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1000字小説バトル

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1000字小説バトル【Rosso】stage2
第4回バトル 作品

参加作品一覧

(2008年 6月)
文字数
1
トノモトショウ
1000
2
伽屋律歌
966
3
ハミングバード
1000
4
ごんぱち
1000
5
(本作品は掲載を終了しました)
ウーティスさん

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Entry1
彼女についての考察
トノモトショウ

 午前八時十二分、小谷愛は自宅マンションを出る。彼女の部屋は四階の東端に位置し、西に三部屋分進むとエレベーターホールがある。降下ボタンを押す彼女の指は艶やかで美しい。ゆっくり落ちるエレベーター。彼女はどこか思案げに、一階ロビーを通り抜ける。玄関口で遭遇した管理人と軽く挨拶を交わす。明日は雨だそうですよ、とか何とか。
 彼女は歩いて駅まで向かう。赤いミュールがコツコツとアスファルトを鳴らす。湿気を含んだ温い風が、柔らかいスカートを少しだけ揺らす。駅のホームの喫煙所で、彼女はメンソールの細長いタバコを吸う。白く濁った煙を吐く唇は官能的でさえある。電車に乗り込んだ彼女は疎らに空いたシートには座ろうともせず、ドアの側にぼんやりと佇む。朝の光に照らされる街並を、値踏みするかのような鋭い視線で眺めている。

 午前八時四十五分。小谷愛は電車を降りた。駅前に傲然と直立する大きなビルに、彼女が働くオフィスがある。始業は九時。彼女の仕事はお茶汲みとか伝票整理とか出張の手配とかそういった単純なものばかりだったが、同世代の一般的なOLより多めに給料を貰っていた。つい先日も十二万円のハンドバッグを現金で買ったが、そのために今月の生活水準が極端に下がるということもなかった。ちなみに、そのバッグはまだ一度も使っていない。

 お昼の十二時に休憩を挟み、午後五時まで働く。終業後は同僚と食事に行くこともあるが、今日は誘われることも誘うこともなく、帰途に着いた。マンションの向かいにあるファミリーマートで無脂肪牛乳とファッション雑誌と生理ナプキンを買った。
 部屋に戻ったのは午後七時三十七分。いつものように部屋着に着替え、冷蔵庫に牛乳を収納し、テレビの電源を入れ、……そこでふとした変化に気付く。

 枯れたまま放置していたはずの観葉植物が新しい鉢に植え替えられ、ソファに零したワインの染みは綺麗に拭い取られ、去年友人と沖縄旅行に行った際に撮ったスナップ写真を貼り付けていたコルクボードには、別の写真が無造作に留められている。小谷愛には状況がよく飲み込めない。もしかしたら自分の記憶違いかも知れないと思うより早く、留守中に何者かが侵入したのではないかと推測した。誰かに助けを求めようとバッグから携帯電話を取り出そうとしたが、もちろんそんなものが見つかるはずもない。

 私はそっと近付いて彼女の肩を軽く叩いた。
「やあ、はじめまして」
彼女についての考察 トノモトショウ

Entry2
痴情に至る、戀病
伽屋律歌

少女の胸にたゆたうのは、穢れなき情念。彼女の肉体を制するのは、あまい性慾――
其の日は、リズミカルに雨音が耳に染む昼だった。少女は欠伸を噛み殺し、窓の外を見た。「雨だわ」文字通り、鈴の音のような聲を発した。彼女は、白いワンピースに、黒のハイソックスと言う服装で、エアー・コンディションを自分好みに設定し、テレビジョンも無い部屋にて、考え事をしていた。齢十三歳にして、彼女は老成なのだ。
「ねえ、リリーツェ…」
彼女はフランスのマリー・アントワネットを連想させるような、絢爛な椅子に浅く腰掛け、足元に跪いている青年に呼びかけた。
青年、歳は三十歳前後だろうか。うつくしい顔立ちをしている。
ひとつ、指摘するのであれば、彼女と彼の雰囲気は倒錯的なかおりがする。少女に跪く、青年。シュールレアリスム。
彼女は青年の呼び名を転々と変えていた。彼女にとって、青年は玩具でしかない。では何故、青年は彼女に跪くのだろうか?
答えは、青年の持つマゾヒズムな感情と、少女のサディズムな感情の波長が酷く合うからだ。
青年は高校時代、うつくしいと謂う理由で、男に可愛がられる傾向があった。つまりは、男性の性欲処理に使われていた。
尤も、彼の顔立ちは中性的で、小柄で無駄な肉はついていないと謂う、ある種の人から見たならば、好かれやすい格好だった。
少女との遭遇は、青年の高校卒業後の、就職先だった。青年の実家は貧乏で、とてもじゃないけれど、青年を大学に出す余裕なんて無かった。
青年の就職先は、少女の実家のハウスキーパー。
蹴れども、青年は少女に見初められ、別宅で生活を共にしている。

少女は、足先で青年の頬を撫でた。青年は、ドールのような足を掌に乗せて、軽くくちづけをした。
「脱がせて、」
青年は武骨な指で靴下を脱がせようとして、彼女に制止される。
「口が良い」
青年は、歯の先端で靴下の先端を摘み、脱がせた。同じ事を二回繰り返す。
素足で青年の頬に触れると、青年の頬が少し、熱かった。少女は、足で青年を愛撫するように嬲る。
頬を撫で、唇を爪先で犯す。
青年は、フェラチオのように、彼女の足先を銜え、舐める。
彼女は、甘い息を漏らした。

嗚呼、恍惚。
―――其の様な感想を持っただろう。

「此れが至高の美学」

彼女は呟いた。
飽きもせず繰り返される、ルーティン・ワーク。



彼女は青年を、飼育している。


End
痴情に至る、戀病 伽屋律歌

Entry3
丘に立つ幼い木
ハミングバード



 僕の故郷は貧しい村で、塵だけでなく何でも捨てに来た。あるとき馬を捨てに来て、埋めて行った。そこは、草地の中を通っている道の縁だった。
 とてもよく走る馬だったのに、獣医にも治せない足の骨折だというので、注射をして息の根を止め、トラックで運んできたのだった。
 馬を埋めた跡は、小高い丘のようになっていて、僕ら子供達は、恐る恐るそこに乗ってみた。柔らかくバウンドする感じがあった。いくら踏み固めても、弾む感じはなくならなかった。土の中から馬が合図を送ってくるように思えた。
 もっと走りたかったのに。そんな馬の無念さだったのだろうか。
 僕はなんとなく馬の気持ちが分ったから、モミジの幼木を丘の中心に植えておいた。
 丘は日が経つうちに平らになっていき、もし幼木がなければ、どこに馬が埋められたか分らなかった。いっぽう幼い木は育っていき、秋になると紅葉して、ひときわ目立った。

 子供達が成長すると、人々は村を捨てて都会へ出た。
 僕はパルプ工場に勤めるうち、足の速いのを見込まれて、マラソンランナーとして活躍するようになる。
 炎天下、B新聞社主催のマラソン大会が開かれた。百二十名の選手が一斉にスタートした。
 僕は二十位以内に入れば上出来だと思っていた。時間配分も考えていた。
 それが魔がさしたというのか、はやる気持ちを抑えられず、三キロ地点でトップに出てしまったのだ。馬鹿なことをはじめてしまったものだ。
 しかしトップを飛ばす快感には克てなかった。僕はますます快調に、大都会の中を駆け抜けて行った。
 折返し点に来たとき、後続の一群が意外に迫って来ているのを知って、力が抜けていった。走者の息遣いが聞こえてきて間もなく、するすると四、五人が前へ出て行った。それからは抜かれっぱなし。
 真夏の陽光がアスファルトを溶かし、路面が陽炎のように揺らめいていた。路面が熱く息衝いて、内側から柔らかく弾んでくる感触があった。
 あの馬の記憶が甦ってきた。俺の代わりに走れ! 馬がそう言っている。目前に、モミジの木が燃えるクリスマスツリーのように浮かび出た。
 僕は走った。疲れを感じない肉体になって、疾走を開始した。抜いていった者を何人も抜き返し、やり残した馬の気持ちを頭に描き、悲壮な思いにかられて、駆けて行った。
 スタジアムに入ったとき、前には一人もいなかった。僕はそのままゴールへと飛込んで行き、テープを切ると気を失った。

丘に立つ幼い木 ハミングバード

Entry4
献身
ごんぱち

 臍の緒を付けたままの濡れた赤ん坊を、手術着姿の医師は抱き上げる。
 まだ肺の呼吸が始まっていない為、声も上げない。
 医師は、吸水シートを広げた手術台に赤ん坊を置く。
 それから看護師から手渡されたペンを使い、赤ん坊の身体に線を引き始める。直線や曲線、いくつもの線で、赤ん坊の身体が埋め尽くされる。何かの絵には見えず、模様と呼ぶには不均一過ぎる。
 医師は、ペンをメスに持ち替えた。
 そして、ゆっくり赤ん坊の胸の辺りに引いた線の上に当てる。
 赤ん坊はびくり、と震えた。
 医師はそのままメスを静かに動かす。熟練を思わせる、迷いのない動き。
 メスが通った後から、ぽつぽつと珠のように血が浮かんだ。珠は珠の形を保ったまま大きくなっていき、ついには隣りの珠と合わさり、そして流れ始める。
 医師は、切れ目を付けた皮膚の、少し下にメスを入れる。皮とその下の血管の混じった皮下の脂肪が切られ、赤ん坊の肉体から剥がされていく。
 医師の手先はあくまで柔らかく優しく丁寧に焦りもなく、赤ん坊の「表」を剥がしていく。
 次々に血が流れる血を、看護師が脱脂綿で吸い取り、ガーゼで拭う。赤く染まった脱脂綿が膿盆にいくつも積み重なっていく。脱脂綿から垂れた血が、膿盆の上に小さな水たまりを作り、それが他のまだ白さの残る脱脂綿に吸い取られる。
 赤ん坊の下に敷かれた吸水シートは、赤い色をじっくりと広げながらも、一滴たりとも漏らす事はない。全て高分子ポリマーが吸収し、固める。
 何一つトラブルはなく、医師は極めて手際よく手術を進め、赤ん坊は、元々そのような部品を組み立てて作ったかのように、表と中身に完全に分類された。

「あぁ……」
 鏡を見ながら、佳奈子は思わず声を洩らす。
「おめでとうございます、一ヶ月も経てば継ぎ目も分からなくなりますよ」
 医師も笑う。
「ありがとうございます、先生」
「いえいえ、当たり前の仕事をしたまでです」
「あの焼けただれた顔が、すっかり元通りになって……」
「ほら、あまり泣かないで。傷に障りますよ」
「……本当、本当に……綺麗に戻って」
「クローン再生ですからね。拒絶反応の起きる確率もぐんと低いですよ」
「はい」
「それでですね」
 医師が合図すると、看護師が入って来た。手に、包帯で包まれた塊を抱いていた。
「残りの部分は、どうされますか?」
「ああ、それですか」
 佳奈子はちらりとそれを見た。
「医療の発展の為に役立てて下さい」
献身 ごんぱち

Entry5

(本作品は掲載を終了しました)