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十二支のはなし
ごんぱち
むかし、神様が動物たちにお触れを出しました。
「正月の日の出の頃に私の所に挨拶に来なさい。早かった順番に十二種類を、年を守る動物に任じよう。尚、徹夜や門前の場所取り、座り込みは禁止だ」
年を守るというのがどういう事か動物たちにはよく理解できませんでしたが、名誉な事は分かりました。
頭の良いイルカの一族は考えました。
「どうせなら一番になるのが良かろう。近くで野営をするだけなら、門前の場所取りにはなるまい」
イルカ達は神様の家から少し離れた入り江に、こっそりと陣取りました。
二晩過ぎて大晦日の夜。
「――行って来る」
イルカの中で一等泳ぎの早い者が、入り江から勢い良く泳ぎ出しました。
「イルカ君、お早い出発で」
声をかけたのはシャチでした。
イルカが反応しようとした時には既に、シャチの鋭い歯が腹に食い込んでいました。逃れようともがく間もなく、イルカは天高く放り投げられ、水面に激突して意識を失いました。
シャチは同じ要領で、アザラシ、トド、セイウチ、クジラと、次々に海の獣を倒して行きました。
「ははは、我々が最も賢く、最も強い、動物の一番になるのだ!」
血に染まった海でシャチが高らかに笑い、神様の家に一直線に向かいます。神様の裏手の浜の、海の動物用のゴールラインが見えて来ました。
「日の出と同時だ! 陸の生き物にはここまで正確に星は読めまい!」
力強く砲弾のように進むシャチが、正にゴールラインに到着せんとした時。
シャチの身体が竜巻に呑まれ、空に吹き上がりました。
竜巻と見えたのは、水に姿を変えた竜でした。
「シャチよ、何のために神が力比べや殺し合いではなく、平和的な競走をさせたか、その意を何故酌まぬのか!」
竜はシャチを水に叩き付けました。すっかり目を回したシャチは、何も言えませんでした。
結局、神様の家に挨拶に行くことが出来た海の生き物は、竜だけでした。その為、十二支はほとんどが陸の生き物になったのです。
山鯨がいるじゃないかとか言われても、昔の事ですから、そんな呼び方はまだないのでした。魚や両生類、昆虫、植物、菌類などは、神様的に別系統なのでアナウンスの対象外でした。爬虫類は朝に弱いタイプが多く、結局蛇以外はダメでした。
神様は、このレースに勝利した生物の長所を集めて究極生物を作ろうとしましたが、気負いすぎたせいか、器用貧乏なのが出来ただけでした。
ずぅっと昔の、お話しです。