≪表紙へ

1000字小説バトル

≪1000字小説バトル表紙へ

1000字小説バトルstage4
第20回バトル 作品

参加作品一覧

(2019年 8月)
文字数
1
ごんぱち
1000
2
サヌキマオ
1000
3
小笠原寿夫
1000
4
アレシア・モード
1000
5
野崎 紺
1000
6
下畑卓
759

結果発表

投票結果の発表中です。

※投票の受付は終了しました。

  • QBOOKSでは原則的に作品に校正を加えません。明らかな誤字などが見つかりましても、そのまま掲載しています。ご了承ください。
  • 修正、公開停止依頼など

    QBOOKSインフォデスクのページよりご連絡ください。

十二支のはなし
ごんぱち

 むかし、神様が動物たちにお触れを出しました。
「正月の日の出の頃に私の所に挨拶に来なさい。早かった順番に十二種類を、年を守る動物に任じよう。尚、徹夜や門前の場所取り、座り込みは禁止だ」
 年を守るというのがどういう事か動物たちにはよく理解できませんでしたが、名誉な事は分かりました。
 頭の良いイルカの一族は考えました。
「どうせなら一番になるのが良かろう。近くで野営をするだけなら、門前の場所取りにはなるまい」
 イルカ達は神様の家から少し離れた入り江に、こっそりと陣取りました。

 二晩過ぎて大晦日の夜。
「――行って来る」
 イルカの中で一等泳ぎの早い者が、入り江から勢い良く泳ぎ出しました。
「イルカ君、お早い出発で」
 声をかけたのはシャチでした。
 イルカが反応しようとした時には既に、シャチの鋭い歯が腹に食い込んでいました。逃れようともがく間もなく、イルカは天高く放り投げられ、水面に激突して意識を失いました。
 シャチは同じ要領で、アザラシ、トド、セイウチ、クジラと、次々に海の獣を倒して行きました。
「ははは、我々が最も賢く、最も強い、動物の一番になるのだ!」
 血に染まった海でシャチが高らかに笑い、神様の家に一直線に向かいます。神様の裏手の浜の、海の動物用のゴールラインが見えて来ました。
「日の出と同時だ! 陸の生き物にはここまで正確に星は読めまい!」
 力強く砲弾のように進むシャチが、正にゴールラインに到着せんとした時。
 シャチの身体が竜巻に呑まれ、空に吹き上がりました。
 竜巻と見えたのは、水に姿を変えた竜でした。
「シャチよ、何のために神が力比べや殺し合いではなく、平和的な競走をさせたか、その意を何故酌まぬのか!」
 竜はシャチを水に叩き付けました。すっかり目を回したシャチは、何も言えませんでした。

 結局、神様の家に挨拶に行くことが出来た海の生き物は、竜だけでした。その為、十二支はほとんどが陸の生き物になったのです。
 山鯨がいるじゃないかとか言われても、昔の事ですから、そんな呼び方はまだないのでした。魚や両生類、昆虫、植物、菌類などは、神様的に別系統なのでアナウンスの対象外でした。爬虫類は朝に弱いタイプが多く、結局蛇以外はダメでした。
 神様は、このレースに勝利した生物の長所を集めて究極生物を作ろうとしましたが、気負いすぎたせいか、器用貧乏なのが出来ただけでした。
 ずぅっと昔の、お話しです。
十二支のはなし    ごんぱち

蛸が来た
サヌキマオ

 海辺の町である。台風が来るとのニュースが繰り返しラジオから流れてくる。これだけの横殴りの雨に客なぞ来ないのだから、とっとと店を閉めてしまえばいいのであるが、五所川原長吉の性分上そうも行かなかった。店はきちんと七時に閉めることに決めた。するとまもなくレインコートをきた八百屋のおかみさんが入ってきて、サビオを買っていった。ほれみろ、とひとりごちていると奥から匂いが流れてきた。今晩はカレーのようだ。
 びいーん、と自動ドアの開くモーターの音がする。おや、と思って目を遣ると、入口の扉の高さ一杯に影が立っている。影は滑るように店の中に入ってくると、雨の雫をぼたぼたと垂らしながらカウンターまでやってきた。
「蛸か」
「ちゅー」
「こんな人の場所にまで何の様だ」
「毛取り薬をおくれ」
 見ると、蛸の全身からまばらに毛が生えている。
「誰かが毛生え薬を投げ込んだのだ。そうでもなくてはこの身體に合う理屈が見つからない」
「しかしよくも効いたものだ。人には効かぬくせに蛸にはよく効くらしい」
「笑い事ではない。一同あらぬところに毛が生えて、困っておる」
「脱毛クリームというものがあるにはあるが、蛸に塗ってもいいものか」
 しかたなく棚から脱毛クリームを手に取ってはみたものの、皆目見当がつかぬ。
「代金はお持ちかね」
「幾らするのだ」
「税込で864円だ」
「ちゅー、それは幾らなのだ」
「864円といえば、864円だからなぁ」
「そんな効くか効かないかわからないものに――」
「じゃあ帰り給え。私にはどうすることも出来んよ」
「ほら、もっと何かあるだろう。毛自体を切ってしまうとか」
「鋏でいいか」
「うまく扱えるかどうか」
 蛸は思いの外器用に鋏を使って毛を切った。腕に生えたものは切ってやった。切ってやるうちに安全剃刀のほうがいいのではないかと思いついた。案の定よく剃れた。蛸には三つで百円のカミソリを持たして帰した。
 あとにはびしょびしょの床と磯臭が残った。

「えー、消防部からの、お知らせです」
 夜八時をすぎると無線連絡がある。消防部長のシノザワの親父さんの声だ。
「えぃえー、己斐ヶ浜に大量の髪の毛が打ち上げられておりましたっ。ちょっとジンジョーでないですもんで、地元警察も呼んで調べましたが、ほか一切のことはわかりません」
 その後、蛸が薬局を訪れることはない。颱風の過ぎた後の町は型どおりに暑くなり、したがってすっーとするシャンプーがよく売れる。
蛸が来た    サヌキマオ

煎餅
小笠原寿夫

 昔、ある所に、お爺さんとお婆さんが、一軒の家に住んでいました。お婆さんは、突然、言いました。
「尺八してやろうか!」
お爺さんは、
「いいよ。」
と断りました。
「パイ摺りしてやろうか!」
お婆さんが、捲くし立てます。
「無理だよ。」
お爺さんは、嗜めます。それでもお婆さんは、諦めません。
「美味しい煎餅を焼いてやろうか!」
「ああ頼む。」
お婆さんは、七輪を用意して上手に、米を平たくし、煎餅を焼き始めました。醤油で味付けをして、美味しい煎餅が出来上がりました。お爺さんとお婆さんは、美味しい煎餅を食べながら、幸せそうです。
 一部始終を見ていた隣のお婆さんは、家に帰って、ガラッと戸を開け、お爺さんに言いました。
「尺八してやろうか!」
隣のお爺さんは、言いました。
「ああ頼む。」
隣のお婆さんは、若干、怯みました。
「いや、そうじゃなくて、パイ摺りしてやろうか?」
隣のお爺さんは、言いました。
「いや、だから頼む。」
隣のお婆さんは、困ってしまいました。
「え?そうしたら、美味しい煎餅を焼いてやろうか。」
「いや、それはいらない。」
そこへ、隣から、お爺さんとお婆さんがやって来ました。
「これ、いっぱい作ったから、お裾分け。」
お婆さんは、美味しそうな煎餅を差し出しました。お婆さん二人とお爺さんが二人、四人で、煎餅を食べました。
「ありがとう。どうして、貴方のところは、そんなに仲が良いの?」
隣のお婆さんは、尋ねました。
「あらまぁ、貴方のところだって、仲が良いじゃない。」
「そうかしら。」
「そうよ。」
煎餅を齧る音と、お婆さんの雑談で家の中は、楽しげになりました。
「いつまでもこんなにも楽しい日が続けば良いのにね。」
「本当にそうだわ。」
隣のお爺さんは、待ちくたびれて、言いました。
「おーい、熱いお茶は、まだかいな。」
お婆さん二人は、同時にお爺さん二人を睨み付けて、その日一番大きな舌打ちしました。
「それにしても、私たちって幸せだと思うわ。」
「私もそう思う。」
「この煎餅、上手に焼けているわね。」
「そう言って貰ったら、作り甲斐があったわ。」
お爺さん二人は、何にも変え難い溜息をついたそうな。
 囲炉裏の灰が、息っています。乾いた煎餅の音が木霊して、煙管の火が囲炉裏の中にぽとりと落ちました。それから、お爺さんとお婆さん、そして隣に住んでいるお爺さんとお婆さんは、誰一人呆けることなく、生涯を幸せに暮らしましたといいます。めでたしめでたし。
煎餅    小笠原寿夫

カエルの王子さま
アレシア・モード

 池を覗き込んでいるうちスマホを落としてしまい、うろたえている時だった。大きなカエルが水底から出てきて、こう言った。
『お姉さん、僕が取ってきてあげるよ。その代わり……』
「何?」
『僕と一緒に食事して、今夜は一緒に寝てくれるかな?』
「……いいわ」
 君のようなカエルを探していたのだ。


 机の上にノーパソ、隣にはマクドのシャカチキ。その隣に小さなプラ水槽があって、中から妙なカエルが物欲しげにこっちを見ている。
『約束でしょ。僕にもシャカチキくださいよ』
「ミルワームでいいだろ」
『何これ芋虫? キモーイ』
「じゃあ自家製高級食材デュビアを出すよ。ほら幼体」
『ひい、ゴ※※※』
「カエルのくせに虫が怖いの? 君は何を食べたいの」
『だから……シャカチキを一緒に』
「マジかよ」
 私は呻きながらキーボードに指を走らせる。
「――人の声のように啼きます。餌は鶏肉を好みます。ワーム、デュビアを嫌います」
『さっきから何をやってるの』
「――発送は60サイズ着払です。死着保証できません」
『ひょっとして僕……売られるの?』
「やっと気付いたか。何のために網持って池を覗いてたと思ったんだ?」
『いやだあ! 一緒に食事して寝るの!』
 感情的なカエルの顔というのがこんな不細工とは思わなかった。
「なぜなの。何かワケがあるの?」
『もう全部話すよ』

――僕は本当は王子様なんだ。悪い魔女の呪いでカエルの姿にされたけど心優しい娘の愛で王子の姿に戻れる。そして二人は結婚して幸せに暮すんだ……

「王子様……結婚……ほお」
 私は煙草に火を点けた。
「無理。自分を王子様とか言うヤツ無理。この世に王子など居ない――いや居るけど、日本の池には居ない。王子を自称する原因は色々考えうるけど、カエルのままの方が幸せなんじゃ……」
『うわあん、呪い解いてよ!』
『私からもお願いデス!』
 突然、窓から何やらロボットじみた大男が入って来た。ああ、これで何とかなるかも。
『私は鉄のハインリヒ。王子様の忠実な家来デス。カエル事件以来、悲しみに胸が張り裂けないよう鉄帯を巻いて巻いて厚さ二〇〇ミリ、でも限界デス。間もなく我が胸は張り裂け、弾けた鉄帯は灼けた破片となり周囲を破壊するデショウ』
「王子が元の姿に戻れば、それを防げるの?」
『そうなれば我が胸は、喜びのあまり張り裂けるデショウ』
「もうええわ!」
 私はハインリヒの胸にカエルを叩きつけ、二人を窓の外に蹴り落とすと床に伏せた。
カエルの王子さま    アレシア・モード

うつせみ
野崎 紺

うつせみ

 ねえ、貴方。
少しばかり私の話を聞いてくれるかしら。
 これは、ある人から聞いた話なのだけれど。
貴方はこの世に「人であり、しかし人ではない何か」が存在するとしたら、それをどう思うかしら。

 それはね、とても色の白い、たいそう美しい娘だったそうよ。
その当時、人気が下火になりつつあった見世物小屋の、一番奥の座敷に閉じ込められていたその娘は、自分のことを半獣、「蛇の娘」だと言い、身の上話を始めたのだそう。
勿論、その人は、そんな話はじめは信用するはずもなく、ただその「蛇の娘」の身の上話を聞いていたそうなのだけれど。

---

 男はこの「蛇の娘」だという少女の身の上話に耳を傾けることにした。

「あのね、私のお母様は、蛇の女だったの。今の私みたいに、見世物小屋で閉じ込められていたわ。
 ある時そこで、お母様は人間の男と恋に落ちたの。そして、暫くするとその見世物小屋を男と逃げ出したのよ。でもそんなことをしたら、見世物小屋の主人が黙っていなかったわ。血相を変えて二人を探し始めたのよ。手を替え品を替え、あらゆる手を尽くしてね。
 それでも最初は二人とも、上手く隠れて逃げていたの。でも、片や人間、片や半獣。非力な二人は結局捕まってしまった。見世物小屋の主人にね。
 そしてその時、お母様はお姉様と私を身篭っていたの。それを知った見世物小屋の主人に、お母様と男はどうされたと思う?」

「どうされたんだい?」

「男は殺され、川にそのまま捨てられたわ。お母様のほうは…。見世物小屋の主人はお母様がお姉様と私を身篭っているのを知ると、お母様の腹を無理矢理切り裂き、お姉様と私を取り出すと、虫の息のお母様をほかの見世物小屋へ売り払ったの。」

「ほう。」

「暫くすると、お姉様もほかの見世物小屋へ、タダ同然の値段をつけられ売られて行ったわ。なぜなら私は半獣で、お姉様は完全に人間の形をしていたからよ。」

「ほう。」

 話し終わると、少女は座っていた下半身を崩し、畳の上へ片手をつくと、もう片方の手で黒く長い髪を掻き上げた。着物の隙間からちらりと白い肌が見える。
 そして、流し目でこちらを見遣るとこう言った。

「私も、お母様のように恋をしたいわ。」

---

 これは、ある人から聞いた話なのだけれど。
私の話はこれでおしまいよ。
 そして、ここからは至極個人的な話なのだけれど。
 貴方、この近くの見世物小屋で、黒髪の蛇の娘がいる所を知らないかしら。
うつせみ    野崎 紺

せんちで見たほしの話
今月のゲスト:下畑卓

 つきの ない よる でした。
 ここは せんち です。てつかぶとや てっぽうが、いそがしく うごいて います。たたかいが すぐ はじまるの でしょう。
「おい。よういは できたのかい?」
 一人の へいたいが、となりの へいたいに いいました。けれども その へいたいは こたえません。空を 見あげて いるの です。空は 月の ない まっくらな 空 でした。
「なにを 見てるん だい。おい。」
 また ひとりの へいたいが、いいました。
「ほし だよ。」
 その へいたいは、空を 見たまま こたえました。
 まっくらな 空には てんてんと ほしが ちらばって いました。よういを して いた へいたいも、手を とめて 空を 見ました。ほしは きら きらと かがやいて います。
「むこうの 三つ ならんだ ほしの みぎの はしのが、ぼくのだよ。」
「ふーん。」
「その つぎの ほしが おとうとの だよ。」
「ふーん。」
「その つぎに つづいて いるのが、その 下の おとうとの だよ。」
「ふーん。」
「ぼくたち 三にんは、いえの うらへ あがっては あの ほしを 見たもの だ。きょうも やっぱり 三つ ならんで いるよ。」
 そう いうと、その へいたいは あんしん したように ほしから 目を はなしました。そして、いそがしそうに よういを おわりました。
 やがて たたかいが はじまるのか、
「あつまれ!」
 と、ごうれいが きこえました。ほしを 見て いた へいたいは、げんきで ならびました。そして なにが うれしいのか、にっこり 笑って、ものを いいました。それは あたりが さわがしくて はっきり きこえませんでした。けれども、
「つぎから つぎへ ならんで いるので……」
と、いった ことは たしかに きこえました。

(十六・九)