水戸のやつ 付:糊屋の婆さん一代記
サヌキマオ
「助さん、格さん、デオキシリボ核酸、熊さん、八っつぁん、モリノーク・マサーン、オタケサンオタケサン、インベーダーインベーダー、存分に懲らしめてやりなさい!」
水戸光圀公の指示により、悪代官は斬られ、伸され、たちどころに縛り上げられ、全身を鳥に突かれ、犬に金玉を噛まれ、ついでに額にうんこの絵を描かれました。
いままでの悪事が走馬灯のように脳裏を去来します。あのとき根こそぎ奪った一握りの種籾、あのとき年貢代わりに攫った村の美人三姉妹……どれもこれも、今となってはいい思い出でした。楽しかった、貧困に喘ぐ人々の顔をこれでもかこれでもかと踏みつけて――実際に踏みつけはしませんでしたが、そんなようなことをしてきたのです。
モリノーク・マサーンが持ち前の怪力で悪代官を松の木に縛り付けます。助さん格さんを初め、いつの間にか軍平さん、上海屋のリルさん、横丁のご隠居に糊屋の婆さんまでやってきて見物している。密です。圧倒的に密。こんな危機的状況でありながら急に腹が痛くなってきた。冷え切った腸の中のものが出口を求めてぐるぐるしている。
もうそこからは土壇場修羅場、デオキシリボ核酸が執拗にまとわりついて生物としての情報を書き換えようとしてくる。熊さんは明後日の方向に立て板に水の啖呵を切り、八っつあんはここに来るまでに茶店で食べた団子が古かったのか急に苦しみだす。いてててご隠居、おいらァもう死んじまうかもしれない。オタケサンオタケサンは狂ったように上空を飛び回り、舞い落ちる翠色の羽から毛じらみ、毛じらみ毛じらみ毛じらみ。収拾がつかなくなってきたところで光圀公、これ頃合と息を吸い、助さん格s――まで発したところで上空から16tの錘が落ちてきた。上海屋のリルさんが一足早かった。
Now, something completely different... ジョン・クリーズや。ジョン・クリーズがおる。軍平さんの背に負われた糊屋の婆さんが前のスケッチから逃げてきた。
糊屋の婆さん、むかしは義太夫のお師匠などして弟子をとっていたらしいが、酒灼けで喉を潰してからは、ほうぼうの家から乾いて固まった米粒をもらっては小鍋で煮立て、柔らかくして潰しては糊を作って売って小銭を稼いでいた。こういう仕事は座って出来る老いても出来る、ふいに大風が吹いて驚いて振り返ると、先程の16tでぺったんこに伸された御老公一行が、ひらひらと風に乗って西の空に旅立っていきました。