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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage4
第46回バトル 作品

参加作品一覧

(2021年 10月)
文字数
1
サヌキマオ
1000
2
(本作品は掲載を終了しました)
ウーティスさん
3
ごんぱち
1000
4
アレシア・モード
1000
5
宮本百合子
966

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廿四の眼
サヌキマオ

 え、じゃあちょっとまってくださいよ、あらためて勘定しますが、キチョメット星人が二、地球人がおふたりで四、栗苛め星人がおひとりで三。ヤツメ星人さんが四。ここまでで十三だ。ここにウンモ星人さんが二、ヴォロネジ星人さんが三に月産まれのリャマが二頭で四。合わせて廿二。ほら、おかしいんですよ、搭乗者リストには眼球が全部で廿四とある。これでは数が合わない――え、なんです? お前はここで何年働いているんだ? 冗談言っちゃあ不可ません、あたしゃここの番頭をやってそれこそ三十年。え、じゃあ、はあはあ、今は何月だ? 決まってるじゃないですか、十月ですよ。へ、十月の、栗苛め星人の目玉は……あ、なーるほど、これはやられました、返す言葉もございません。蛸淋し乾季の栗苛め星人の目はひとつになるんでした。これは大間違いのこんこんちき。
 するってぇとですよ、合わせて廿一。にじゅういち……合いませんねぇ、どうも痒いところに手が届かない……え、なんです?
 心眼?
 ええ、存じておりますが、心眼も? このリスト、心眼も含めて廿四ってことなんです? 少々お待ちを――失礼しました、本部に問い合わせてまいりました。心眼、ございましたねぇ。このリストを作ったやつも作ったやつでございますんですよ、自分の仕事をよく考えていない。団子鼻独立戦線の若いやつでしてね、ホントなんでもかんでも採用す――いえ、失礼いたしました。これは内々の話でございました。
 心眼まで勘定に入れますてぇと、栗苛め星人さんが二。へぇ、心眼てのはおひとりにふたつあるもんなんですか、ええ、苛められる側とそれを客観視する側でひとつずつ。ヴォロネジ星人さんが〇・五。半分ですか? ああ、ヴォロネジ星人はパートナーとふたつで一つ。家に奥様がおいでになる。さいですかどーも……するってぇとどういうことだ、ふたつと半分で二十三・五。あと一・五。弱っちゃったなぁ、そんなに簡単に〇・五なんて心眼があるものかしら……他、どなたか心眼をお持ちの方!
「あのう、わすらウンモ星人の心眼はァ、いわゆるマイナスふたつですけんども」
「のう丹下の、ガイドのやつはああ云っておるが、儂やお主のような者の心眼というのは、一つ眼かのう、二つ眼かのう」
「さあて、そんなもの、今までに見たことも聞いたこともない」
 そういって呵呵と笑った三船敏郎と大河内傳次郎の声が、宇宙エントランスに響き渡りました。
廿四の眼 サヌキマオ

(本作品は掲載を終了しました)

トロッコ(日本での一般的解釈に拠る)問題
ごんぱち

 そこに僕がいたのは偶然だった。
 日々の辛さに心を削られて、ようやく仕事を辞めた。
 軽いバカンス気分で、次の仕事とのインターバルを長めに取った。
 学生から就職を経て、常に当たり前に存在していた自分を定義していた言葉が失われると、その重さよりも、それがなくても結局存在している自分自身に、少し笑えた。
 色々なところを見た。
 自分探しと言えば安っぽい。旅行先に、いつも行かない店に、一万回通り過ぎた路地の奥に、大した物がある訳じゃなかった。でも、そんな事を続けるうちに、どうしようもなく湧き上がって来た。「卒業」した筈の音楽。捨ててないって言い訳しながら、触らなくなったもの。
 そんな歳ではない。そうかも知れない。そりゃそうじゃ。でもまあ、一曲。書いてみよう。僕は結局、何かある度に、つい歌ってしまう生き物なんだ。
 サビの部分を考えながら通りかかったのが、炭鉱の、線路のポイントの前だった。
 ふと見ると、トロッコが高速で走って来ていた。反対を見ると、トンネルが一つあって、そのまま走れば中にいる五人の作業員は、轢かれてしまいそうだ。轢かれるって漢字、車偏に楽しいって、ちょっとロックだね。ポイントを切り替えれば助けられると思ったんだけど、反対側にはなんてこったい! 犬釘を靴ごと打ち込んで、どうにも逃げられなくなっている作業員が一人。
 こんなに空は、青く晴れている。

「――有難うございました、オール反申臣入さん。さて、実際はどないなっとりますか? 庶民経済評論家『庶民王子』こと四谷京作先生」
「この場合、法律では五人を助ける義務がなく、切り替えれば一人の殺人と判断されるので、何もしないのが正解ですが、我々は別の考え方をします」
「どないに?」
「我々経済人は、手に入れられなかった利益を損失と思考します」
「だとするとこの場合は、ポイントを切り替えて五人を助けて味方に付け、礼金をもろたり証人として無罪を勝ち取ったりするって事ですな」
「君は金銭以外のものはタダだと思っていないかね。日本の場合容疑者段階で実名報道され社会的制裁を受ける。無罪どころか不起訴だったとしてもマスコミはせいぜい別のニュースとして垂れ流すだけで、名誉回復なんて気にも留めない」
「ほなら結局どないすんねん」
「動画で撮って、再生数を稼ぐのだ!」

「……まさか現実にそういう場面に出くわすとは思わなかった」
「広告剥奪されちゃいましたよ、先生」
トロッコ(日本での一般的解釈に拠る)問題 ごんぱち

水のモイラ
アレシア・モード

 思い立って、墓を掃除しに向かう。管理された墓所なので手入れの必要は少ないが、なぜか足を運ぶ事が時々ある。私――アレシアは山沿いの途を――山の樹がそれと解る程度の山沿いを、自転車で走る。途は田んぼの中を延びる。十月にもなろうに陽射しは暑く、それでも稲の収穫は始まりつつあって、田の水はとうに抜かれていた。ある意味、乾いた季節と言える。
 墓所の水場はやはり乾いている。ブリキの水桶をがたりと置き、水栓を撚れば軽々しい音をたて桶に水が迸った。その間に、墓前に置かれた湯呑みを持ってきて濯ぐのだ。
 意外にも湯呑みには水が溜まっていた。雨水だろうか。その表面に黒い小さな甲虫が浮かんでいる。甲虫は私が持ち揚げた水の動きのままゆらりと動いた。これは水に誘われたか、たまたま滑落したのか、とにかくそのまま溺れたのだろう。墓前に溺れる命を、私の夫だった男やら、その父母やらは――どんな顔で見守ったやら。
 私は湯呑みをそのまま水場へと持ち、流しへと水を捨てた。熱を帯びたコンクリートの上に水は拡がり、その中に甲虫は――脚を動かし始めた。生きていたのだ。面倒な奴だ。放置すれば排水口に流れ去ろう。私は虫をつまみ上げ、適当な茂みに放り投げる。彼はぷいと飛び去った。先刻まで死んでいたくせに、まるで私を非難しているようにも思えた。これは何かの映画で見たな、助け出されても「俺はあそこに生きてた」とか言う奴。いやお前死んでたろ。少なくとも――私が今日、ここに来ようと思い立たねば。
 水桶を脇に除け、湯呑みを水道で洗う。流れ切らない水がコンクリートの上に溜まって行く。今日の暑さからすれば呑みたいという気持ちも解る、されば早速、虫が来るわけである。って、何だ、麦わらトンボ? 私が居るにも拘らず、尻尾の先でつんつん水を突いている。お前は尻で水を呑むのか。いやひょっとして産卵ではないか。
 いくら虫でも、池や沼がいきなり出現するとか本気で思うのだろうか。私はトンボを追い払おうと手を振る。馬鹿は力づくでも教導するのが霊長の義務である。真意を察したか、トンボは去った。他に行く処はあるだろうか。それは知らぬ。
 墓を洗い、墓前に真言を唱えた後、余った水桶の水を流しに捨てた。コンクリートに残っていた先刻の水が、渦巻いて排水口に流れて行く。ああ麦わら、この水溜まりで産卵したのなら、その命、全部流れて行くよ。すまんな私が居たばかりに。
水のモイラ アレシア・モード

翔び去る印象
今月のゲスト:宮本百合子

 十月の澄んだ秋の日に、北部太平洋が濃い藍色に燦いた。波の音は聴えない。つめたそうに冴え冴え遠い海面迄輝いている。船舶の太い細い煙筒が玩具のように鮮かにくっきり水平線に立っていた。
 空には雲もなく、四辺は森としている。何の物音もしない。
 樹林の間はしめっぽくひいやりした。日向に出ると穏やかに暖かで、白い砂利路の左に色づいたメイプルの葉が、ぱっとした褪紅色に燃えていた。空気は極軽く清らかで威厳に満ちているので、品のよい華やかな色が、眩惑と哀愁を与えた。
 黒い帽子の婦人が、黒い犬をつれ、通りすぎた。――
 何の音もしない。
 海の色が益々冴え、太陽は高く小さく透明な十月を呼吸している。
――ヴィクトリアの秋――

 これは、半熱帯の永劫冬にならない晩秋だ。夕暮、サラサラした砂漠の砂は黄色い。鳥や獣の足跡も其上になく、地平線に、黒紫の孤立したテイブル・ランドの陰気な輪廓が見える。低い、影の蹲ったようないら草の彼方此方から、巨大な仙人掌サボテンがぬうっと物懶く突立っていた。
 高さ十五フイートもある其等の奇怪な植物は、広い砂漠の全面を被う墓標のように見えた。凝っと立ち、同化作用も営まない。――
 そうかと思うと、彼等は俄に生きものらしい衝動的なざわめきを起し、日が沈んだばかりの、熱っぽい、藍と卵色の空に向って背延びをしようと動き焦るように思われる。
 夜とともに、砂漠には、底に潜んだほとぼりと、当途ない漠然とした不安が漲った。
 稲妻が、テイブル・ランドの頂で閃いた。月はない。半睡半醒の夜は過敏だ。
――アリゾナ――

 青みどろのはびこった一つの沼。
 四辺一面草の茂った沢地なので、何処からその沼が始っているか見当がつかない。
 一隅に、四抱えもある大柳が重い葉をどんより沼の上に垂れていた。柳には、乾いた藻のような寄生木やどりぎが、ぼさぼさ一杯ぶら下っている。沼気の籠った、むっとする暑苦しさ。日光まで、際限なく単調なミシシッピイの秋には飽き果てたように、萎え疲れて澱んでいる。とある、壊れた木柵の陰から男が一人出て来た。
 彼の皮膚は濃い茶色だ。鍔広のメキシコ帽をかぶり……
 空は水蒸気の多い水浅黄だ。植物は互に縺れこんぐらかって悩ましく鬱葱としている。彼の飾帯はその裡で真紅であった。強烈な色彩がいつまでも、遠くから見えた。
――ミシシッピイ――

〔一九二四年十一月〕