Entry1
一八一七
小笠原寿夫
1817年、化学の世界では、新しい元素、リチウムが発見されたとされている。
「俺、七福神の息子やねん。」
「じゃあ、お前誰の子やねん。」
政夫が、楽しすぎて、守るというジレンマ。夢の中に出てくる弟は、天才である。耳元で私に正解を囁いてくれる。
過去に漫才師を目指していた私にとって、弟のキャパシティーは、半端なものではない。
「お前がおったから、政夫があそこまで行けたんやで。」
と、母は、言ってくれる。
暖房の効いた部屋で、私が受験勉強をしているところに、弟が入ってきたことがあるらしい。
「何か、僕が入ったら、お兄にめっちゃキレられてんけど。」
後に、そう述懐するのは、弟も高校受験を控えて、寒い部屋で、勉強させられていたからに他ならない。弟の憎まれ口は、真を吐いているから厄介である。弟は、こちらの為す術もなく、相手を言いくるめてしまえる話術を、持っている。手前味噌ではあるが、政夫は、できる男である。
冒頭部に戻ろう。
「019784」
それを、早口で言うと、関西弁では、そう聞こえる。
「で?落ちは?」
「福禄寿。」
「台本を飛ばすな!」
と言っては、笑いを取りに行く様な芸人さんも居る。
「お前に、一個だけええこと教えたるわ。」
「なんやねん。」
「前にお客さんいてはるねんで。」
「知ってるわ!」
「こないだ、花火大会で、マイクにむしゃぶりつくように二人で、漫才しましたわ。」
楽屋でそれを話すと、先輩は、
「そうか。」
とだけ、答えた。
「お客さん、笑ってたか?」
「花火に夢中でした。」
「せやろな。」
弟に、漫才師にならへんか?と問いかけたことが、何度かある。夢を見ながら、寝言を言っていた時分の話である。人は、それを酩酊状態と呼ぶらしい。世界でリチウムという不安定な元素が発見されたとき、日本は、まだ征夷大将軍を奉っていた。鎖国を貫いた日本は、オランダと中国とだけ貿易をし、位の高いものだけに、学問が許された。
それは、今も昔も変わらない。
「ヒーハー!」
と叫ぶブラックマヨネーズの小杉さんが居て、何故、それで人が笑うのか、ということを、突き詰めると、ハッピーバースデーにも掛かっている様な気がしなくもない。
因みに、一八一七というのは、頭に手が届きそうで届かないという下ネタである。
とりあえず、腹が減ったので、葉巻とガウンで、サングラスをかけながら、ワインを片手に飲もうかとも思っている。というのも、腹が減っている証拠である。