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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage4
第5回バトル 作品

参加作品一覧

(2018年 5月)
文字数
1
小笠原寿夫
1000
2
ごんぱち
1000
3
サヌキマオ
1000
4
石川順一
1000
5
辻潤
1104

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天気予報と夢と漫才
小笠原寿夫

 天気予報は、また寒くなるそうだ。早く暖かくなって欲しい。昼間、ワイドショーを見て、そのまま眠りこけた。確か、たけし軍団VS森社長の構図と、小保方晴子さんのグラビアデビューが、話題となっていた。バラエティーの形も変わったと思いつつ、眠りに入った。負け続けたコンピュータとの将棋の対局をファイルに保存したことは、覚えている。
 友人が結婚した夢を見た。単純に嬉しかった。
「できちゃった婚や。」
子供に作曲を教えているらしい。
 何やら風船みたいな長いチューブで、チューニングをしている様を、友人は披露する。結婚したことで、見た目は随分と変わっていた。再会した時、一瞬、目を疑った。見た目はともかく、以前よりも、内面はかっこ良くなっていた。あんなに鮮明な夢を見たのは、久しぶりだ。
 目が覚めても、何故か清々しい気分になった。輩とも対等に話ができるようになっていた友人には、昔、遊んでいた頃の暗さはなかった。
 父親になるほどの喜びは、他にない。友人は大手企業の主任である。そこに行き着くまでの苦労は、想像を絶する。私が、惚れ込んだ男は、やはり夢の中でも、かっこ良かった。
「夢の中では、皆、天才や。」
と言った人物である。
 私は、その夢の中で、地下鉄に蹴りを入れて、車両に傷をつけ、手錠を掛けられていた。それは、それで面白いのだが、夢というのは、どうしてこうも脈絡がないのだろう。
 それよりは、夕方に目が覚めて、夜寝られないことに、自己嫌悪を覚える。ただ、敢えて前向きに考えようとすると、私の不幸せが人の幸せを呼んでいることだ。
「自分の不幸せに気づいていないことが、一番の不幸せだ。」
というようなことを言う人がいた。今、私は、その言葉に、救われている。
 止せばいいのに、私は、また夢の世界に入っていく。現実が如何に面白いかを、私は知らない。
「寝てくれ。」
という幻聴が聴こえる。
「寝るな。」
という幻聴も聴こえる。
「実は、夢が現実で、現実が夢なのかもしれない。」
そう思った。だから、人は睡眠を欲する。そう、結論付けた。
「おぎゃが正しいで。」
そういった幻聴も聴こえる。そして、私は、心の病に打ち勝ちたいと願った。まだ、寝る訳にはいかない。これから、部屋に入ってこられる隣人の方のためにも。健康を害しているのかもしれないが、それはそれで、楽しいので、私の中では、二重丸でなかったりもする。これから幽玄という名前で、漫才をする。
天気予報と夢と漫才 小笠原寿夫

炭酸
ごんぱち

「蒲田、炭酸あるか?」
「あるぞ、四谷」
「ここで単三電池を入れるというネタが、かりあげクンであったな?」
「うむ。従って、俺が用意したのはこちら」
「ドウモ、丹デス」
「留学生の丹さんだ」
「ほう蒲田、彼女は丹さんと言うのか」
「そうだ」
「ソウデス」
「炭酸で丹さん、なるほど。一見筋が通っている。一見な」
「なんだと?」
「問題デモ?」
「中国で丹という名字は、全然一般的ではない」
「だが、漢字一文字だぞ?」
「影とか編とか言われても中国人と思うのか?」
「ぐ」
「イエ、ソレハ……」
「しかも、オレが尋ねたのは『あるか』で『いるか』ではない。つまり!」
「つまりなんだ」
「ナンデスカ!」
「この女性は、『たんさんがある』と表現する事が全然出来ない、要件不足の存在という事だ!」
「ふ、ふふ、ふは、ふはははは、言いたいことはそれだけか、四谷!」
「ソレダケカ!」
「え?」
「俺は留学生と言ったが、別に中国とは言っていない! やれ、丹さん、フェイス・オープン!」
「イエス・ボス!」
「そ、その顔は!?」
「更に、オープンゲット!」
「スイッチオン!」
「身体までバラバラになって、三つの飛行物体に!? その断面、間違いなく金属の機械部品! まさかロボか!?」
「ロボではない! アンドロイドだ! 蒲田財閥四十七億の研究員が作り上げた、完全自立型アンドロイド『丹さん』! 学習機能で一層リアルな人格を作る為に、我々の野村学園大学部に留学しているのだ!」
「ヒトデハナイ、ヒトデハナイノデス!」
「わははは、どうだ四谷!」
「ヒトデハ……」
「おい、蒲田、なんか丹さんの様子が」
「え?」
「ヒトデハナイカラ、『アル』デイイノデス。所詮、私ハ機械人形、役目ヲ終エレバ捨ラレル、物ニスギマセン」
「え、おい、丹さん」
「そ、そんな事言うなよ、なあ蒲田!」
「ヒトデナイ、ヒトデナシ、オニヒトデ……」
「優秀なアンドロイドで、その」
「それだけじゃない、君は立派な人格を持つ一個の存在さ!」
「そ、そうとも! 魂が肉の身体にしか宿らないなんてのは、生命が無機物から発した事を失念した愚か者の発想だ!」
「マスター……」
「君は我が財閥が作った。だが、同時に大事な我々の仲間さ!」
「アリガトウ、アリガトウ! 機械ノ、ワタシニモ、嬉シイ気持チガ、浮カビマシタ」
「あはは、よおし、そうなれば俺達と一緒にのもうぜ! 丹さん!」
「炭酸はないから、水割りだけどな!」
「ろぼナノデ、飲食ハチョット」
炭酸 ごんぱち

ウマのプーさん
サヌキマオ

 中国福建省の浦さんは名伯楽で浦馬公と呼ばれたの。今日も馬に乗って野をのんびり往くと妙な風が吹いた。嫌な臭いである。連れてきた童子二人と互いに顔を見合わせたが、その臭いをうまく言い表せなかった。強いて言えば油である、どう考えても身体に良くない臭いであったが好奇心にはかなわない。危なくなったらすぐに引き返すという取り決めをして、風上の方に歩いていった。果たして沼があった。沼は遠目からわかるほどにもボコボコと泡立っていて、もやもやとした湯気が上がっている。沼には頭から泥をかぶった人が十人もいて、地面に這いつくばってうごめいている。
「時に浦先生、池と沼の違いはなんでしょうか」童子の一人が聞いた。
「今聞くような話か。見ていて気分がいいのが池で、気分の悪いのが沼だ」
 泥をかぶった人々はこちらに気づくとこちらに手を振ってくるが、近づくと目と口のところにはただただ真っ暗な闇があるばかりなのに驚いた。
「お前らは化物ではないのか。言葉はわかるのか」
 浦先生が勇気を持って尋ねると「我々は化物ではない。タール人である」と返事があった。井戸の底から聴こえるような声である。
 タールの溜まるところの人であるからタール人である。明快であった。地底から出てきたという。彼らは非常に悩んでいた。これがホントの悩んでるタール人。ごめんなんでもない。馬公、鼻をつまみながら話を聞けば、地底に食い物がなくなったので地上に出てきたという。ありていに言って侵略であった。これは大地主・浦馬公としてはなんとかするしかない。食事を提供するというとタール人たちは非常に喜んだ。すぐに屋敷に帰って料理を作らせ、中に爆竹を仕込んだ。タール人たちが料理を平らげたのを見計らって導火線に火をつけると、過たずタール人は残らず爆ぜてみなよく燃えた。火は真っ黒い煙をあげて燃え続け、十四日の後に大雨があってようやく鎮まった。
 この様子を見ていた天はいたく感じ入り「いずれ報いよう」とおっしゃられた。相変わらず主語を飛ばす喋り方をする。誰の、何に報いようというのか。馬公はわけの分からぬままに天寿を全うした。やがて数百年が経ち、この地はタールを産出することで工業の中心となった。
「ふーん」
 ヨシ坊は人の話も聞かず座り込んで、無表情につるむ犬の雄雌をずっと眺めている。
 犬の交尾は無表情だ。
 このまま描写を続けてもいいが、字数が来たのでやっぱり終わる。
ウマのプーさん サヌキマオ

詩将軍の詩と詩日記
石川順一

 詩仙人は詩将軍に敗れた。詩仙人を敗った詩将軍の詩を見て見よう。
「引用詩」引用詩を夢想すると/犬がどれも/呆け面をして居る様で/春の駅が眩しい/水面に映った雲を/錦鯉が蹴散らす/私の影を/アリが足早に/追い越していく/キロ十円で/古着屋で買った/衣類を/教室に居る皆に/衣替え用の/衣類として配った/ジャンケンの末/五度もアイコを繰り返して/衣類を取り合う子等/万緑が眩しい/私の枕元には/シロツメクサの/首飾りだけが残った
「揚羽」アゲハ蝶が羽化した/弱弱しく羽根を/上下させ柑橘類の葉にステイする/動画静止画をものにした/普段であれば静止画は難しかったであろう/孵化直後の弱弱しさが動画のみならず静止画の接写を可能にした/初夏の薫風吹き荒れる狭庭での事であった
「私」広い田圃にみやびな晴れがましさが私の首を寝違えさせる/石が泥に成って居た/広い田圃で銃が乱射されメリーさんの羊を歌えない私は眠られずスクール水着ばかりを追い掛けていた/(どげんせんといかん?)そんなつぶやきが聞こえて来て江戸時代からやって来たハーシーと友達になった私は太陽が輝く空の下泥になった石を持ち上げた
 以上三編の詩を朗読された詩仙人は詩将軍の詩の朗読を悔しがった。だが詩将軍にはこれら三編の詩だけではなくて詩日記もあった。
「詩日記」2017年9月15日23時32分。姉、風呂、ぎゃふん、23時32分だったか。丁度古い柱時計は午後11時30分だと思う。屁、機転、社、屁で、機転を利かす、2007年大晦日。へこっきおばあちゃん読み聞かせ。
2017年9月16日(土)15時57分。ソフトクリーム。武器。クラブキッズの一昨日。(?)とか痛い一昨日。一日中雨の今日。それは9月16日の2017年だ。母が姉を迎えに行く、14時台だ。ソフトクリーム。レディーナビゲーション思い付く。遅めの昼餉の14時台。朝はトースト。寝て仕舞う午前中。21時02分。じゃあね。邪あねだ。鉄道自殺。21時00分のドラマ。土曜。
2017年9月17日(日)5時47分。北斗の拳第44話、5時20分頃より?トールなあいり。ショートなリン。エリザベスショーツ・・・
 「イメージが分かり辛いが詩の発想の源に成って居ると思われる。特に最後のエリザベスショーツは極めて聞き取り辛い固有名詞なのかもしれない。詩仙人として私はちょっと抗議したい気持ちに成って居るのかもしれない」
  詩仙人は感想を述べた。
詩将軍の詩と詩日記 石川順一

ふわんたじあ
今月のゲスト:辻潤

 日曜の午後らしい。座敷の中は薄暗かった。門には見事な松が生えている。坂の途中のうちで、門の前には子供が沢山群れている。みんな幼稚園の生徒と云った感じだ。
 私はなんと云うこともなくその家の座敷にツカツカとあがってしまった。どこからか女の泣く声がする。子供の父兄らしい人達がなにかしきりに罵り合っているのだ。しかし子供たちの方は一向平気で歌を唄ったり、毬をついたり、お手玉をとったりしているのだ。
 私にはその家が日曜学校であることがわかった。しかし、基督教の牧師の家だと云う感じは少しもしないのだ。
 ひとりのせいの低いチャンチャンコのような物を着た一向に風采のあがらない四十格好の男がしきりに平身低頭して父兄達になにか弁解しながら謝っている。
 見るとそれは私の親友のIなのだ。彼は非職海軍大佐で、ながらく印度や波斯ペルシヤを放浪していた人だが、地上に於ける一切の「革命」というものに幻滅しきって、再び故郷にかえりさやかな今の家をかりて幼稚園をひらいているのだと云うことが私にわかってきた。
 門前に群がっている子供達の声もいつの間にかパッタリ止んで聞こえなくなり、罵り喚いた父兄達もいつの間にか帰り、薄暗い座敷の中にIと私だけが残った。
 “ What is the matter with you? ”と私は英語で話した。私は彼と話す時は御互に英語をまじえて話す習慣を持っていた。
 ――なんでもないんだよ――つまりあれが原因さ――あれだよ――あれだよとIはうす気味の悪い微笑を浮かべて傍を指さした。
 私は今まで気付かなかったが、彼の注意によって指差された方を見ると、座敷の隅の方になにか箱庭のようなものが見えた。
 この時、奥の方から一段高く「ワアッ!」と声を張りあげて巨大な女が私の前にまろび出して、いきなり私の足に齧じりついて、あたりかまわず泣き叫ぶのだ。
 Iは「もういい泣くんじゃないよ」と困惑したような表情をしてしきりと巨人の背中を撫でさするのだ。彼女がIの同棲者のHであることは云わずとも私にはわかった。
 ――これがあんなものを拵えたのでね、それでわからずやの父兄達の御機嫌を損じたわけさ――
 箱庭がなぜわるいのか私にはわからなかった。しかし、私はじっとそれを凝視しているうちに何時の間にか慄然としたのだ。
 それには如何にも巧に拵えられている箱庭には相違なかった。しかし、それは紛うかたもない墓場の縮図なのである。白い破れた提灯、シキミの花、線香、卒塔婆の類が混然として浮みあがって来た。
 ――これはいけない――と私は心の中で思った。黄昏の色が次第に濃くなってきた。Iは愁然としてうなだれている。女はなおもうつぶせになって歔欷なきじやくりしているのである。