Entry1
蝦夷
小笠原寿夫
雪が散らつくには、まだ早い。
「こんな重たい荷物、何に使うんやろなぁ。」
彦八は、額に汗を掻きながら、ぼやいている。
「俺にもわからん。これが世の中のためになるとは思われん。」
漬物石の数倍の重みのある、その荷物を背負い、坂道を歩いていく五郎は、くたくたになった身体で、肩で息をしながら、ようやく答えた。それを度々、山頂まで置いてきては、また山を下る。
羊蹄山を登るその足は、いつしか相撲取りにでもなろうか、という程、太く逞しくなっていた。彼らは、賽の河原に石を積む亡者のように、泣き言ひとつ言わない連中の中では、口が立った。二人は、元々、摂津の生まれの為、方言が抜けない。
「俺ら、このままやったら無意味に死んでまうぞ。」
聳え立つ羊蹄山の麓で、また荷物をひとつ抱え上げる。
「よいしょ!」
彦八の額の汗は、尋常ではなかった。
「らはが北山。」
五郎はそう言って、石段に腰を降ろした。食事だけはたらふく食ってもいい、という指示が出ていたので、そこで握り飯を頬張った。
「お前、せこいぞ。そうやって時間稼ぎする積りや。」
彦八は、五郎の悪態を突いた。
「なぁ、この荷物の中身、気にならへん?」
五郎は、いきなり、そう切り出した。少し悪意に満ちた表情で、こっちを見た五郎の言葉が、図星を突かれたせいか、彦八は絶句した。しかし、この荷物を開けることは、一切、許されていなかった。
「そ、それはあかん。大名に首切られたら、どうする積りや。」
「だけど、どうせこれを続けて、あの世行きやったら、中身を確認してからの方が良くないか?」
他の連中は、文句ひとつ言わず、汗を掻いて荷物を背負っている。
「こんなもん、せたろうて山登るねん。何か意味があるはずや。気になるやろ。」
五郎は、もうひとつ握り飯を頬張った。
「せやけど。」
彦八は躊躇った。
「なぁ、ええやろ。荷物開けようぜ。千両箱かもわからんぞ。」
五郎の図々しさと、一回思いついたら、梃子でも動かない石頭は、良くも悪くも彦八を困らせた。引き攣った顔で、彦八は、
「おぅ。」
と小さく呟いた。彦八は、ざくざくの小判を連想して、少しにやついた。風呂敷を広げると、その大きな荷物は、黒く重箱を大きくしたような形状をしていた。中を開けるのは、容易かった。鍵もついていない。彦八は驚いた。
「水屋やないか!」
「他のも開けようぜ。」
中身は桐の箪笥や寝具などの嫁入り道具だった。
「見るんじゃなかったな。」
「な。」