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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage4
第22回バトル 作品

参加作品一覧

(2019年10月)
文字数
1
ごんぱち
1000
2
サヌキマオ
1000
3
蛮人S
1000
4
江見水蔭
1283

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コミュニケーション

QSHOBOU掲示板

実りの秋
ごんぱち

「おやつ買って来たぞ、蒲田」
「さんきゅ四谷、丁度仕事が煮詰まってたとこだ」
「ったく、第二四半期だからって忙しくならなくても良いんだよ。普段からコツコツと進めておけば、こんなに忙しくはならないんだ」
「決算なんて売り上げ確定してない時にはどうしようもないだろ。んで、何買って来たんだ」
「これさ」
「ほほう、栗饅頭か。年中売っては居るが、この時期だと丁度季節物って感じがして良いな」
「だろう」
「この栗あん。大きく齧ったらパサパサするが、少しづつ齧ると良い感じに味わい深い」
「昔ばあちゃんが、ケーキを『一口をそんなに大きく食べないで、舐めるようにしなきゃおいしくないだろう』と言っていたが、こういう感覚なのかな」
「あるだろうな。年寄りは水分少ないし」
「だから熱中症にもなりやすいんだよな」
「がぶ飲みしようと思っても、むせて誤嚥性肺炎とかなるしな」
「さて、休憩も住んだし、仕事するか!」
「おう!」
「……四谷君、蒲田君」
「あ、課長」
「どうしました?」
「なんでバイバインの話が出て来ないのだね!」
「ああっ! し、しまった!」
「つい、でも、おばあちゃんほっこりエピソードが」
「今更言い訳かね! 栗饅頭はバイバインの枕詞だろう。まったく入社何年だね、そんな事だから大した成績も上げられないのだよ」
「で、ですが課長、この前の会議で逆転の発想と」
「そうです、逆転で」
「言いたい事はそれだけか? 今度の査定、楽しみにしておくのだな!」

「……畜生、課長のヤツめ」
「四谷、パワハラなんかに屈しないぞ、俺達は」
「そ、そうだ。栗饅頭だからって、バイバインばっかりじゃないんだ!」
「大体、栗饅頭よりもバイバインの方が発明が遅いんだ。栗饅頭パイセンの実力だけで、物事は成立するんだ」
「そうとも、栗饅頭はそのままで良いんだ!」
『――私は栗饅頭の精』
「うわ、なんか出て来た」
「栗饅頭体型だ!」
『あなた方の心意気しかと受け取りました。それに応え、私も分裂して宇宙を埋め尽くすのを辞めましょう』
「いや、あんたにその力がある訳じゃないだろ」
「あんたはただの食い物だよ」
『無礼者め、栗饅頭のピカピカのとこフラッシュ!」
「ぎゃああ、目が、目があああああ!」
「畜生、よくも蒲田を! かくなる上は、牙はゴリラの原始の炎、噛みつき攻撃だ!」
『うおっ、何をする!』
「もぐもぐもぐ」
「むしゃむしゃ」
「――後はお茶が一杯怖いな、蒲田」
「怖い物の話はしてなかったろ」
実りの秋    ごんぱち

サヌキマオ

 小春さんが三月に亡くなって半年も経つんだなぁ、と得心したのは「おます」の看板が変わったからだ。おますは小春さんが独りで切り盛りしていた小料理屋で、三吉も毎週のように通っては看板までだらしなく居続けたものだ。短躯にぽっちゃりしたところのある小春さんはもともと心臓が弱かったようで、去年の今頃に手術のために店を休んで、それっきりになってしまった。娘ふたりが就職しているというから、六十でこぼこだろうか。
 とまれ「おます」の話だ。一階は店舗、二階は住居の三軒長屋。右手におます、真ん中には金物屋があったが閉めてしまってがらんどう、左端はうなぎ屋で、若いときから陰気な店主がいまだに割烹着を着ているのを見るから、まだ営業はしているのだろう。
 後釜の店はいわゆる居抜き、内装を変えずに営業を始めたようで、女手で書かれた「おます」の文字が、太黒い明朝体の「ぺ」に変わっている。
 三吉が異変に気づいたのも「ぺ」のおかげだ。もう夕暮れだというのに、入り口の薄いガラス戸の向こうには明かり一つない。
「変なものができちゃったな」
 もうあの店の前は通りたくないな、とつくづく思うと、ずいぶん気がふさぐようになった。

「あれ」
 家の修繕の道具を買いにホームセンターに行こうとすると、妻にあれこれと頼まれた。塗料と養生シート、そして歯磨き粉を買って帰ってくる。
「あのー、あれだよ。いつもの歯磨き粉がなかったんだけど――」
 ぐっと言葉に詰まる。あのマークのだ。あの白黒の、飛べない鳥のマーク。
 アレなんだけどな。三吉は紙と描くものを漁ってみたが、字を書くアレもない。ようよう引き出しの奥から鉛筆が出てくる。
「ほら、こういう白黒の、丸い頭の鳥がいただろう」
「歯磨き粉なら何でもいいんですよ。ありがとうございました」
 あの鳥の名前、なんだったろうか。
 もやもやとしたまま夜を迎える。晩飯はおでんだ。おでんは三吉の大好物だ。特にあの、
「おい、アレ、はいってないけど」
「アレと云いますと?」
「ほら、三角で、白くて、魚のすり身で出来てるやつ」
「すみません、蒸し身でしたら今日はスーパーで売り切れてて」
「違う!」
 癇癪のあまり家を飛び出してしまった。妻には悪いが、おかしいものはおかしいのだ。
 怒りが収まってとぼとぼと歩いていると、三吉は例の「ぺ」の前にいた。
 店の戸は開け放たれていて、例の――飛べない鳥が店の中にぎゅうぎゅうとしている。
ぺ    サヌキマオ

アメリカン・バイオレンス
蛮人S

 ノックの音がする。鋼の音で。
 善良なる米国市民ハシムは、アパートの一室で友人のサリムとビデオを観ている。ハシムはチェーンを掛けたまま、開いたドアの隙間に巨大な機械を見る。ドラム缶のようなボディ、重機の如き腕、万力に似た頭部がランプを明滅させ、ぶんぶん唸っている。何だこいつと本能が怪しむ。
『私ハFBIノ、モルダア捜査官デス』
「ウソつけッ」
 途端に金属を裂く音、もぎ取られるドア。ばつりと切れるチェーン。悲鳴を上げるハシム。
『テーコ・シナーイ、テロリースト!』
 機械、叫びながらドアを投げ捨てる。侵攻開始。サリムが飛び出す。
「何者だ」
『オダマリン!』
 機械の腕になぎ倒される二人。
『イラン・プッカン・アクノスジーク! メリケンダマシー・ナハトムジーク! オメーラスデニ・シニヌルヲ!』
 ごりごりっと回転する鉄の頭部。がちゃりと止め金が外れ、唸りとともに飛び出す鉄頭、テレビに命中して破裂、たまたまそこに居たジェームズボンドを粉砕する。
『ジョオォーサマノ、アサッテシネーイ、ニドシネーイ!』
 鉄頭の抜けた穴から、次の鉄頭が生えてくる。その目が妖しく光り始める。
『ゴッド・ビーム!』
 叫ぶなり鉄頭は爆発する。破片やネジが四散して壁を抉り、爆発した頭の穴から次の鉄塊が出てくる。
『ダイダイダーイ!』
 鉄のオレンジが爆発し、穴から次の鉄塊が出る。ラシュモア山。
『ジャスティス、フリーダム、デモクラシー!』
 四人の大統領は叫びながら腕を振り、壁や家具を殴ったり噛み砕いたりする。住人二名はとうに逃げ出している。通り掛かった市警察の車に泣きながら訴える。
「助けて、ロボットが攻めてきた」
 警官、当然無視する。その眼前に巨大なスタローンの顔を持つ機械が耳鼻口から火を吹きつつアパートの壁を破って現れる。
『パワー、パワー!』
 警官、悲鳴を上げる。見たままを本部へ無線機で連絡するが、当然無視され涙を流す。
「主よ、私は今この異教徒たちの悲しみを知りました」
「私クリスチャンです」とサリム。
 機械はなお腕を振り火を吐き電磁波を出し頭を吹き飛ばし叫んでは暴れ続ける。だが次第にテンションを落とし動きを止める。瓦礫と化したアパート周辺。
 警官が震えを止められぬまま呟く。「恐るべき狂い機械だ。誰の差し金か知らぬが、あまりに危険で、そして虚しい」
「その通り」ハシムが頷く。警官はなお続ける。
「言ってる事は結構マトモだったけど」
アメリカン・バイオレンス    蛮人S

断橋
今月のゲスト:江見水蔭

 渡るべきか、渡るまじきか。渡りて何処いずくへ行くと言う目的のあるにあらねど、何となくただ渡りたき心地して、既に早や片足は断橋の板を踏みぬ。されども思い直して急に後に下り、試みに片足を浮かせ、力を込めて橋板を蹴れば、めりめりと音してゆらぎぬ。杭の下にありたる小石は山崩れの時に似て、雨の降る如く落ちぬ。下は数十尺の谷底にして、急流岩を弾き、絶壁の岸を打って声はらいに似たり。我は身震いしてなお五六歩引き下りぬ。さてはこの橋上の霜の上に、人の足跡のいんしてなきは、今日一日誰も渡らざりしならんと思いたる我の想像、全く過まりき。幾歳いくとせの前よりか、樵夫牧童の行来ゆききを絶ちて、恐らくは狩犬もここをぎらざるならん。危かりき、危かりき、僅かに彼の岸と此の岸とをつなぐただ名のみの橋板と共に、我が生命は、絶えて、失せて、先程の小石の如く谷底の渦巻の中に没したるならん。
 ここは昔の七湯道、底倉より木賀へ行く者は必ずこの橋を渡りしに、新道開けてよりは、今捨てられたり。万年橋との名を冠らせたるは、かくまでに朽ちよ、これまでに傾けよとての心にはあらざりしならん。世の変遷はなお箱根の山中にも見られる。
 我はもはや橋を渡らざるべし。さらば何処いずくにか行かん、道は元来し方の他には、崩れたる崖と崩れたる岸との間を通じて、ただ一つの細道あるのみ。されどもこれは温泉を土管にて引きたるその欠所より噴き出す熱湯の散り敷く木葉を腐らして一種の臭気ころもを染むるが故に、進みて行かん事このもしからず。我は留まりて椿の老樹の下に立ちぬ。
 ふと見出したるは橋の向うの根方、枯草の中に埋れたる石碑なり。太閤之石風呂何々と刻みたる文字のみ見えて、他は読むべからず。遠く隔ちたるが故か、近寄りても恐らくは苔蒸して知れがたかるべし。
 さすればこの蛇骨川の、この土管の源の、小瀑布を成したる岩石の下に、洞の如き滝壺ありて、落下する清泉の飛沫を圧し、湯気炎々と立ち登る処は、豊太閤ほうたいこうが小田原攻めの時、浴したりと言う石風呂にやあらん。柳北翁かつて之に題し。浴室猶留太閤名よくしつなおとどむたいこうのな想曾此地建行営おもうかつてこのちこうえいをたつるを底倉谷裏淙々瀑ていそうこくりそうそうのばく似聴当年叱咤声きくににたりとうねんしったのこえ
 我は之を口裏に吟じて、さるにても未練らしく橋の根に進み行きぬ。
 突如として枯草の中よりあらわれたる女あり。彼の石碑の傍に立ちて一休みなしぬ。その時彼は此方こなたを見て我ある事を知りぬ。我もまた彼のおもてを見るを得たり。年の頃は十四五、色白く、髪黒く、愛らしく、美しく、何とも言えぬ神様の如き娘なりき。彼は山芋やまのいも掘りにとて来りしならん。背に籠を負い手に鎌を持てり。その顔、その姿、わが恋人に似たり。もしやその人にあらぬかと思いき。されどもかの恋人は、去年の冬この世を去りて、今は黄泉こうせんの客たり、ここにきたる事は決してあらず。
 思う内にかの芋掘の少女は、我を背にして彼方の道を急足はやあしに歩み行きぬ。こや振返れよと念じき、されども見向きもせざりき。何となく可懐なつかしくて跡より追わんと思いたりき、されどもこの断橋の危きをいかにせん。危さを忘れて踏まんとぞ勇みけるが、またもやばらばらと崩れ出したる小石に驚きて、いと口惜しき心を永くこの景色の中に刻みぬ。