Entry1
紅葉と兄貴
サヌキマオ
「兄貴ーー! 桜の樹の下には死体が埋まっとるんよのーーーぅ?」
濁流の中岩にしがみつきながら、怒鳴るように川上の兄貴に問うた。兄貴は股座に蛸の足をまとわりつかせている。
「そうじゃーーー! そうでなかったらあんなにきれいな花は咲かんのんじゃーーーい」
「そうすると、兄貴ーーー!」
「なんじゃーーーい」
「紅葉の下には何が埋まっとるんかのおおおおおぅ」
「紅葉か! 紅葉の下にはのぅ、そうじゃ、ルビーが埋まっとるんじゃーーー」
「そうかーーー! 赤いからのーぅ。さすがは兄貴じゃああ」
そんな夢を見た。久しぶりに見る兄貴の云うことなので、紅葉の下に埋まっているルビーを掘り出しに井の頭公園に行くことにした。見つけて持ち帰って売ったら大金持ちだ。
穴を掘っていると通りがかる人がじろじろと観てくる。まもなく作業服の、管理人だというおっさんがやってきて、こんなところで穴を掘ってはいかんという。
「ルビーを見つけたら大金持ちになれるからやっとるんじゃ」
「こんなところにそんなもん、あるわけがなかろうがい」
警察を呼ぶというのでしかたなく引き上げたが、今ひとつ釈然としていない。兄貴が嘘を? いや、そんなことがあるわけがない。だがしかし、兄貴はどうしてしまったのだろう。聞いてみることにした。公園の前から出ているバスに乗り、調布駅から多磨墓地前駅に乗り継ごうと思ったら駅がなくなっている。聞くと、もう二十年前に多磨駅に名前を変えたという。そんなわかりにくい話はあるか、とたいへん頭にきたが、前にも同じようなことを教えられた気がする。
「兄貴ー!」
太い葉桜の下、幾度となく掘り返したあたりを手慣れた様子でほじくると、まもなく頭蓋骨が現れる。
「兄貴聞いてくれーい、兄貴の云ったとおりに紅葉の下を掘ってみたけれどルビーなんぞ出なかったんじゃ」
「ほうかー、ちと季節が悪かったかもしれんのう」
もう兄貴の声真似などお手の物だ。生前の兄貴だったら絶対に云いそうなことを云うことも出来る。
「やはり(ひと冬)越さんとの、(葉っぱが)赤くなる前に掘り出さんと、そら(ルビーは)そう(出て来ない)よ」
「ほうかー! さすがは兄貴じゃ!」
すっかり感心して埋め戻す。たまたま墓参りの客が恐怖の目でこちらを見ている。なにをそんなに怖がられているのかと不思議でしょうがなかったが、それで難癖をつけて殴ると警察を呼ばれることを、ちゃんと学習している。