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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage4
第71回バトル 作品

参加作品一覧

(2023年 11月)
文字数
1
おんど
1000
2
サヌキマオ
1000
3
ごんぱち
1000
4
アレシア・モード
1000
5
斎藤緑雨
1881

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長編小説(途中まで)
おんど

図書館ではおもに歌集を読んでいる。歌集を読み、司書の梶原さんと歌集について感想を述べあう。
図書館では私語厳禁だが、歌集について感想を述べあうのは許されている。一方的に感想を述べるのは禁止されている。
そこには合意がないからだ。
合意のないおしゃべりは慎まなくてはならない、と梶原さんは言った。そう、梶原さんは何事も合意を重んじるタイプの48歳だった。
「わたしって、すこし慎重すぎるのでしょうか」と言って梶原さんは銀縁メガネを持ち上げた。「何事にも合意を求めすぎるから男の人に敬遠されるのでしょうか。もうずいぶん婚期を逃してしまったし。いえ、わかっているのよ、現代の科学がとっても進歩していて私みたいな48歳のおばさんにだって子供を産めることは。でもね、そういうことじゃないのよ。もっと全体をひろく包み込むような合意が欲しいんです。包括的合意と言ってもいいかもしれない。だってこうしてあなたと話しているのだって、包括的な合意があってこそ、ひとことひとことにささやかなリスペクトが生じるわけだし、リスペクトが高じて愛が高まるって信じたいの。ううん、そうじゃなくて。身体の関係は包括的な合意に含まれないという合意をあなたとしたわよね。身体の関係はむしろ合意をしないで欲しいの。私が言っているのはそういう合意。合意なしでしないでってベッドの上でわたしが叫ぶのはそういう合意があったからでしょ。だからあなたには思いっきり合意を踏みにじってこちら側へ来てほしいと常々思っています。ええ、あなたには奥さんもお子さんもいるし、私以外にも愛人がいるんでしょ。わかっています。わかっています? ほらね。やっぱり合意してるじゃない。だから、安心してわたしとの合意を打ち破って欲しいの。縄? うん、それもいいかもね。でも、いま、縄ってあなたの口から洩れてしまうと、それはもう合意への敷居を一歩跨いだことにならないかしら? そういう情報を前もって入れないで欲しいのよ。ねえ、わたしの言っていることわかる? ねえ、わたしってウザい女? ウザい女を縄で縛ってどうするつもりだったのよ。プレイ? ふふふ、やめてよ、プレイだなんて。そんな合意はしてなかったはずよね……あれはたしか去年の今頃だった。市営グラウンドの駐車場で、ギアチェンジするみたいに助手席に座っていたわたしのスカートを捲りあげたわね? あれって合意したわけじゃないのよ。もっと
長編小説(途中まで) おんど

たましいの右側
サヌキマオ

 たましいの右側が痒いのでびよいんにいくと脳を見てみましょうというのでぼかぁ脳みそなんでどやって見るのかしらンと思って恐怖におののいていると長い長い綿棒が診察室の奥の暗闇からぬーっと出てきて左の鼻の奥深くずぶずぶと沈んでいった。わああどんどん入る入るこわいなこわいと思っていたらとん、と頭蓋骨の内側に当たって止まる音がしたのでとてもほっとしていると今度は鼻の出口に向かって、ということは鼻の入口でもあるのですが綿棒がずるずるとゆっくり引き抜かれてくるのがくすぐったいやら気持ちいやらなかなか出てこない不安やらでドギマギしているとピーナツバターのようなどろりした液体がついていてピーナツバターの匂いもしてきたのでこれはピーナツバターですねと思ったらお医者さんが小指につけてぺろりと舐めてうんこれはちゃんとピーナツバターだと診断したのでぼくの脳みそはピーナツバターだということになった。
 待合室に戻ると同じクラスの星町すいれんさんが座っているのでドキドキした。たましいの痒かったところがズキズキしはじめた。星町さんと喋ったことはなかったがクラスで顔くらいは覚えられていたようであっという顔をされたがそれ以上は何もなかった。何もないに決まっている、向こうはぼくのことをなんとも思っていないだろうしぼくは星町さんのことをすごく可愛いと思っているのでこちらからなにかしようだなんて頭がどうにかなってしまう。
 もしかして星町さんもたましいが痒いのだろうか。これから鼻の奥まで綿棒でずぶずぶずぶずぶやられて脳みそを味見されるのだろうか。星町さんの脳みそはなんだろう。いちごシェイク、いや、そんな安直なことはない。なんだろう。ホワイトチョコだろうか。練乳だろうか。全く想像が追いつかない。――例えばうんこだったらどうだろう。せめてピンク色のうんこ。どうだろうじゃねえよ! と内心自分に強く突っ込みながら、星町さんの脳みそがうんこなのですっかり困惑してしまうという想像ですこしちんちんが固くなったところで急に名前を呼ばれて驚いて立ち上がった。今度は処置室に来いというので行ってみると太い金属のチューブを鼻から差し込まれてピーナツバターを全部吸い出しますという。そんなことをしたらぼくの頭はどうなってしまうかと思う暇もなくずるずるずぼぼと脳みそが吸い出されていく。
 あ、遠くからかつを出汁の匂いがする。出汁入りの味噌だ!
たましいの右側 サヌキマオ

愚問
ごんぱち

「うちの部族では、葬式の時にはこの大鍋を使うんだよ」
「ほほう、これはものすごく大きい鍋ですね!」
「お葬式の日にはね、皆で正装して亡くなった人の家に集まってね、これの中に入れたものを、家の表に出したかまどで、ぐずぐず煮るんだよ」
「煮ちゃうんですか……」
「ああ、煮るね」
「さて、ここでクエスチョン! この部族のお葬式、大鍋で煮るものは、一体なんでしょう!」

「さて黒柳さん、振る舞う料理……ですか?」
「あたし、これはですね、日本で言うお通夜みたいなもんだと思うんです。お鍋は、そこでお出しするお料理ですね。つまり、お煮染めみたいなものを作って、それを食べながら、ですね、故人のお話をするんだと思います」
「では、板東さんは……無くなった方の死体、ですか」
「カニバリズムいうんですか? 未開の蛮族の土人文化では、こう、あるんですよ」
「板東さん、放送コードがあるので言葉に気を付けて下さい」
「え、どれでっか? 蛮族? 未開? 土人? あかんの? 法律で禁止されとんの? え、自主規制? さよか、ほならバルバロイは? ええの? なんでなん」
「――お答えは、亡くなった方の死体ですね?」
「ええ、そうです。故人が亡くなった方の魂っていうんですかね、それを取り込むためで。古代中国でも肝臓喰うし、ビデオ映画でも齧るやないですか。ああ、丸ごとやないですよ。ほんの少しとか、遺灰とか遺骨、そういう意味ですよ? それを振る舞い料理にもするっていう意味もあるわけです」
「野々村さんも、死体ですか」
「ええ、わざわざ問題にするぐらいなんで、ただのご飯って事はないと思うんです」

「――ごんぎつねの誤答の話題って、こういう感じじゃあないかな、蒲田。子供にしてみりゃ、100年も前の話なんて、原始時代とシームレスの異文化だ。そもそも鍋の中身が平凡なものなら、問題に取り上げる意図が不可解だ。例えば、てぶくろを買いにの母狐が、白銅貨を手に入れた手段を問えば、犯罪の3つも候補に出て来るだろうさ」
「それより四谷、板東英二はもう10年も前に降板してるぞ」
「マジで!? なんで、どうして? どんな所得を隠したの!?」
「知ってるじゃねえか。後、草野仁も司会じゃないらしいぞ」
「良いんだよ、お約束だよ。あの辺出さないと、伝わらないんだから。お前だって、走るとき足グルグルになるけど、実際は違うだろ?」
「お前、時々メタ発言ぽいのするけど、割と怖いよ?」
愚問 ごんぱち

灯台無明
アレシア・モード

『サリュ~ト! アレ~シァ! あた~しゃ、神に会った』
 白い歯が爆音の中で叫んだ。BGMなのらしい重低音も常軌を逸した設定だ。狂ってる。だがПペーは生来およそ常軌を逸している。『神』の影響がいかほどなのか判断もつかぬ。『とィ~も大好きネオ・エデンにロッグオ~ンで、おったん。そら神よ』
 私――アレシアは、Пペーの言葉には反応しなかった。(Пペーは、Пペーは仮想空間へのインターフェースが死に至る脳のダメージを与えておる事を知らぬ!)妹御神の託宣が甲高い声で耳の奥に響く。
 私はチャット画面に映るПペーの顔を見た。Пペーは叫び続ける。ああ自分の命があと数時間も無い事も気付かぬか。その見開いた目にはすでに死の影が浮かんでいる。急いで瞳の部分を拡大すると、そこには死神モチーフのアニメキャラの絵が嵌め込まれてあるのであった。ぐえ、と声が漏れた。お兄様ァと妹御神が叫ぶ。これは駄目だ、意味が通る。つまり無無明尽が無い。それは破綻だ。救いな救いなと妹御神が、重低音で変調した超音波で泣き叫ぶ。
『とィ~っすアレシア聞~とぅルカ~?』私の沈黙に不安になったПペーが喚く。Пペーはいつも不安なのだ。『Пペーはねおえでんでほんもん神бゴツべーにで会ったんヤ~よんбべーПペーにんбべーなんメッセ

 海へと向かう風が集落の木々を微かに揺らす。満ちた月の光が高みから窓に射し込んで眩い。
 Пペーは、仮想空間の幻覚に騙されている。Пペーは自分の死を受け入れるために神の存在を与えられたのだ。自分の死が、意味あるものと思わされているのだ。Пペーは言う、一緒に来てくれないかと言う、手を差し出す、天使に連れられ神の国に行くんだと、一緒に行こうよと私に。妹御神がじくじくと泣く、じくじく泣く。ああ、もうわかった。一緒に行く」私は微笑んだ。「私も、神の国に行きたい」
『おっチ~ン、ハラッショ~い!』
 Пペーが7.1.2ch DTS-X サラウンドシステムで飛び回り、キスして私を抱きしめた。いま死ね。すぐ死ね。妹御神が百万ヘルツで叫ぶ。私はПペーと一緒にモビリティに乗り、工事現場のようなエンジン音とともに仮想空間に入った。で、爆発した。


(……私は死ななかった)
 私は仮想空間に入ったが、それは仮身エーリアスだ。「神」が悪意のウイルスと知っていた私は、セキュリティエリアに二重接続したのだ。
(私は真相を世界に知らせ、メーカーを裁く。Пペーよ、私は必ず、お前の死を意味あるものに……
 端末がまた叫びだした。
『サリュ~ト! アレ~シァ!』
灯台無明 アレシア・モード

わたし舟
今月のゲスト:斎藤緑雨

 黄昏の帰りを少しも早くと渡し場に到れば、われより先に五十ばかりなる女の、唯ひとりつくばいたるが軽く手をへりに置きて、顔馴染みなるべしやおら棹取り上げんとする船頭相手に、何事か一心に語り居たり。

――それじゃあ何だな、まだ一件は片附かねえのだな、ほかでもねえ親子の中だ、大概てえげえにして置きなせえな。
――そりゃあ船頭さん、お前さんにはける口だが、わたしには利けない口だよ、このあごるかないか、早い処が生死しようしの分け目、大概にしたらあすの日が立たない、やっと十六から取り附いて、ことしが二十二、散らしは品に障るというので、この八年に旦那だって四人か五人、掛けた元も碌々ろくろく還らず、いざこれからの間際になって、阿母おつかさんおさらばはあんまりじゃないか、姉は姉で、静岡三界さんがいを勝手にほつき歩いて、今じゃ壮士役者のおかみさん気取り、籍は這入はいりませんがからだはちゃんと這入って居ます、どうぞね阿母さんとばかりで手も附けられない、せめていもとの奴でもと思えば今度の始末、親の威光もこうなっちゃあお仕舞いさね、ちょうどつき越しをすったもんだで、渡し場の御奉公だけでも随分だよ、お前さんの前だが米は安くなれ鼻は高くなれ、よかれよかれで彼奴あいつを今日まで育て上げた苦労と言ったら、ほんとに一通りじゃなかった、一旦は稽古所へも遣って見たが、姉ほど喉が面白くないので、シャにはできない、モノにしたらと急に手筈をかえて、うぶで御座います、世間見ずで御座いますと、今もってそれが通るから可笑しいね。
――シャだのモノだのって、おらが方じゃ聞かねぇ符牒だ、何の事だな。
――船頭さんでもない、シャと言やあ芸者、モノと言やあ囲いもの、字で行くか仮名で行くか、女の捷径ちかみちはこの二つさ。
――それじゃあ売られるにまって居るのだ、売りたいばかりに育てたようなものだ。
――当たり前だろうじゃないか、このせつ女を売らないでうするものかね、渋皮の剥けたとか剥けぬとかは昔の論だよ、オヤあれがと言うようなのさえずんずんけるんだもの、産声からが違って居らあね。
――そう出られちゃ仕方がねえ、商売なら商売でわずらいのあるものだ、今度の事はいい加減に諦めなせぇ。
――御他人様の身に取っちゃあ、煩いとも祟りとも仰有おつしやれだが、わたしには行先の杖柱つえばしらというよりか、今がいま三度のおまんま、色の白いほど何方どちらも値がいいという訳さ、何がお前さん耻ずかしいものか、親子二人がかつかつの手内職、お粥はおさつを入れましたのが一等おいしう御座いますとでもいう事なら、なるほど大声では言いにくかろうが、はばかりさま、売れるものを売るのに理屈はあるまい、旦那りにだって相応に駆け引きの要るもので、親の目にさえいけ好かない位のでなけりゃあ、たんまりした事には有り附けない、厭と思ったら絞れるが、そこにちょいとわだかまりが出来て見ると、流石は人情と言いたいような事もあって、めかけに人情は出しッ放しのたらいより邪魔なものさ、全体今度のの触れ込みが仲買の番頭と言うので、此奴こいつ浮き沈みがあるとは最初から知って居たが、ままよ沈んだらそれまで、浮いて居るうちと思ったのが此方こつちの不覚、親馬鹿とは穿うがったものだね、何日いつの間にか娘の方から逆上のぼせ込んで、指環も時計も貰った物は逆戻し、揚句の果てが連れ出されるまで気が附かずに居た、段々探って見ると女泣かせとかはかとか言って、ちょろッかな野郎とは野郎が違うそうだ、活物いきものの事だから娘だけ返してくれたら、跡は災難とでも何とでも諦めるが、生憎と彼奴あいつがおんのろで、野郎の傍を離れないと来て居る、憎いたって彼様あんなのは有りやあしない。
――だがそう一概に言ったものでもねえ、末々も有ることだ、娘を糶市せりいちに出すような事ばかり考えて居ちゃあ、冥利が恐ろしいや。
――冥利が尽きたって金さえ尽きなきゃあ、何一つ恐ろしい事があるものかね、世の中は御方便なもので、行儀行儀で固めて居た表の先生とかは、喰うに喰われず首を釣って死んだそうだが、めかけのあがりが路端みちばた倒死のたって居たというのは、この年になって未だ聞いた事がない、惚れたけりゃ遠慮なく金に惚れろ、男に惚れるなと呉々も言い聞かして置いたのに、とうとう此様こんな事になって仕舞った、戻すか戻さぬか今晩が手詰めというのだが、囲い者が旦那に惚れちゃあ芝居にもならない、もうもう男に惚れる女は、親ながら懲々こりごりだ、揃いも揃ってわたしの処の奴等は、どうして彼様あんなに不孝なのだろう。


 望める岸に船の着くとひとしく、女は小走りに走り抜けて、其処なるこうを左に折れしが、遠からぬはしに早やかげの見えそめて、薄あかく薄暗きおぼろが中を、水はなおゆるく流れぬ。仰げば星出でたり。
(明治三十二年十二月)