた。






エントリ06  THE漫才プロジェクト     小笠原寿夫


 タップダンスが16ビートを刻みだし、やがて頭に田園風景を浮かびだす。そして、パントマイムはあたかもそこに大きな物体があるかのような様相を呈す。漫才の醍醐味である、会話のキャッチボールとそのリズム感は徐々に凄みを帯び、サビヘ。
「や〜、最近、おっきい事件がたて続けに起こったから、どのニュース見てええかわからんわ!」
 歩調をあわせるように、相方が合いの手を入れる。
「それやったらええ番組があるで〜!」
 何かしら、その後のオチを期待する客を尻目にブレイクダンスを始めるバックダンサー達。ジャズミュージックと共に機能するその漫才プロジェクトは成功へと走り続ける。
「何があんの〜!今やったら報道ステーションとかか!」
 別段、客は笑う様子もなく、ぼんやりとそのライブを見ている。
「違う違う!そんな君、怒られるで〜!」
 ここで、パントマイムは壁に閉じ込められたアクションを取り、相方が叫ぶ。
「そんなことより、もう少し近づいて喋らんか〜?!」
「え〜?!何?!もっと大きい声で言うて〜!!」
 ジャズの音が大きくなり、更に漫才師の声は遠くなる。走ってきた相方が耳元でこそこそっと囁く。
「………。」
「そない言わんでもええがな!!」
 耳をそばだてても聞こえるか聞こえないかの音量である。
「今、それが出来へんから困ってんねやろがい!!」
 ジャズは最大音量となり、タップダンスとの息もぴったり。それに輪をかけるように、パントマイムは大きくなる。バックダンサー達はゴスペルを勝手に歌いだし、絶妙のバランスで漫才師達は取り残されていく。
「………ぶち壊したら………しばくぞ。」
「やっと喋ったと思ったらそれかいな、君!!」
 待ってましたとばかりに特大の花火が夜空ではじけ、客の目線は空へと上がる。漫才師そっちのけで、プロジェクトは進行していく。それでも相方は耳打ちをやめない。
「…………………。」
「それを言うならめかぶとろろや!!!もうええわ!!!」
 漫才師以外のパフォーマーたちに拍車がかかり、舞台にかかった『THE漫才』の看板が小さく見える。尚も相方は何かぼそぼそとつぶやくように言っているが、もはや何を言っているのかわからない。
「なんでやねん!!俺らの声の方が邪魔になってるがな!!」
 相方の表情と勘だけを頼りに、ツッコミを入れてみたが、なにやら不満顔。ツッコミ間違えたかと思ったが早いか、飛んできた一発目の右で客がドッと沸く。






エントリ07  ツールドフランス     るるるぶ☆どっぐちゃん


 美術をやっている友人のインスタレーションの取材に行く。崖の上に立った一軒家で好きなことをやって好き放題で金になるのだからなんとも羨ましい。
 私自身も若い自分は随分とそういうことをやったものだ。随分とそういうことをやったが何一つものにならなかった。小説。音楽。舞台。絵画。全てが駄目であった。全く金にならなかった。ならなかったばかりかそれで貧乏になった。今も貧乏している。つきあった女全員にヒモと呼ばれ、女房にも逃げられた。実に惨憺たる有様である。今も三文美術ライターの傍ら趣味で小説なぞも書いているが全く駄目である。自分では随分うまく書けているなあ、とても斬新で、私は才能があるなあ、と思うのであるが、が、駄目。全く金にならぬのである。常に貧乏している。
 道は一本道で、どこまでもまっすぐ続いている。とても良い天気、頗る快晴でとにかく順調である。アクセルは踏みっぱなしで、実にすいすいである。それもそのはず今は車なぞ流行らない、皆が自家用ジェットの時代であるからな。上空を皆が音も無く飛びまわっておるよ。新々々三種の神器という奴か。私は買えない。皆は買う。インターネットでショッピングでありますよ。
 インターネットといえば、全世界のコンピュータが止まったらどうであろうか。実際問題、人間の情報処理能力ではネット上に展開される情報を処理することは最早適わぬのではないのだろうか。無限に存在する選択肢の前に右往左往するだけでは無いだろうか。という感じに実にクラシカルなあんばいのSF小説を考えて、自分はこの手のものが非常に好きなので、非常に良い気分に浸り、さあクライマックス、人類への警鐘、というところで車が止まった。
 突然ボンネットから煙を吹いて、車が止まった。
 車を降りて歩き出す。さようなら、メルセデス・ボルボの青い車。
 道は一本道。どこまでも真っ直ぐ。どこまでも快晴。私は叫ぶ。誰かいないのかい。
 誰か居ないのかい。誰か、いないのかい。
 丘を登り、振り返る。ジェット機の群れがびゅんびゅんと忙しく、その銀色の軌跡でまるで青空を切り裂くかのように飛び回っている。それは非常な高速で、非常に美しく、昔見たビデオを思い出した。電子顕微鏡でどこまでもどこまで物を拡大していく、ただそれだけのビデオである。
 詳しくは説明しないが、まあ機会があれば見てみると良い。
 あれはなかなかに、興味深いものであるよ。






エントリ08  夕の鶴     ごんぱち


 罠に獲物はなく、雪に埋もれかけた数枚の羽が落ちているだけだった。
「かかった形跡はあるようだが……暴れて逃げたか」
 ため息をつきながら、猟師は罠を仕掛け直し、帰った。

「――今帰ったぞ」
「けほっ、お帰りなさい、お前様」
 咳をしながら、猟師の女房が寝床から起き上がる。
「飯の、支度をしますね。こほっ」
 女房は残り僅かになった野草を樽から出し、囲炉裏で煮えている稗粥に入れた。
「すまん、今日も獲物は」
「謝らな、いで下さい」
 痩けた頬で、女房は笑う。
「今日はたまたま日が悪かっただけだで、明日はきっとかかりますよ」
「いいところまでは、いったようだ」
 猟師は懐から一枚の羽を取り出す。
「まあ、綺麗なこと」
 女房は微笑む。
「何の羽で、ございましょうね?」
「これは、鶴だな」
「鶴でございますか」
「ああ。これほど柔らかく美しい羽を持つ鶴なら、さぞかし高く売れたろうに」
「本当に綺麗……布に織り込んでも良いのではありませんか?」
「おお、そうだな、それは面白い。もしも獲れたらその時は織ってくれるか」
「ふふふ、けほっ」
 笑い、咳き込みながら、女房は羽を髪に挿す。
「獲れますよきっと」
 白い、白い鶴の羽よりも白くなった女房の顔の色に、猟師は思わず目を伏せた。

 一週間が過ぎた。
「今……帰ったぞ」
「お帰り……お前、様」
 女房は囲炉裏に這い寄る。
「寝ておれ寝ておれ」
「ですが、ぜぇ……せっかく、帰って来たお前……様を」
 ただ喋るだけ、いや呼吸をするだけで、女房の胸は嵐のように鳴る。薬もなく、栄養も取れない。病状が回復する道理もなかった。
『あの鶴さえ、獲れていたなら』
 猟師は声に出さずに呟きながら、火を強くして、稗粥を煮る。
「すまん。何ぞ良いものを喰わせてやりたかったのだが」
「お前様……」
 女房は微笑んで、髪に挿した鶴の羽に手を触れる。
「その……気持ち、だけで」
「まあ待っておれ」
「うれ……」
「明日こそ」
 猟師の言葉が詰まる。
「明日……こそ」
 涙が、鍋にこぼれ落ちる。
 薪が爆ぜた。
 二人分の稗粥の、くつくつと煮える音だけが、やけに大きくなった。

 猟師は黙って立ち上がり、外に出る。
 夕日に、山が燃えるように赤く染まっていた。
 ぼんやりと猟師が立ちすくんでいると、遠くの空から一羽、鶴が飛んで来るのが見えた。
 鶴の羽は美しかったが半分近く抜けている。それからよたよたと、落ちそうになりながら、猟師の頭上を飛び去って行った。






エントリ09  春の祭典     とむOK


 長い髪を束ね、眼鏡をかけ直して包丁を睨む。刃こぼれ一つない三徳包丁の滑らかなカーブに心が研ぎ澄まされるみたい。
 狭いアパートの台所は、まな板一枚置くと料理する場所もない。なので春野菜山盛りのざるはシンクの隅に。蒸し鍋とフライパンはガスコンロにスタンバイ。
 さあ、始めよう。半身のキャベツを櫛切りにして芯を取る。しゃくっと気持ちのいい音で、うす緑の葉が割れる。にんじんは皮をむいて7ミリ幅の輪切り。きちんと面取りすると形が崩れない。カリフラワーとブロッコリーの固い茎は短めに落とす。
 手早く刻んだ野菜を蒸し鍋に放り込み、点火。新聞の隙間から何か言いたげな夫を、背中のオーラで黙らせる。今日は私の技を黙って見てて貰おうか。鍋の中で湯気が回って野菜を包み、耐熱ガラスのふたがみるみる曇る。火力自慢のガスコンロだ。去年無理して買ってよかった。
 この間にもうひと工夫。アスパラガスは斜めに切ると綺麗な色合いになる。スライスした赤と黄色のパプリカは艶やかなボディラインでサラダに色を添えてくれるはず。三色の野菜が信号のように、まな板に三つ小さな山を作る。おっと忘れてた。菜の花はざっくり、適当に切る。
 フライパンに菜の花とアスパラを放り込んでふたをする。菜の花の葉の水気だけで蒸すと、味が逃げない。
 冷蔵庫に貼ったタイマーが高らかに鳴った。
 鍋のふたを開けるとふわりと甘い香りがした。フライパンの方も頃合いだろう。粗熱を飛ばし、器に盛ってパプリカを散らす。二年前に夫と選んだ淡い色のサラダボウルは、野菜が良く映える。
 名づけて『春の祭典』。手作りフレンチドレッシングでどうぞ。
 ぽくぽくのにんじんを一切れ口に運んだ夫は目じりをふにゃっと落とし、うまい、と一言。当然よ。その笑顔のために頑張ったんだもの。その後続く、結婚以来ちっとも上達しない誉め言葉は聞き流すけどね。
 三年前、新婚早々のある夜。肉食の夫に野菜を食べさせようと、慣れない包丁を振るって、ざっと切った生野菜をレトルトハンバーグに添えた。瑣末に拘らない夫がぽつり「まずい」と言って、それが最初の喧嘩になった。気持ちを伝えるにも工夫がいる。そういうことだ。
 メインのビーフシチューを前に、夫が欣喜雀躍する。尻尾があれば振りかねない、そんな夫が可愛い。
 でも私は自慢の料理にあまり手をつけず、下腹をそっと撫でて思案する。
 さあ、この喜びをどう伝えようか。






エントリ10  二人の磁界     ヘビトンボ


 婚約者が死んで、どれくらいの時が経った頃だろう。彼女の部屋から電子音が響くようになった。
 音源は分かっている。彼女が死んでから電源を入れたままにしているテルミンだ。

 テルミンというのは物理学者でありチェロの名手でもあったロシア人、レフ・セルゲイヴィッチ・テルミンが発明した世界初の電子楽器だ。簡単に説明すると、本体から二本のアンテナが伸びていて、その周りに形成されている電磁場に手をかざし、静電容量を変化させることにより音程を変化させるものだ。弦や鍵盤がある訳ではないので、その音には演奏者の技量や精神状態が多大に反映される。

 しがない電気工であった僕は、彼女の演奏に魅了された。
 出会いは地方の文化会館だった。照明を取り替えている時にリハーサル中の彼女の演奏を聞いて、危うく天井から落ちるところだった。それ程に、その暖かな電子音は僕の魂を攪拌し、惹きつけて止まなかった。

 必死の求愛が実り、婚約を交わした翌日。彼女は死んだ。
 その時の記憶は曖昧だが、あまりにもあっけない死だったことは覚えている。
 僕が悲しみに打ちひしがれ、ただ働いて飯を食うだけの生ける屍と貸した頃、彼女の部屋から電子音が聞こえ始めた。単調で歪な音だが、深夜になると確かにテルミンは音を発していた。
 オカルト好きの友人によると、霊体は電磁波を発する事があるという。
 僕は電子音が彼女の声だと信じ、毎日夜通しテルミンと過ごした。
 彼女に肉体は無かったが、それでも僕は幸せだった。


 ある日、オカルト好きな友人が僕と彼女の部屋を訪ねた。そして彼は誰も必要としていない解説を始める。それによると、テルミンが音を出すのはトラックの無線の所為だという。違法改造した無線が、テルミンの電磁場に影響を与えているのだと。

 本気で人を殴ったのは初めてだった。




 その夜は浴びるように酒を飲んだ。
 酒臭い息でテルミンに話しかけても、彼女からの返事は無く、何の脈絡も無いところで雑音のような電子音を発するだけだった。

 どれくらいアルコールを摂取しただろうか。意識が朦朧としてきた頃、電子音の懐かしい旋律が部屋に響いていることに気付いた。
 いつものような雑音ではなく、それは確かに音楽だった。しかも、この暖かい音は間違いなく彼女の演奏だった。

 アルコールがつくったものでも構わない。僕はただ、この優しい幻覚が覚めないことを願った。






エントリ11  未来探偵【掟破り編】     越冬こあら


 憧れの未来探偵になって二十八年。俺は超ベテランだ。何しろハードボイルドと空想科学のコラボレートなオキュペーションなので、当時は希望者も多く、就職競争も激しかったが、年を追う毎に足元を見る奴や将来を展望する奴らが、もっと堅実な方向に転職してしまい、俺ひとりだけが残されてしまった。

 今朝も俺は、未来帝都を足下に眺めつつ、水陸両用、潜行浮上機能付きエアカー新星号(タイムマシン兼用)に乗って、空中浮遊ビルにある事務所に向かう。
『未来探偵スーパーシャッター事務所』と書かれた縦開きの自動扉を静脈読み取りシステムで開くと、美人秘書型アンドロイドのミスカオルが迎えてくれた。
「お早うございます、ボス。久々に事件です。未来居住区006でロボットとサイボーグが殺されました。詳細は卓上型透明記憶装置に転送してあります」
 アンドロイドとはいえ、ミスカオルは「グッと来るプロポーション」で美人だ。その上、四季を問わずオーガンジー素材の水着を着用している。もちろん俺には絶対服従だ。
 自室に入り、赤外線透視眼鏡付きヘルメットと万能スーツを脱いで席に着くと早速、卓上型透明記憶装置に手を翳して、事件の詳細を左脳にダイレクトインプットした。
 久しぶりの事件は、相変わらずの絵空事だったので、仕方なく俺は、殺された機械と半機械の家族や恋人に思いを馳せて、眉間に無理な皺を作り、真空保温カップの吸い口から苦い珈琲を啜って、雰囲気作りに腐心した。

「お待ち下さい。私が……」
 受付のミスカオルの制止を御約束通り振り切って、科学捜査局の東郷長官が入ってきた。
「シャッター君、聞いたかね。大変な事件だ。既に二人殺されている。連続殺人事件に違いない。マスコミ連中が騒ぎ出す前に、直ぐに解決してくれたまえ」
 長官は、顔を真っ赤にして、まくし立ててきた。
「まあまあ、長官。落ち着いて下さい。まず、事実関係を正確に分析して、推理する。解決はそれからです」
「そんな悠長なことを言っている暇はない。久々の事件なんだから。直ぐに現場に急行し、犯人を捕まえてくれ。タイムマシンを使えば訳ないことじゃないか。ついでに被害者も救出してしまえば、マスコミに叩かれることもない。うん、それでいこう」
「長官、それはやらない御約束じゃないですか。いくら久々の事件だからって、しっかりして下さい」
「しかしもう文字数がない」
「そ、そのオチも使わない御約束じゃあ……」






エントリ12  包括     ぼんより


 町の本屋さんにしては不自然な、いびつな本屋さんを見かけ立ち寄った。
 真四角に切り取られた白い建物。傘入れも入口のマットも無い。店名も無い、駐車場も無い、自転車置き場も無い。細く物悲しいドアの向こうに本棚と本の一部が見えて、平坦な屋根の奥から柔らかそうな毛が何本も束になって垂れている。
「いらっしゃい」
 予想に反する若い女店主。にっこりと笑う顔が歓迎する。私は小さく会釈をして、店内を物色し始めた。
 外観に違わず、店内も真っ白だった。本棚も本も真っ白で一冊手に取って見てみるが、表紙も内容でさえも何も書かれていない。ただ真っ白な紙の束があるだけだ。
「本はお好き?」
 うふふ、といった調子で女店主がゆっくりと訊く。私は店内の異様な雰囲気に体を強張らせた。
「向こうにもたくさん本があるわ。そこはちゃんと色がついてるのよ」
 促された方を見ると目が痛くなるほど、多彩な色彩を放つ本の数々が所狭しと並んでいる。いびつな店内は、ますます異様な雰囲気に包み込まれていく。
「もうすぐよ」
 何が?
「もうすぐ新しい色が本につくわ」
 ぐらりと視界が揺れると、私はそのまま気を失った。


――交わりましょう。
――私があなたと?
――そうよ。
――体が動かないが。
――大丈夫。アナタは何もしなくていいわ。何も考えなくてもいい。
――そうか。
――そう。アタシに全部任せて。
――眠いよ。寝てもいいか?
――ええ。眠ってもいいわ。眠っても。
 母親にすべてを委ねる赤子のように私は。

 狭い。屈葬のように体を縮こまらせた体勢のままどこかに閉じ込められた。周囲は心地良い音と水に包まれている。胎内回帰をはたした、と思ったのは極々自然な思考の流れだった。私はもう何も考えたくなくなった。


 一つの真っ白な本が温度を滞在させ始めた。
 それとともに拍動音と呼吸音が微かに響く。
 女は大事そうにその本を胸に抱え、そっと口づけする。
 同時にその本屋は人の目には決してわからぬほどわずかな縮小をした。
 それはとてもいびつに。
 それはとても厳かに。
 女は胸に抱えている本を丁寧に棚に戻した。
 本の背表紙がうっすらと色付く。
 女の手がそれを優しく撫ぜる。
 満足そうに女はたっぷりと微笑んでカウンターに腰掛けた。


「いらっしゃい」
 何とも若い女性が店番をしている。僕は少しドギマギしながら店内を見回していた。
「本はお好き?」
 急な色っぽい声に顔を真っ赤にしながら、僕は……






エントリ13  世界完璧図書館探訪記     アナトー・シキソ


世界完璧図書館は、チベットの山の上の地下にある。
つまり、山の中(表面じゃなくて、本当の意味での中)にある。
チベットの山だから、それはヒマラヤのことだ。
ヒマラヤは、要するに世界完璧図書館のビルみたいなものだ。
知らない人間が聞くと「まーさか!」と思うだろうけど、まあ、そうなんだ。
世の中「まーさか!」っていうことは意外と多い。
みんな、知らないことを知らないだけなんだ。

世界完璧図書館には山の麓にも入り口がある。
チベット人の番人が二人、ラッパみたいな銃を担いで立ってる秘密の入り口だ。
そこには、コーラの自販機と喫煙コーナーもあって、ちょっとちゃんとしている。
けど、番人二人はコーラは無視して不味いバター茶ばかり飲んでいた。
煙草もその辺で好きに吸っていた。
コーラを飲んで、喫煙コーナーで煙草を吸うのは、俺らよそ者だけだ。
けど実は、この入り口はゴールド会員専用。
ゴールド会員というのは、利用年数が十年以上の会員のことだ。
一般会員は山の上まで登って、山頂の一般会員用入り口から入る。
ひどい差別だが、決まりだから仕方ない。
俺は一般会員だから、低酸素症で頭をガンガンさせながら山頂を目指した。
ケチって地元人のガイドを付けなかったから、危うく遭難しかけたりもした。
ていうか、実際行き倒れになってるところを地元のジジババ夫婦に助けられた。
ジジババ夫婦の埃っぽい家の中で目を覚ました俺は、
「ありがとう」と「バター茶は要りません」と「世界完璧図書館に行きたいんです」
の3フレーズを念仏にみたいに唱えて、ジジババ夫婦を困らせた。
気の毒なことをしたけど、チベット語はその三つしか喋れないから仕方がなかった。
ジジイはマニ車をくるくる回しながら、いろいろ話しかけてきた。
ジジイの言ってることは殆ど分からなかった。
けど、なんとなく、
「世界完璧図書館なんて知らない、ここにそんなものはないよ」
と、そういうことを言っているらしいことは分かった。
俺は、
「そんなはずはない。俺はちゃんと日本を出る前にネットで登録してきたんだ」
と、日本語で反論したけど、ジジイには全然通じてなかった。
ババアは、俺になんとかバター茶を飲ませようと何度もカップを差し出した。
その度に俺は手で制して、
「バター茶は要りません」
と、それはチベット語でちゃんと断った。
で、そんな感じでジジババと過ごしているうちに、俺の観光ビザは切れてしまった。

今はまた渡航費を貯めている。






エントリ14  更科のおっちゃん     棗樹


 橋を渡るときは、ついのぞきこんでしまう。宮無川の水は浅い。コンクリートで固められた川底を薄く覆って舐めるように流れてゆく。最後にそこに立ったのは卒業アルバムの撮影のときだ。クラス全員が靴と靴下を脱いで川の中に立ち、橋を見上げた。水は涼やかな光を放ちながら三十九人の高校生の足のあいだを滑り、白い開襟シャツの肩ごしに青く霞んだ山と空がのぞいた。撮影は十一月だったが示し合わせて夏服を着こんでいるから、写真には初夏の気配が満ち満ちている。そんな記念写真を提案したのは誰だったか、もう顔も思い出せない。急いで橋を渡りきる。俺は更科のおっちゃんに会いに来たのだ。
 おっちゃんは橋のたもとで文房具屋を営んでいる。川上の高校と川下の中学、川向かいの小学校に通う子どもの全部が客だから、更科文具店はその古ぼけた外観とは裏腹に大変繁盛していた。
 十年ぶりの更科文具店は木枠のガラス戸こそ変わってなかったが、店の右半分は白く塗り直され、幼児向け英語教室になっていた。半分に切られた看板をぼんやり見上げていると、いきなり引き戸が開いておっちゃんが顔を出した。
 十年前より白髪が増えた。頬骨に皮膚が張りつき、眼窩はくぼんでますます目つきが悪くなっている。口の端に黄色いものがこびりついている。手にはコンビニの卵サンド。朝飯らしい。嫁さんや二十歳前後になっているはずの娘二人はどうしたのか。そもそも一家の居住スペースだったところは英語教室になっている。口を開くことさえためらっていると、
「おう」
 犬にでも言うようにおっちゃんが言い放った。それでやっと、「こないだは、うちの親父が」と頭を下げることができた。俺の頭の上のおっちゃんは「ああ」にも「ぐう」にも聞こえる呟きを残して奥に引っ込み、レジ袋を持って現れた。そのまま表に出てアイスケースの蓋を開け、中にぎゅうぎゅうにアイスを詰めて、突っ立っていた俺の手に押しつけた。「いいわ」と後ずさると、「出世払いにしちょっちゃる」と鼻先に突きつける。
「俺、来年三十やで」
 小学生並みの扱いにあきれて言うと、おっちゃんは本当にたった今気づいた顔で、
「おお、そうやったな!」と叫び、二人で爆笑した。
 ひとしきり笑ったあとで、おっちゃんが言った。
「変わらんやろ」
「まあ、変わらんね」
 何が変わらないのか全くわからなかったけれど、そう答えた。俺らのしょぼい足元を宮無川の水がただ流れてゆく。






エントリ15  残暑 〜トキノオワリ〜     神崎翔


確か、一年前だった……気がする。
俺がこの町に越してきて、彼女たちと出会った。

毎日が楽しくて、彼女たちと他愛のない話をしているだけで幸せだった。

放課後に皆で遊んだ学校裏
遠足気分で登ったあの山
山のふもとで食べた弁当
そして…………宝捜し

この町で出来た思い出には、いつも皆の笑顔が会った。
時には悲しいこともあったけど、それも今では大事な思い出のひとつになっている。

時間が経つのを忘れて、日が暮れても遊びまわっていた。
その後、家に送った先で彼女たち親に怒られたこともあった。
当然、自宅に帰ると親父にこっぴどく叱られたもんだ。

すべてが楽しいひと時だった。

…………だから、俺たちの誰かが友達の輪からいなくなったときには、自分たちの出来ることを必死で探し求めた。
時には叱り、時にはやさしく包み込んだ。

確かに、そのために逆に距離を置かれたときもあった。
それでも、今思えばそれが間違いだったなんて思っていない。








…………でも、もう…………



「楽しい時間はあっという間に過ぎていってしまう」なんてことを誰かが言っていた。
…………悲しいことだけど、それは真実だと思う。

あんなに楽しかった毎日が、ぼろぼろと崩れ去ってゆく。
彼女たちの何気ない一言に、異常に反応してしまう自分が情けなくて。
優しい言葉の裏に、あるはずのない妄想を膨らませて。

…………そして、俺は今こんなところにいる。
崩したくないとずっと思っていた関係を、自分から崩していって。
悪いのは自分だとわかっているのに、それでもどこかで彼女たちのせいにしている自分がいて。

そんな自分が許せなくて。
信じられなくて。



…………でも、もうどうしようもなくて。



白い部屋。
ただがらんとしていて、一人には広すぎる空間。
自然と寂しさが溢れてくる。

窓の外に見える空には、太陽と……真昼の月
その下で元気に走り回る子供たち。











…………。
頬を伝う一筋の光。

「……なんだよ、俺。泣いてるのかよ」

俺は、頬に出来た筋を何度も重ねつづけていた。


絶えられない。
独りはもう嫌だ。




…………だから、
俺は飛び出した。

この白い、隔離された部屋から。
蒼い、空の下で楽しく遊ぶ彼女たちの元へと。















…………だけど、
そこで俺を待っていたのは、また白い空間だった。
真っ白の花畑。

もう白は嫌だ。
そんな思いが通じたのか、目の前の花の色が見る見るうちに朱く染まっていく。







…………そういえば、この花。
今までいた白い部屋にもたくさんあったような気がする。

この花の名前は、確か…………















『ワスレナグサ』


※作者付記: 久しぶりなので、かなり稚拙な文になっていますが、その辺はご了承下さい。