Entry2
月蟲ナイト
紫生
「そうだ、奈落にゆこう」
「そうね、奈落にゆきましょう」
そんなセリフを呟きながら幼いカップルがゆらゆらとよこぎってゆく。
勘が騒いだので呼び止める。
「あっ、ちょっと待って。僕もいっしょに、その奈落とやらに連れていってはもらえませんか」
スローモーにふりかえってフワリと笑う二人は、双子のようによく似ていた。
「良いですよ。ちょうど今宵は月蟲ナイトですから」
「そうよ、年に一度の月蟲ナイトですもの」
秘密クラブ「奈落」には、大勢のゴスグロパンクでアングラな子供達がひしめいていた。
眼帯や松葉杖の子が多かったが、体中を包帯でぐるぐる巻きにして芋虫のように這い回っている子、ぞろりとした着物を女郎モードで羽織っている子、カリガリ博士を真似た風なマント姿の子もいて、昭和の怪奇漫画がそのまま立体になったような壮快な眺めだった。
テーブルには血や汚物なんかでつくったみたいな危なげな料理がたくさん並べてあってグラスを手にするとアンモニアがにおった。
近くで誰かがパタリと倒れた。
「死ぬ?」
「たぶんね」
子供達は口々に呟きながら、蛙のから揚げを口につっこんだままヒキツケを起こしている人物を遠巻きに眺めている。
皆の関心がひとつに集中している隙をついて、次の余興が盛大にわりこんできた。
ガッシャーン! 物凄い音をたてて天上のシャンデリアが落下したのだ。下敷きになった子供らが血まみれで、叫んだり放心したり笑い出したりしている。何人かはピクリとも動かない。
「すごいね、これ。人、殺しちゃっていいの?」
そばにいた少年に尋ねると、
「平気平気。だってここはアナーキーな場所だから。それに生きることにも興味のないヤツばっかだからね」
「みんな自殺志願者なの?」
「まさか。積極的に何かをしたいなんて、誰も思ってやしないさ。キミだってそうなんだろ?」
言われてみれば確かにそうかもしれなかった。
目の前で酷いことになっている人間を見たせいか、ふいに命の炎がたぎり、少年は少女を犯し始める、少女は少年を殴り始める。乱交、殺戮。手のつけられない熱狂の坩堝。
「あなたは特別だから助けてあげる」
ひとりの少女がこまねく。手に手をとって僕らは逃げる。
あれ、でもここ、地下だよ。
「さあ、あなたには三つの選択肢があるわ。ひとつは臓器を売る。もうひとつはポルノ。さいごは……」
しまいまで聞かずに奇声を上げて少女を連打した。血風が吹いた。