『サリュ~ト! アレ~シァ! あた~しゃ、神に会った』
白い歯が爆音の中で叫んだ。BGMなのらしい重低音も常軌を逸した設定だ。狂ってる。だがПは生来およそ常軌を逸している。『神』の影響がいかほどなのか判断もつかぬ。『とィ~も大好きネオ・エデンにロッグオ~ンで、おったん。そら神よ』
私――アレシアは、Пの言葉には反応しなかった。(Пは、Пは仮想空間へのインターフェースが死に至る脳のダメージを与えておる事を知らぬ!)妹御神の託宣が甲高い声で耳の奥に響く。
私はチャット画面に映るПの顔を見た。Пは叫び続ける。ああ自分の命があと数時間も無い事も気付かぬか。その見開いた目にはすでに死の影が浮かんでいる。急いで瞳の部分を拡大すると、そこには死神モチーフのアニメキャラの絵が嵌め込まれてあるのであった。ぐえ、と声が漏れた。お兄様ァと妹御神が叫ぶ。これは駄目だ、意味が通る。つまり無無明尽が無い。それは破綻だ。救いな救いなと妹御神が、重低音で変調した超音波で泣き叫ぶ。
『とィ~っすアレシア聞~とぅルカ~?』私の沈黙に不安になったПが喚く。Пはいつも不安なのだ。『Пはねおえでんでほんもん神бにで会ったんヤ~よんбはПにんбなんメッセ
海へと向かう風が集落の木々を微かに揺らす。満ちた月の光が高みから窓に射し込んで眩い。
Пは、仮想空間の幻覚に騙されている。Пは自分の死を受け入れるために神の存在を与えられたのだ。自分の死が、意味あるものと思わされているのだ。Пは言う、一緒に来てくれないかと言う、手を差し出す、天使に連れられ神の国に行くんだと、一緒に行こうよと私に。妹御神がじくじくと泣く、じくじく泣く。ああ、もうわかった。一緒に行く」私は微笑んだ。「私も、神の国に行きたい」
『おっチ~ン、ハラッショ~い!』
Пが7.1.2ch DTS-X サラウンドシステムで飛び回り、キスして私を抱きしめた。いま死ね。すぐ死ね。妹御神が百万ヘルツで叫ぶ。私はПと一緒にモビリティに乗り、工事現場のようなエンジン音とともに仮想空間に入った。で、爆発した。
(……私は死ななかった)
私は仮想空間に入ったが、それは仮身だ。「神」が悪意のウイルスと知っていた私は、セキュリティエリアに二重接続したのだ。
(私は真相を世界に知らせ、メーカーを裁く。Пよ、私は必ず、お前の死を意味あるものに……
端末がまた叫びだした。
『サリュ~ト! アレ~シァ!』