Entry1
神様の云うとおり
サヌキマオ
ヌパーチカももう二十七なので神様のところに行くには遅すぎるのだが婆ンバがどうしてもというので村長も折れて巫女のもとに遣ってくれた。ヌパーチカの家はとても貧乏だったがヌパーチカが十六のときにきた青年協力隊の日本人に一目惚れして帰国と一緒についていき、それから十年、ヌパーチカの家は日本からの仕送りでとことん潤った。婆ンバが新しい家電を買うたびに必要な電力量は増えていき、伴ってガス発電所が建ち、村中の暮らしが上向いた。ヌパーチカがやっていたのはいわゆる酒場女だったらしいが、それでも日本での稼ぎは大きなものだったので村人はヌパーチカのことを敬っていた。ヌパーチカが十年ぶりに村に帰ってきたのは新年を迎える催事の準備中で、泥汚れのひとつもない真っ白いズボンに花がらのワンピースは村人にとっては女神に見えた。相変わらず弾けるような笑みを浮かべ、見事な手さばきで祭祀に出す豚を締めて血抜きをした。
巫女がいうには、ヌパーチカの夫になるのはこの村のものではないという。おそらくはかつていた場所――日本のンデスィマという男だという。
ンデスィマ! 知ってるよ、ヌデシマサン。働いてたスナックの常連さん。でも、橳島さんは――ヌパーチカは難しい漢字をスラスラと書いてみせた。奥さんがいる。こどもも、ふたりいる、六十五歳の、おじさん。
この村の最年長の男性でさえ六十二歳だ。予言は当たったものの巫女も困った顔をしている。しかしヌパーチカよ、神様のいうことは本当なのだ。そのンデスィマと一緒になることがお前にとっての、そして村にとっての幸福となる。「私日本に帰ろうかしら」ヌパーチカが呟くと婆ンバはニッコリした。「大丈夫よ、神様が選んだ男だもの、その男はきっとこの村にやってくるわ」
新年祭は例年通り賑々しく始まった。二十四種類の毛糸で飾られた仮面の一団、ここぞとばかりに積み上げられる川魚の干物、かつての部族の壮健さを讃える贄の儀式。贄の儀式では本来ならば別の部族の男が血祭りにあげられて吊るされてくる。この儀式は近年の世界的な動向から形式的なものになりつつあったが、今年はいやに盛り上がっている。隣の村で少女売春に及ぼうとして袋叩きにあった日本人が、そのまま贄として送られてきたのだという。
「ヌデシマ!」ヌパーチカは血まみれの男を見て神に感謝した。
「ほぉれごらん」婆んばもしたり顔だ。「神さまの云うとおりだろう?」