Entry1
ぼくと家業と習慣と
エルツェナ
またやっちゃった…自宅の道場に連れ込んでの病院送り、これで何度目だろう。
「随分積極的になってきたじゃない、どんな子が生まれるのか楽しみだわあ」
その度にこんな事を笑顔で言いながら、お母さんは右手に水入りバケツ、左手にモップを持ってぼくに押しつけてくる…そう、道場破り撃退時の“道場破りには気絶を狙え、汚れたら撃退した者が掃除せよ”という習慣のせいで、こうして掃除を頼まれたワケなんだけど…
蹴り上げて天井に叩き付けた際、つばが天井に飛んだらしいのでそれを掃除しないといけないのだけど、脚立の長さも作業に全く足りなければ、脚立に乗ってさえモップも届かないし、届かせようと脚立からジャンプして落ちたらケガしそうなほど高い位置にある天井に、その汚れはある…らしい。
「お母さん、どうしても届かないって…」
あらまあそれは弱ったわねえ、と笑顔のまま頬に片手を宛てるお母さんは、困るどころかぼくの反応を楽しんでるみたい。 そんな状態からの助けを探して周りを見回すと、一角だけ天井から何かが下がっているように見えた。
「あれ? あの角って…」
近寄って解ったけど、3mと書かれた線の所から上に、なにやらフリークライミング用の取っ手――ホールド、っていうんだって――が、ちょこちょこと天井まで付けられていて、その付近には格子になって天井の板を支えている梁の下半分が来ていた。
これはまさか、ここから上って掃除しろ…って、事?
「…お母さん…お手本くらいは、見せてくれるよね?」
問うた声は、知らぬ間に震えてた。
「自分で試しなさいな」
笑顔で悪魔(おかあさん)はそう言った。
7分後、汚れたとされる場所まであと角2つの場所――天井の梁、その下半分しか使えないので指で強く掴みながら――に差し掛かっていた。
指の感覚が死にそうな中、最後の角を曲がり、汚れがあるとされた場所に最も近い地点に着けて。
「何とか着いたよ、モップ……お母さん?」
下に居るはずのお母さんにモップを寄越すよう言うも姿が見えず、どこに行ったんだろうと思って辺りを見回すと、突如指付近で風が起こり、天井がめくれ上がった。
「!?」
何とか風を堪えると、天井が開いてそこからお母さんの顔が。
「こうしたら早いじゃない。 なんでそんなことを?」
めくれるなら早く言ってよ、と言った後に指が滑って、スローな感じで落ちていく。
…ってかここ、床から何mだっけ!?