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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage4
第29回バトル 作品

参加作品一覧

(2020年 5月)
文字数
1
サヌキマオ
1000
2
ごんぱち
1000
3
アレシア・モード
1000
4
オー・ヘンリー
877

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かたつむりの調理法
サヌキマオ

 ある夜、夢に****が出てきて、かたつむりを食える能力を与えると云う。きっとこれからの世界で役に立つから、と****が神々しく光って消え去ったところで目が覚めた。夢は夢であった。でも、夢かもしれなかった。本当にかたつむりが食えるようになっているかもしれない。これからの世界で「かたつむりが食える」ことが世の中の役に立つのかもしれない。
 それなりに良い歳なので、かたつむりを食うに当たっての注意条項のようなものは断片的に知っている。やれ寄生虫がどうの、食用のものは別途養殖しているだの。サイゼリヤのエスカルゴは食べたことがある。あれは油とニンニクとパン粉がうまいのであって、エスカルゴ自体は頼りない肉の粒であると思う。だったら同じ調理法で鶏の胸肉を使った方がよほど食べ応えがあると思う。
 かたつむりを食べるのであった。調べてみれば、なんだかんだ云うても貝の仲間である。となるとバターで焼いてみたり、シチューに入れてみたりするのが適当であろうと思った。寄生虫は、煮れば死ぬのであろうと当たりをつけた。ウィルスだって熱湯にはかなわないのだ。いわんや生物をや、である。俄然やる気がわいてきた。そもそも、今の自分はかたつむりを食べられる身体になっているのだった。前提を忘れぬように出かけることにする。
 近所の公園は長い坂の途中の四つ角にあって、コンクリートで出来た巨きな滑り台を中心に、ブランコと滑り台がある。もう日暮れ時とあって、小学生の高学年くらいの男子たちが数人、スマホだろうかカードゲームだろうか、滑り台の上に集まって遊んでいる。かたつむりがいるとすれば公園をぐるりと囲んだ植え込みだろう。ツツジが白に紫にと花を盛りにしている。次第に暗くなる中、植え込みを凝視しつつ公園をぐるりと一周してみたがかたつむりは見つからない。今日も一日よく晴れていた。やはり雨が降らないとかたつむりは顔を出さないのだろうか。急にいやになってきた。もう帰ろうと思った。ついでにと公園のトイレに入ると、一つだけある小便器に、一匹の大きななめくじが這っているところだった。照明で這った筋が光った。
 なめくじは、かたつむりだろうか。
 自分は何に追い詰められているのだろう、便所から公園の外に出ると、ちょうど自転車に乗った警官とすれ違った。もしかしてさっきの子供たちが通報を、と脳裏によぎったが、警官は何事もなく坂を滑降していった。
かたつむりの調理法 サヌキマオ

やまわさび
ごんぱち

「お待たせしまっしたー!」
 威勢良く言って、店員が皿を置く。
「ども」
「へえ」
 皿にはイカの刺身が盛られ、その上を覆うように繊維質の目立つ白い薬味がまぶされている。
「これがイカ山わさびか」
「その名の通りの佇まいだな」
 四谷京作と蒲田雅弘は薬味ごとイカを箸で取り、醤油皿の醤油につけて食べる。
「ふむ、緑のわさびみたいな風味は少ないが、結構辛みがあってなかなか――ん」
 言いかけた四谷は、口ごもり鼻を押さえる。
「こ……これ、香りは薄いけど、辛さはわさびより強くないか?」
「オツなものだろう。北海道の名産品だ。ホースラディッシュというと、格落ち扱いされがちだが、わさびとは違った旨さがある」
「ホースラディッシュなら聞いた事があるな。ローストビーフとかに添えるヤツだ。ここまで鮮烈に辛くなかった気がするが」
「加工品と生ものじゃ、そりゃ違うさ」
「なればこそ、これだけ単純な料理に名前が付くワケだな」
 暫し二人は、時折鼻を押さえたり、涙を流したりしながら、箸を口を動かす。
「んー、効くぅぅ、でもうまい!」
 ジョッキのビールを飲み干し、四谷はまた一切れイカ山わさびを食べる。
「飲み物何追加する?」
「ビールにしよう。それから、もう少しビールを飲んで、最後にはさっぱりとビールにしようかな」
「ビールな」
「しかし……ホースラディッシュって何で馬って言葉が出て来るんだろうな」
 四谷は山わさびだけを箸でつまんで、醤油皿をひとなでして口に入れる。
「やっぱり、大きいんじゃないか?」
「そうかな蒲田……馬が好んで食べるのかも知れないぞ」
「それはどうだろう」
「異論あるのか?」
「だって四谷、馬はニンジンが好きだが、馬ニンジンとは言わない。ヘビイチゴもしかり、姫リンゴもしかり、ネズミこぞうだって、子象が好きって訳でもないだろう」
「いや、ヒメリンゴは姫が食べそうだな」
「……本当だ!」
「でも実は、ヒメリンゴはイヌリンゴというのが正式な種名なのだ。あんまりおいしくないから、リンゴ飴ぐらいにしかならない、残念な品種なのだ」
「なんてこった! じゃあ、ホースラディッシュはどっちなんだ! いや待て、もしも姫わさびなんてものがあったとしたら、どうなってしまうんだ!」
「……まあ姫わさびは細いんじゃないかな」
「むしろ太くしておいた方が、殿様によっては?」
「太いも細いも殿様次第」
 二人の皿に残ったイカ山わさびを食べる。
「んーーー」
「がおーー!」
やまわさび ごんぱち

インスタントラーメンを強化するちょい足しナイン
アレシア・モード

>>醤油、味噌
 しょうゆ味には醤油を、みそ味には味噌を、それぞれちょい足しする事によって味が本物っぽくなる。なぜなら本物だからである。では、しょうゆ味に味噌、みそ味に醤油を入れた場合はどうなるか。これはまだ試していない。いま思いついたから。塩分が増強される。

>>刻み唐辛子
 辛くなる。ふにゃけた味、さらにはふにゃけた麺にまで、エッジとコントラストを立てる。迂闊にすすり込むと気管の方に唐辛子が飛びこんで酷い目に遇う。そのダメージは刻みの大きさによって異なる。落ち着いて食べる。

>>おろし生ニンニク
 絶対無敵の大魔神、どんなにとっちらかったゲームでも完全に抑えてくれる。投入すればするほど力を発揮する。しかし魔神は後先のことなど全く関知しないという点には留意しておきたい。カロリーと塩分が増強される。

>>牛乳
 白くなる。

>>ダシダ
 韓国リーグからの謎の助っ人。向こうでは大物らしいが使いどころが結構難しく、いまだ用法が落ち着かない感じ。その正体はスナック菓子のいわゆるバーベキュー味の粉としか思えない。塩分が増強される。

>>チーズ
 塩味、みそ味に合う。しかし、実は蕎麦にも合うのである。これは静岡県で人気のトッピングらしい(要出典)。だったら、しょうゆ味にも合いそうなものだ。

>>ゴマ油
 ゴマの香りをつける油で、ゴマから作られる油。スープがゴマと油っぽくなる。ゴマの香りを忘れかけたころに登板させるのがコツである。カロリーが増強される。

>>チリペッパー
 メキシコの赤い陽射しの香り。唐辛子の湿っぽさが何だか合わないと思われたときのピンチヒッター。ただ、そういうシーンはあまりない。

>>小麦粉
 スープにとろみ、というよりはどろみをつける。味の濃さや脂っこさが物足りなくても何となく濃厚にしてフォローできる……ような気がする……カロリーが増強される……と……


「はあ」
 嘆息して、ボスはノートの画面から顔を上げた。
「なんなのぉ、これ」
「いやあ! なぜこんなものを書いたか、私にも分からんのです! 思うにこれは、妖怪のしわざではないでしょうか」
 私――アレシアは、深山で旅人を急激にひもじうさせ行き倒れにする妖怪などについて熱弁した。どう関係あるか分からないけど。
「はい、アラッタ、アラッタ……」
 ボスは投げやりに手を打った。
「これで行くわ、アレシアちゃん。先月号の誰かさんよりはマシ」
「……本気で言ってるよ」
インスタントラーメンを強化するちょい足しナイン アレシア・モード

奇妙な話
今月のゲスト:オー・ヘンリー
蛮人S/訳

 むかしオースティンの北部に、スマザーズという名の正直な家族が住んでいた。家族はジョン・スマザーズと彼の妻、彼本人、五歳になる幼い娘、そして娘の両親からなる六人家族であったが、これは市が特例措置を目指して人口を数えあげた結果であり、実際には三人だけなのだった。
 ある日の夜、夕食の後、幼い娘が激しい腹痛に襲われた。ジョン・スマザーズは薬を買いに町へと急いだ。
 彼は、そのまま帰って来なかった。

 小さな女の子は回復し、やがて一人の女性へと成長していった。
 夫が失踪してから深く心を傷めていた母親は、三か月ばかりの恋愛を経て再婚し、サン・アントニオへと移っていった。
 その頃には娘もまた結婚し、数年の後には、やはり五歳の娘の母親となっていた。
 彼女は、父親が消えて二度と戻らなかった日に暮らしていた家に、なおそのまま住んでいた。
 ある日の夜、彼女の小さな娘が急激な腹痛を起こした。驚くべき奇遇には、その日はジョンが――もし生きて働いていれば、娘の祖父になっていたであろうジョン・スマザーズが姿を消した夜と、同じ日付であった。
「僕が町へ行って、この子に薬を買って来よう」と、ジョン・スミスが言った(彼女が結婚したのは他ならぬ彼である)。
「いや、いやよ、ジョン」と妻は叫んだ。「あなたもまた、どこかに消えてしまうかもしれない、帰ってくるのを忘れて」
 そこで、ジョン・スミスは行かなかった。二人は一緒に、小さなパンジー(それが娘の名前である)のベッドのそばに座った。
 しばらくして、パンジーの様体は悪化してきたように思われた。ジョン・スミスは再び薬を買いに行こうとしたが、しかし妻は彼を行かせなかった。
 急にドアが開いて、長い、白い髪をした、前かがみの、腰の曲がった老人が、部屋へと入ってきた。
「おじいちゃんが来たわ、こんにちは」パンジーが言った。彼女は、誰よりも早く、老人に気づいていた。
 老人はポケットから瓶を取り出すと、パンジーにスプーン一杯の薬を与えた。
 彼女はすぐ元気になった。
「ちょっと遅くなった」ジョン・スマザーズは言った。「市電を待っていたもんでな」