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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage4
第79回バトル 作品

参加作品一覧

(2024年 7月)
文字数
1
おんど
1000
2
サヌキマオ
1000
3
ごんぱち
1000
4
アレシア・モード
1000
5
アルカジー・アベルチェンコ
1337

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Entry1
長編小説(途中まで)
おんど

今月は梶原さんからひとり親家庭についての話を聞いてしまったから最後まで書けないかもしれないがご容赦願いたい。
いつものように平日サービスタイムの残り30分のところで入室すると更に料金が半額になるという制度を利用するため軽トラックで国道沿いあるホテルエンペラーキングダム北鹿沼にやってきたのだが、駐車場のびらびら暖簾をくぐるところで荷台に乗っていた梶原さんが駄々をこね始めた。こんなところで駄々をこねるくらいならホテルの部屋で俺の珍獣をこねてくれよと優しく諭し、毛布でぐるぐる巻きにして猿轡をはめ、目隠しをして3500円の和室に連れ込んだのだが、たまたまテレビで流れていた日本代表戦のVAR判定に納得できないし松木安太郎の駄洒落にも納得がいかないと涙を流した。取り付く島がないのである。つまり梶原さんは御存知の通り市立図書館の無資格司書としてワンオペレーションといえば聞こえはいいがひとり親方として8時半から21時まで本を挿れたり出したりの作業を繰り返していたところ梶原さんの雇用契約を牛耳っている文化政策課の職員がやってきて梶原さんの挿れたり出したりしているときの所作がいい、特に手先だけで挿れたり出したりするのではなく腰を使って挿れたり出したりするのがいいと言ってそのふっくらとした腰回りのお肉をさわさわっと撫で回したり貸出の際に読み込むためのバーコードリーダーを梶原さんの著しく突出した胸の部分に当て、たまたまその日はQRコード柄のブラウスを着ていたため朝の8時半から夜の21時まで本を挿れたり出したりしながらセックスのことしか考えていなかったことが露呈してしまった。ははん、これはいかんな。無資格司書とはいえ市民の公僕たる者が仕事中にセックスのことばかり考えているのはポリティカルエレクトネスに反しているしセックス依存症の可能性もある。それが証拠にこんなにお乳が腫れ上がってその先端がこりこり固くなってしまっているとバーコードリーダーで読み取った情報を嫌がる梶原さんの耳へ生暖かく吹き込むのだった。文化政策課の職員は貸出の列が図書館から敬老館まで続いてしまっているのもお構いなしにひとり親方である梶原さんを黴臭い書庫に連れ込んで今後の方針について車座集会を始めてしまった。二人しかいないのに車座なんて可笑しいわと梶原さんも抵抗したのだったが文化政策課の職員は悪びれることなく梶原さんの座っていた椅子をぐるぐる回し
長編小説(途中まで) おんど

Entry2
ヘルメットに毛蟹
サヌキマオ

 ぬるまひるが息苦しさに目覚めるとヘルメットを被ったまま眠っていた。これはいけないとすっぽり脱ぐと、頭の上に乗っていた何物かがゆっくりと目の前の布団に落ちてきた。小ぶりながら毛蟹であった。寝起きにじっとりと汗をかいていた。肩甲骨まである髪がびったりと首筋に絡みついている。
 順を追えば、昨日の晩は毛蟹を頭に乗せた上からヘルメットを被って帰宅し、そのまま万年床で眠りについたことになる。フルフェイスのヘルメットは小柄なまひるからするとずいぶんとぶかぶかで、むしろ毛蟹を収納するために大きなヘルメットを選んだフシさえある。
 一人暮らしだから誰も止めない。感情が迷子になっている。ようやく自分の服装にまで頭がまわるといつもの出勤着、ユニクロでまとめて買ったストライプのワイシャツにチノパンだ。着替えないまま眠ったものと思われる。酔っていたのだろうか。酒は一滴も飲めないのでたまにある飲み会ではジャスミンティーばかり飲んでいるし、そもそも飲み会など無かった。時計を見る。四時過ぎだ。夏至が近いので外がもう明るくなっている。六月二十日、木曜日。
 毛蟹は死んでいる。泡を吹いた痕跡があるから、案外と昨日の夜には生きていたのかもしれない。着替えようと思った。とりあえずシャワーを浴びて、着替えたら仕切り直せる。
 風呂に行く前にエアコンを入れておけばよかった。蟹を冷蔵庫に入れねばと思ったが適当な器がない。プラスチックのボウルがあったが、だったら茹でてしまおうと思った。どこからきたか記憶のない毛蟹。消毒の意味合いもある。ミルクパンならばある。
 茹で上がって赤みがさした毛蟹を見ていると急激にお腹が空いてきた。キッチンバサミで足を切ってみると思いのほか中身がスカスカしている。もっと中身が詰まっているイメージだったがこんなものだろうか。味はする。カニカマの味がする。
 ヘルメットの主がわからない。まひるの父親はバイクに乗っていたと思うが、父のヘルメットだろうか。実家とは二時間の距離がある。昨晩は実家に寄ったのだろうか。あと二時間もしたらまた出社しなければならない。一時間半後家を出る。住宅街、駅までの道に毛蟹が点々と落ちている。
 昼前から自分の髪の毛がずっと蟹臭いことに気付いてずっと気になっている。家に置いてきたヘルメットも同じような臭いを放っていることだろう。職場で毛蟹の姿は見ないが鼻の奥にいるかもしれない。
ヘルメットに毛蟹 サヌキマオ

Entry3
蛙化現象
ごんぱち

 ある日、四谷京作が気がかりな夢から目覚めると、自分が1匹の巨大な蛙に変わってしまっているのに気付いた。

 四谷は、鏡の前で首を捻る。
 ぬめぬめとした肌に、黄色と黒の鮮やかな色。
 傍らのスマホに手を伸ばす。
 だが、指先がぴたりと吸い付く。
『だからフリック入力は嫌いだったんだ』
 四谷はそう喋ったつもりだが、実際に鳴ったのは、ゲコゲコという蛙の声だった。
『京作、そろそろ起きなさい、会社でしょう?』
 階下から声がした。
 四谷は鏡を見る。
 この姿では、仕事にならない。
 貯金はあるが一生分ではない。転職しても面接は通らないだろう。無職やフリーランスに人権はないというのが大勢の見解だ。パソナルームだろうが、日勤教育だろうが、居座る方がずっと人権が保たれる。
 障害認定されれば可能性はあるが、蛙に人権が保たれているかも怪しい。
 そんな事を考え、ただ呆としている。
 記憶にもやがかかる。
(こんな姿では、彼女にも)
 同じ会社の、女性の姿が思い浮かぶ。
 昨日、デートの途中、彼女は驚いたような呆れたような様子で帰っていった。
(あの時から、蛙になり始めていたのだ)
 彼女への感情が薄らいでいく。
 蛙は卵生生物である。
 人に何をどうしたものやら、四谷には分からなくなっていた。
「ちょっと、いつまで寝て――」
 痺れを切らして、母がドアを開けた。
 瞬間、ぎゃあと声を上げ、昏倒した。
 四谷が抱き起こそうと触れると、母の皮膚は黒ずみ、息が止まった。

 ヤドクガエル。
 その名前が、四谷の頭の片隅に浮かんだ。
 ここまで強い毒ではなかった筈だが、四谷にさしたる疑問は浮かばない。
 ぴょんと飛び、窓を破った。
 ガラスが刺さるが、大きさからするとそれほどのものでもなかった。
 ぴょんぴょんと飛ぶうち、人に出会す。
 驚く間もなく倒れた。
 毒は強まり、近付くだけで人が倒れていく。
 妙な装束の人達が集まってきたが、遠巻きにしているだけだった。

 山深くまでやって来た。
 周りには人間も、大きな生き物もいない。
 静かだった。
 木々の間を進むうち、妙に白い木ばかりになり、その先にきらきらと輝く水面が見えた。
 それは大きな湖だった。
 四谷は嬉しげに喉を鳴らすと、湖に飛び込んだ。
 大きな水飛沫。
 そして、ぶくぶく水に沈んでいく。
「小さい生き物をそのまま大きくしても動けない」
 そんな知識の断片を思い浮かべつつ四谷は、ごぼり、と最後の息を吐いた。
蛙化現象 ごんぱち

Entry4
老人党宣言
アレシア・モード

 私――アレシアは!

「政界を志そうと思う」
「ああ、そう……」
 マリが気怠く答えた。リアクション薄いなあ。
「あのねマリ、T京都の知事選で思ったけど私やっぱり義憤を感じたのあんだけ候補が来て売名や目先の金目当てばかり社会を考えてる人どんだけいるのもう私が立つべきかなって」
「……あなたも金儲けがしたい?」
「あら、いやですわ、その安易な飛躍。確かにいま話題の最新投資テクと言えば民主主義ハッキングね。動画チャンネルも増えてるしクソビジネス書売上ランキングにも挙がって来てるさ。でも私は山師じゃないの。本来目指すべき、政策勝負の団体を作って……持続可能性のある金儲けがしたい」
「……」
「黙らないでよ。私だって社会への理想はあるんよ」
「……どんな?」
「老人に蜜を与えまくる老人社会」
「……」
「何かツッコんでよ。これは戦略よ。経済的コアかつ最大票田の老人にこそ投資すべきでしょ。私だって考えてるわけ」
「……具体的政策は?」
「まずは老人医療費の自己負担ゼロ、年齢比例式の所得税減税。あ、勤労層にも老人扶養控除を新設するね。それから高齢者の教育無償化と給食無料、義務教育に「敬老」を導入して介護実技を共通テストの必須科目にして模試の名目で働かせたるねん。私は高齢者の姫になってパーティーで全国を回る。ああ忙し忙し」
「いや、それ……◯党の党首くらいヤバくない?」
「あの方は善意の人だよ」
「そうなの?」
「うん。合法的にお金ばかりかヘイトまで稼ぐ人は、露悪でやってる。つまり本物の悪党ならヘイトは稼がないわけで……むしろリスペクトを集めようとする」
 マリは溜息をついた。
「それが……あなたって事?」
「こやつめ、ハハハ……マリ君、お主もワルよのう」
「いやそれはこっちの台詞よ……」
 マリは立ち上がると、枕元の赤い紐を引いた。四方の壁がバタンバタンと音を立ててフリップし、私のアンニュイの部屋は無機的な白い病室にチェンジした。
「え、何、ちょっと、私まだ入院設定だったの?」
「そうでもないけど……」マリが青い紐を引くと部屋は元に戻った。おお。「そろそろ……職場復帰してね。アルコール依存からの社内狼藉からの措置入院、からの休職扱いとか、実際あり得ない待遇よ……普通の会社ならね」
「はい……もう退職します。政界も諦めて、ラーメン作りに専念します」
「いや、とりあえず」
 マリは私の頬を引き伸ばしながら微笑んだ。
「……職場復帰してね」
老人党宣言 アレシア・モード

Entry5
生産管理
今月のゲスト:アルカジー・アベルチェンコ
上脇進/訳

 地上に於ける未来の楽園、即ち第三インターナショナルの礎石いしずえの一つは、
「生産管理」
である。
 これは何うして作られるか、自分はよく知っている。


 作家が書机テーブルに向かったばかりの時、こう伝えられた。
「労働者が参りました」
「お通ししろ。…………何か御用ですか、諸君?」
「吾々は生産管理委員で、選出されたものです」
「管理? 何の生産です?」
「あなたの生産です」
「僕の生産って変ですね。僕は小説や雑文を書いている文士ですよ。管理する訳には行きませんよ」
「あなた達はみんなそういう事を言って困る。吾々は、印刷工組合、新聞工組合から選出されたもので、あなた達の生産を管理することになりました」
「失礼ですが……一体どうやって管理を実現するお積もりです?」
「なァに訳はありません。あなたの傍にじっと腰掛けていたらいいんですよ……ところで、どんなものをお書きになるつもりですか?」
「今ンところ、判りませんよ。主題テーマがないんです」
「じゃ考え出したがいいでしょう」
「承知しました。お帰りになってから――考えましょう」
「いや、今考え出して下さい」
「無関係の者も傍に居ちゃ、考えが纏まりません」
「失礼ですがね、吾々は無関係のものじゃありませんぜ。我々はあなたの生産の管理人ですよ! さァ?」
「何が、さァです?」
「早く考えて下さい」
「あらゆる芸術は――こういう、人を避けての仕事というものは、ご存知でしょうが……」
「いや、人を避けたものであってはなりません。公々然と人の前で、管理されて為さるべきものです」
 作家は考え込んだ。
「何を考えているんですか? お伺いしたいものですが」
「邪魔しないで下さい! 筋を考えているんですから」
「それは結構です。ただ早くして下さい! さァ! 考えつきましたか?」
「一体何だって追っかけるようにするんです?」
「時間を無駄にしないように管理するのが我々の役目ですから。さァ、早く、早く!」
「考えてみて下さい。そんなに休みなしに喋られちゃ、考えを纏めることが出来ないじゃありませんか!」
 労働者は口を噤んで、じっと考え込んでいる作家の顔を、物珍しそうに眺めていた。
 作家はこの時、頭をなでて、耳の後ろを掻いて咳払いして、とうとう絶望的に立ち上がった。
「まるで新しい門に止まった烏みたいに、私を四つの眼が見つめていたんじゃ、考えることも出来やしない」
 管理委員は顔を見合わせた。
「解ったかね、同志? 合法的のサボタージュだぜ、これは! やれ口を利くなとか、やれ見るなとか言って、今に息をするなって来るぜ! 多分俺達が居なかった時は――書いていたんだ! じゃ何うして今書くことが出来ないんだろう? 管理されると難しいんだな! 人が見ていて、誤魔化しが出来なきゃ――頭が働かないのか。宜しい! ……その通り報告してやろう!」
 労働者は立ち上がって、憤慨して、足を踏み鳴らしながら立ち去った。


 作者曰く、
 さて、以前だったら、こんなものを書くと、結末は、
「……この時作家は眼を醒ました。全身冷や汗をびっしょりかいていた……」
 と結ぶところだが、ちぇッ、私はそんな風に結ぶことは出来ない。
 という訳は――たとえ全身冷や汗をびっしょりかいていたはしろ、六年目の今日、まだ眼を醒まさないからである。