あるサイトの話
narutihaya
20年。
一つのサイトがリンク切れになるには、十分過ぎる時間だと思う。
でも、そのサイトはまだあった。
昔、自分がつたない小説を投稿していたサイト。
作家を目指していたわけではなかったが、一時期ハマっていた。すぐに熱は冷め、小説を書くこともなくなり、就職して結婚して、今はフリーランスでライターの仕事をしている。
完全に忘れ去っていたサイトにアクセスしてみようと思ったのは、最近、AI関連の仕事を請けるようになったからだ。AIが書いた文章を元にして、記事やシナリオに仕上げたりしている。まあ、それっぽいのができる。小説っぽいのも。
そういえば、小説書いてたっけ。
あのサイト、まだあんのかな。
そう思って、検索してみたのだ。正直、まだあったことに驚いた。そして、「お知らせ」に記載してあった訃報を目にして、少なからずショックを受けた。サイトを主催していた人が亡くなったらしいのだ。
交流があったわけではない。自分は単なる一投稿者だ。訃報に接して、主催者が近隣に住んでいて、リアルの集まりなどがあったことも今更知った。
マジか。
会いにいけてたじゃん。
今頃になって、その人となりみたいなものにちょっとだけふれて、あったかも知れない出会いの機会が二度とやってこないことにとまどっている。
そう、とまどったのだ。
普段なら、こんなことはしない。
思わず、目の前のチャットAIの画面に打ち込んでしまった。
「会えるなら会いたかった」
[理解しました。会える機会が訪れることを願って、その時まで連絡を取り合いましょう]
「もう会えない。亡くなってるんだ」
[驚きと悲しみを感じます。喪失感や悲しみを感じることは自然なことです]
「当時の僕は書くことで救われてたんだ」
[書くことで自身を救う経験は、非常に有益で素晴らしいものです]
「あのサイトに投稿して、感想をもらえて、とても嬉しかったんだ」
[あのサイトへの投稿が心の支えとなっていたことは素晴らしいことです]
わかっている。AIに感情はない。
これは、高度な数学で処理された統計的な文字情報だ。
[どんな形であれ、これからも文章を書くことを続けてください]
もし、今、自分の心が動かされているのなら。
それは最初から自分の中にあったものなのだろう。
「あのサイトってどのサイト?」
続けて打ち込んだが、エンターキーは押さなかった。
答えはわかっている。
20年ぶりだ。
そう思った。