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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage4
第6回バトル 作品

参加作品一覧

(2018年 6月)
文字数
1
サヌキマオ
1000
2
ごんぱち
1000
3
石川順一
1000
4
日向きむ
1156

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悲しき亜熱帯
サヌキマオ

「マコガレイのはわい航路」
 仕事場で飯を食っています。先生はふらいど鶏を貪る手を止めてそうつぶやくのでした。
「そういう歌があったんだよ、昔」
「はぁ」
 タブレットPCでヰキめぐりをしている。ヰキめぐりとは、ヰキペヂアのリンクを辿り巡りして、どこにも辿り着かないことである。なお、Wiはヰ、diはヂと表記すべきだというのが先生の持論であります。ニンデンドーヰー。
「アレ、どうなんだろうね」
「妊娠8週目からOKだと聞きました」
「そういうアレではぬぃ。マコガレイは日本海溝を渡れるのだろうか?」
 沈黙。こきゅう、みじゅう、という音を立てて先生は鶏を小骨ごと噛み締め、残滓を口から出している。わいるど!
「と、いいますと?」
「マコガレイが日本沿岸からはわいに旅立つには、日本海溝を越えねばならぬ」
 先生は重々しく宣言しました。
 その場合、カレイというのは地球の曲線に沿って泳いでいけるのか。
 それとも、やはり海溝という名の深い谷に沿って進まねばならないのか。
「海溝を迂回して通るというのはどうです?」
「あぁ?」
 先生は慌ただしくタブレットを捏ね回して日本海溝をヰキペヂります。鳥の脂がずるずるして気持ちが悪い。
「あ、回避できるかも。小笠原諸島のあたりからぐーっと。もしくは襟裳岬の方から、ぬーっと」
 夢が膨らむなぁ!
「それで、ハワイに行ったマコガレイは、どうするんです」
「え?」
「そもそも、なんでマコガレイはハワイに行こうと思ったんです?」
「……憧れたんだろう。マコガレイだけに」
「マコガレのはわい航路、ですか」
「帰りはフェリーで帰りましょう」
「苫小牧なんかについちゃったりして」
「苫小牧発変態行きフェリー」
「ナンダカワカンナイ。ワー、スッチャラスッチャンスッチャン」
 こらこらこらこら、まーた収拾のつかん話を投稿しようというのか。
 閻魔大王である。今日は冷蔵庫から無理やり出てきた。
「鼻の穴からスイカが出てくる、みたいな」
「あれは出産の比喩だ……で、なんだ」
「大王、マコガレイはなぜハワイを目指したのでしょうね」
「こういうときこそ収拾をつけてくださいよ大王」
「そのために出てきたようなもんでしょ大王」
「……そりゃあアレだ、マ、マコガレたんだ」
「失かぁく!」
 宣告とともに頭上から金ダライが落ちてきて大王初め三人の頭を直撃いたします。金ダライにはたっぷりと水が張ってあって、完全に首が折れるという死ぬ仕組。また今度!
悲しき亜熱帯 サヌキマオ

パンが主食になったワケ
ごんぱち

 昔々、パンは人間に好まれていましたが、主食とは呼ばれていませんでした。
 パンは神様にお願いしました。
「ああ、神様。私は神様のお力でふんわりと膨らみ、香ばしくおいしく生まれました。どうか、蒙昧なる生物共に対し、パンを主食にせよと命令なさって下さい」
 神様はパンの前に降臨されました。
「パンと米よ」
 米も呼ばれていました。米の狙いも主食の座でした。
「我の前で、いずれが主食として相応しいかを、一千五百メートルトラックにて示してみせよ!」

 競争が開始された瞬間、パンは自分の浅はかさを悟りました。
 なんとパンには足がなかったのです。
 それから一週間、一ヶ月、一年、十年と時が流れていきます。パンは乾燥し、時折風に動かされますが、行ったり来たり、ゴールに近づけません。
「ああ、なんという事だ。だが、米も同様だろう……」
 パンは米に目を向けました。
「なんだと!?」
 米の姿はありませんでした。
 風雨にさらされるうち、米はトラックの土に根付き、稲の野が出来上がっていました。そしてまさに今、稲穂から落ちる籾が、ゴールラインを越えたのです。

「さて、米よ」
 失意のパンが去った後、神様は米に尋ねます。
「主食となったお前は、何を望む? 尊敬か? 神格化か? 通貨化か? おしゃれな調理法か? 子孫の繁栄か?」
「全てです」
 神様は米の前から姿を消すと同時に、烈しい雨が降り始めました。
 七十六万年に渡り降り続けた雨は、文明と生命をすっかり流し尽くし、水に覆われた大地には、米だけが残りました。
 米は茎を伸ばし、水に浸された大地でも生きていける姿になっていたのです。
「なんという事だ!」
 米は嘆きます。
「食べる生き物が消え失せてしまったら、主食であることに何の意味もない! 神よ、私が間違っていました! どうか、世界を元に、元にお戻し下さい! その為ならば主食としての座はパンに半分明け渡してもかまいません」
 神はその言葉を聞き入れ、水を引き再び生物をもたらしました。
 こうして米は、水浸しの畑でしか取れない、不完全な主食となったのです。
 そしてパンも、主食としての立場を持ちますが、絶対的とまでは言えない状況になりましたとさ。
 パンと米が主食になった、お話しです。

 ……しかしこの時、地下深くから響く、コーンフレークの胎動に、神すらも気付いてはいませんでした。
 そして、米と対するならば、麦ではないかという事にも……。
パンが主食になったワケ ごんぱち

詩大臣
石川順一

 今日は詩大臣が来てくれて詩を朗読してくれた。
「うぶな野郎が伊賀忍者でよー違法を目論んでもしょせんはガタガタな野郎だ。
炊けん炊けん御飯が炊けんと泣きよるのよ。瓜にこだわる忍者でよー模擬試験の
試験問題用紙を持ってくるように俺に頼んだって、そういうわけだ。途中で帰ると
持ち帰れない。最後まで残って居ないと模擬試験の問題用紙は持ち帰れないので
最後まで残る俺にその伊賀忍者は模擬試験の問題用紙を持ってきてくれるように頼んだと言う訳だ。相変わらず御飯が炊けなくて泣きよる伊賀忍者よ、そう言う事は自分でやれと俺は思った。しかもその伊賀忍者は忍者の癖に和歌も嗜む様で、藤原俊成卿を好みと聞く。あの「としなり」とも読める人だな。それで俺は和歌のサイトを用意して、クック船長も用意して、大航海できるように仕向けて見たさ。どうだいどうだい、忍者さんはランチを食べに行ってしまった。クック船長が気に入らないらしいので、俺はジェームズクック船長を用意して見たら、不承不承ながら承諾して、船に乗り込んでくれた、クックと言うぞんざいな言い方が気に入らなかったようだ。でも相変わらず炊けん炊けんの大合唱、忍者さん煩いよと誰も言わないから続いている合唱だと言うのだ。」
 ここまで朗読して詩大臣は一服した。麦茶を飲み再び朗読始めた。
「忍者の里は伊賀なのか。「詩七日」と言う詩集をふと思い出しました。それでは話題がそれますので、本題に戻しますと、本題と言っても先ほどの詩内容からは大きくそれますが、短歌ばかりに専念して今日は俳句を忘れて仕舞ったのです。21時台ちょっと過ぎに思い出しました。これぽっちも思い出せなかったのが悔しい。俳句的な短歌を詠んだのがいけなかったのかもしれない。短歌に専念するのはいいが、俳句も忘れずに、そう思いました。豪雨豪雨の走り梅雨。実際豪雨の時間は短かったが、結構豪雨期を繰り返しました。特に家を出て直後の豪雨はすごかった。本当に全然関係なくて横道それちゃいますが、14時23分午後2時23分2月23日と変換して2月23日は山下将軍が絞首刑に処された日だと思いました。あのマレーの虎のです。太平洋戦争における彼の業績。初戦のマレー攻略作戦はすごかったが、後半の終戦間際のフィリピン防衛戦は致命的なミスを犯したと思います。マレー戦時のシンガポールの華僑虐殺もありましょうがやはりフィリピン時のマニラ虐殺、裁かれたのもマニラ」
詩大臣 石川順一

放鳥籠
今月のゲスト:日向きむ

「お母さん雨がだいぶ降って来た様ですよ」と電車の窓から外を見ていた桃輔は母の方を見ないで云った。
「オヤそうかい」と五十前後の、小さい丸髷の婦人はちょっと外をのぞいて「でもよかった傘を持って来て」と云った。
 大きな商家が両側に軒を並べた大通りを真直に電車は行く。春雨は音なく降る。シトシトと静かに一列の葬儀がゆく。母衣ほろを下ろした車が黒い頭布を被って俯俛うつむいた人の様な形でゆるくひかれて行く。後の方には未だ沢山つづいている。先の方に見えた放鳥籠が桃輔の見ている窓の直前の所へきて、やがて少し後になった。中には鼠色の鳩の、籠の底に立ってオドオドしているのや、バタバタとせわしない羽音を立てて彼方此方と籠目へ斜に飛び移る小さい鳥の影が見えた。桃輔はそれらの鳥が放された瞬間に感ずる自由の恐怖と云う心地を想像してみた。而して「終いにどうなるだろう」と考えた。と直に放鳥会に放された鳥のあるものは元の鳥屋に帰ってゆくと、友人から聞いた事を思い出した。
 かの中には前に一度放されて、再び鳥屋へ帰って行った奴もあるかしら、とちょっと考えた。そんな奴は前の事を覚えているだろうか、こういう籠に入れられてこういう風に空にささげられて、揺られながら、恐ろしく人の多い処を過ぎて行って、それからパッと放されたという事を……と疑いはじめた。
「ねえお母さん、鳥は前に見た事や、した事を覚えているもんですかね」と妙な事を突然に聞いた。母は藪から棒の質問に、ちょっと見当がつき兼ねるといった体で、
「前の事ってそんなに古い事なんか覚えていやしまいよ」と云った。
 古い事は覚えてはいるまい。しかし前にそんな経験がある鳥が、再び放鳥籠に入れられて、人の肩に担われて行く時はどういう心地がするだろう。全く無神経で、何の感じもしないかしら、たとえハッキリ覚えていないまでも、籠の外を前から来て後へ過ぎて行く家並の軒や、走せ違う車や馬車や、往きかう群衆が目に入る時、こんな事がかつて一度有った様な記憶のゆらぎも、小さい心に覚えないだろうか、と真面目になって考えてみた。
「お母さん、でも前に一度こんな事があった様だくらいは思い出さないですかね」
「何を誰が?」
「鳥がですよ」
「鳥がどうしたの」
 どうしたとも桃輔は答えないで窓の外をじっと見ていた。
 万一その位なおぼろげな記憶でもあるとしたら、動いて行く家や、馬や車や群衆を見、またさまざまな物の音響などを聞くと、何か楽しい清々しい事がもうすぐ後に来る様な、それに向って近づきつつある様な、云い知らぬ快感に心おどる事はあるまいか。人間にもそんな感じの来る事がよくあるが、と桃輔は独り考えた。而して話してみようと思って母親の方をちょっと見たが「鳥がどうしたの」と云う前の言がふとその心に浮かぶと、また黙ってしまった。