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1000字小説バトル

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1000字小説バトル【Verde】stage2
第3回バトル 作品

参加作品一覧

(2008年 5月)
文字数
1
SuzzannaOwlamp
1000
2
(本作品は掲載を終了しました)
ウーティスさん
3
ごんぱち
1000
4
トノモトショウ
1000

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Entry1
自慢の弟
SuzzannaOwlamp

 私が、三歳の頃、母は生まれたての弟と一緒に産婦人科に入院していた。当時、父はベニヤ板の会社で、営業をしており、私は母方の伯母の家に預けられることになった。隣に住む圭ちゃんの家にお泊りできると昂奮していた私は、大人同士の会話が理解出来ぬまま、大阪市六反町にある団地まで伯母に抱きかかえられて、連れて行ってもらった。その間私はずっと泣きじゃくっていた。
「そんなに泣いたら警察に連れていかれるで」
伯母は、ごねる私に何度もそう怒鳴った。傍目から見れば、警察に連れて行かれそうなのは、私ではなく伯母の方だったろう。伯母はそれを知ってか知らずか、怒鳴り声をあげなくなった。
「トシくん、よう来たな」
無表情だったであろう私に嬉しそうに声をかけた伯父は、髭面で一見、怖そうに見えたが、にっこりと微笑んだ、その笑顔は本当に小さな子どもをあやかす感情に満ち溢れていた。
 六反町にある伯母の家にいる間中、むっつりとしていた私を、なだめすかせようと、伯父は‘おうまさん’になり、伯母は‘むすんでひらいて’を懸命に教えてくれた。団地の前の駐車場、団地の階段、お世辞にも広いとは言えない部屋の間取りを今でも朧気に覚えている。寂しい匂いのする住宅地だった。その中で、唯一、光があるとすれば、まだリモコンもない時代のテレビくらいなものだった。
 伯母の家に滞在する最後の土曜日、「8時だよ!全員集合」を見て、「志村や! おばちゃん、これが志村やで!」と連呼する私を見て、伯父と伯母は、この子は家に帰るのが、そんなに嬉しいのかと思ったという。
「お母さんによろしゅうゆうといてな」
伯母の社交辞令を理解するには三歳の私にはまだ早すぎた。たった一週間の出来事。元の家に帰ると、ベビーベッドで眠る弟が待っていた。
 初めて目にする赤ん坊に気味悪がって、最初は触ることすら出来なかった。しかし、弟が出来た喜びよりも、むしろいいライバルが出来たという嬉しさが宿ったのは事実である。
「ねえ、お母さん、赤ちゃんはいつになったら喋れるようになるの?」
そう聞いては、母親をうっとうしがらせた。

 弟に追い越された、と思った瞬間は、ショックだった。彼らの名は麒麟。
どちらの腕にも才能があり、かつ漫才は一級品。松本人志をアッと驚かせ、中田カウスを「あんなオチみたことねえ」と唸らせた。

 そんな自慢の弟からこの間、一通のメールが届いた。
──ありがとー。猫かわいいね。
自慢の弟 SuzzannaOwlamp

Entry2

(本作品は掲載を終了しました)

Entry3
のどけからまし
ごんぱち

「んちわっ、ご隠居!」
「やあ八じゃないか、どうした?」
「いえね、仕事で近くに来たんで、中食を使わせてもらえませんか」
「ああ、いいよ。まあ茶の一杯もおあがり」
「へえ、じゃあごめんなすって――こんな薄い出涸らし番茶でも、湯で淹れてあるだけありがてぇや」
「貰っておいて贅沢言うんじゃないよ」
「へへへ、まあ気にしねえで」
「そういうのは、こっちの台詞だよ。どれ、今日は花冷えだし、あたしも熱いのをいただこうか」
「花と言えば、ご隠居、昨日花見ぃ行って来たんですがね」
「ほう、桜か風流だな」
「今年はまた突然に咲いたじゃねえですか。ですから大急ぎで用意して」
「世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし、だな」
「は? なんですかいそりゃ」
「在原業平の短歌だよ」
「いやぁ、そいつぁおかしいや、ご隠居」
「何がおかしい?」
「だって、そのアリさんは、ほれ、あれを捻った人でしょうが。ええと、そうだ、千早ふる神代もきかず竜田川からくれないに水くぐるとは」
「ああ、百人一首だな」
「前、ご隠居に絵解きをして貰ったヤツ」
「そ、そんな事もあったかな?」
「アリ公の歌ってのは、あれでしょう?」
「あのな八、歌人は何首も歌を詠むから歌人なんだよ」
「でも、クリスタルキングは大都会しか残してませし、栗田貫一はルパン三世の真似しかやらなくなりましたよ?」
「あんまりケンカを売るような発言をするんじゃないよ。花見はどうだったんだよ」
「急ぎで決めたんで段取りが散々でしてね、酒は足りないわ料理は高いわ」
「ははは、お前たちの場合は、花より団子だな」
「花見の席で団子なんか食ってたら、つまはじき者でしょう?」
「どれだけ心が狭いんだよ、お前たちの花見は」
「こちとら辛口の酒を小粋にキューッとやってる横で、甘ったるいみたらし団子や餡団子をねちねち喰われてたかぁねえですよ」
「一理なくもないが」
「誰が言い出したんでしょうね、団子なんて? ご隠居、物識りなところで一つ教えて貰えませんか」
「あー、それはだな、んー、と、だな……」
「知らないんですかい?」
「い、いやぁ、そんな事はないぞ?」
「ぼちぼち別の仕事があるんで、早めに頼みまさぁ」
「あ、うーんと、えーと、そのだな、花見に来て酒を飲まずに団子で済ませる者、そいつはすなわち運転手だ」
「ええっ、その諺が出来た時代に、自動車があったんで?」
「四輪車はなかったが、ハイクはあった」
「……短歌じゃねえんで?」
のどけからまし ごんぱち

Entry4
オン・ザ・ライン
トノモトショウ

 餅田さんは今年で二十六歳になるが、今まで一度だって働いたことがない。いわゆる「ニート」というやつだが、本人は全く気に掛ける様子もない。餅田さんの口癖は「俺は選ばれた人間なのだ」というものだったが、今まで一度だって選ばれたことがない。真に選ばれていたのは餅田さんの弟の肛一君の方だった。肛一君は非常にハンサムだったし、頭も良かった。およそ欠点らしい欠点もなく、もちろん女性にモテたが、こちらが好きになった女性からは「きっと素敵な彼女がいるんでしょう?」と勝手に納得されるので恋が成就した試しがない。そう、肛一君は不幸にもまだ童貞だったのである。そんな肛一君にも皮上さんという可愛らしい彼女が出来た。卑屈なる童貞生活からすっかりオサラバするつもりで皮上さんをベッドに誘った肛一君は、寝転んだ皮上さんの背中を見て唖然とした。皮上さんの背中にはおどろおどろしい般若の彫り物が施されていたのだ。誤解を招かないように補足しておくが、皮上さんは別に「極道の女」なのではなく、ただ単に般若のイメージが好きなだけである。皮上さんが肛一君の前に付き合っていた佐々機という男は、美大在学中に一人でデザイン会社を立ち上げてしまうくらい才能と精力に満ち溢れた若手デザイナーで、皮上さんの背中の図柄をデザインしたのも彼だった。佐々機は女癖が悪く、クライアントの女性と寝ることも少なくなかった。皮上さんにとってそれは屈辱でしかなかったが、佐々機にとってはビジネスをスムースに進めるためのテクニックでしかなかった。だが、そんな枕営業が通じるのも二十代までだな、彼は隣で静かに寝息を立てている女の腹の皺を数えながら、そんなことをぼんやり考えた。女は鼻元という名前で、大手出版社で編集の仕事をしていた。寝るのはこれで二度目だったが、五十前のババアを目の前にしても勃起する自分のペニスを誇りに思った。鼻元には二人の息子がいるが、十年前に夫と離婚してからは会っていない。もしかしたらこの男こそ自分の息子かも知れないなどと妄想したが、私にも別れた夫にも似ていないので、少しだけ落胆した。別れた夫とは時々連絡を取り合う。上の息子が働きもせず自宅でゲームばかりしている、という話をぐちぐちと聞かされた。そんな餅田さんもさすがにこのままではマズイと思って、インターネットで見つけた小さなデザイン会社の求人に応募してみたが、面接には遅刻したそうだ。