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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage4
第81回バトル 作品

参加作品一覧

(2024年 9月)
文字数
1
サヌキマオ
1000
2
小笠原寿夫
1000
3
おんど
1000
4
ごんぱち
1000
5
アレシア・モード
1000
6
片岡鉄兵
1886

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Entry1
泥の船
サヌキマオ

「こっちじゃうさぎどん」
 あなぐま親方に連れられて工場の奥に入ると、たくさんのあなぐま徒弟が忙しくしています。工場の薄暗い土間の奥は裏の川につながっていて、部屋の真ん中にはそれはそのよう、頭に思い浮かべていたそのままの泥の船がありました。
「破れた船の木組みを泥で埋めて固めるとは考えたもんじゃ」
「これならばあのたぬきめも池にドボンよ」
 設えた船の船体はよく磨いてあってぴかぴか輝いています。これならば業突く張りのたぬきも飛びつくに違いありません。
「ドボン、てぇと?」
 うさぎどんは船代の支払いを済ませようと財布を開いていたところだったのでよく聞こえませんでしたが、あなぐま親方が怪訝そうな顔をしているのに気づきました。
「ああ、なんでもないのよ」うさぎどんは薄笑いを浮かべました「ちょっとした悪戯をしようと思ってさ」
「いや、なんでもええが」アナグマどんが札を数えて懐にしまいます。「しっかり作ったからな、そうそう簡単にドボン、とはならねえんじゃないかと思ってな」
「えっ」
 口を滑らせるべきではなかったもしれませんが、それこそ乗りかかった船です。
「あなぐまどん、おら、泥の船を頼んだァなあ?」
「そうよ、泥を固めて、焼いたら軽くていい船が出来るよ」
「いや、その。そうでねえんだ、あなぐまどん、おら、乗ってしばらくしたらぶくぶく沈むような泥の船を考えていたんだけんども」
「ああ、はぁ、さて」あなぐまどんは目を白黒させて、間もなく考え込み始めました。
「そらぁ無理な相談だ。沈む船は作れねえ。たしかに焼かずに泥で作ったら、浮かぶ前に、沈むよ。んだどもそれ以前に、ここから持って出してすぐに、沈むよ」
「はへぇ」
 ずいぶん計算が狂いました。考えてみればそうです。運んでいるあいだに泥がボロボロ崩れてくるのは目に見えています。
「なにに使うかは知らねえけんども」あなぐま親方はなにも知らないような顔をします。「お代は返さねえからな?」

 それからどうしたのか、うさぎどんは見事性悪たぬきを池に沈めて殺したとされています。泥の船は役に立ったのでしょうか。そのあたりは定かではありませんが、たぬきの死体は池の中からあがったと言い伝えられています。おばあさんと同じように鍋にしてみんなで食ったとも伝わっています。
 なお、泥の船は現代になってもなお作られています。同じく泥でできた七福神を乗せて、神棚に飾ってあったりするのです――
泥の船 サヌキマオ

Entry2
生きる
小笠原寿夫

 夕暮れ時が好きだ。いい写真が撮れるから。古いアルバムを見ながら思う事は、昔の写真は青いという事だ。それはつまり未熟にも満たない覚束ない手でシャッターを押した拙い写真であるという事だ。子供の手が構図も何も考えずに只、撮ったというもの。もっと自然に被写体に触れられないかと考える。
「裏方に回りたいんです。」
そう述べたのは、他でもない私だった。もっと映像を極めたい。そう思った拍子に飛び出した科白がそれだった。
「年老いていくという事は、つまり脇役に回るという事だよ。」
上司はそう述べた。いつの時代も主人公は若者で、年を取るに従い、その若さを羨む。私も老けたな。そう思った。一流の世界はいつだって厳しい。どこに居ようが弱肉強食である。競争によって得られた地位は、若さを欲しがる老人を谷底へ落とす。そうやって世界は回るし、そうあって然るべきである。スポットライトは主人公に当たるし、それが例え未熟であったとしても、その将来性に賭ける人がいる。
 私は、白髪頭を掻きむしり、ふと視線を上げた。そこにはカメラの前で暴れまわる若手が居る。まだまだだな、と思う一方でこのくらいの頃、私は何をしていただろうか、どんな事を考えていただろうか、と自戒する。将来の事など何も考えない有頂天馬鹿だったな、と思う。ついさっきまで暴れていた若手が、私に詰め寄ってきた。
「どうですかね。さっきの。」
私は我に返った。
「あぁ、良かったよ。」
業界なんてあってないようなものとはよく言ったもので、媒体が変われど仕事なんてどれも一緒だ。如何にもといった考え方だが、仕事は仕事。私はひたすらに被写体である若手にカメラを向ける。もっと自然な画が撮れないものか。そう考える。
 そこで思い出した。昨日見たアルバムの夕暮れの写真である。それはただそこにあって、美しさも誰にも媚びない雄大さも嫌味のない無口さも兼ね備えている。それに「ありがとう。」を言う者も居なければ、それを嘲笑う者もいない。ただそこにある。
 これが撮りたかったんだ。私はこれが撮りたかったんだ。ずっと探し求めていた物は、マンションから見た茜の空にずっと居てくれた。私は、少し涙ぐんだ。何も起こらないことがこれ程素晴らしい事だったのかと。駆け巡った衝動に私は、言葉を失った。
 生きるのに意味は要らない。そう思った瞬間、少し心が宙を舞った。
 若手のあどけない表情が、妙におかしく感じられた。
生きる 小笠原寿夫

Entry3
長編小説(途中まで)
おんど

前回の感想票の中で、梶原さんのことを雑に扱っているとのご指摘を頂いたので、まずはそのことから申し上げたい。梶原さんはこれまで述べてきた通り、旧華族の家系に生まれ、蝶よ花よと育てられた世間知らずの無資格司書で、幼小中高一貫校であるフェラス女学院で性春を謳歌したのちお父様の仕事の都合で島根国際大学へ遊学、鳥取砂丘で知り合った無給の男と無休でひと夏を過ごした因果でお乳が人目をはばからず突出したところを原宿でスカウトされ映画「乳シネマパラダイス」でデビュー、北越谷インデペンデント映画祭助演女優部門夜の部カテゴリーCにおいて次点(最優秀者なしの実質金賞)に入るかもしれない今注目の若手女優は誰だアンケート回収業務を受託、芸能界の荒波と男優からの荒揉みに流されることなく独立、自分を見つめ直す旅と称して鳥取砂丘を徘徊、フォトエッセイ集として自費出版、砂丘に横たわるラクダにまたがる裸身が地球温暖化防止と恥丘湿潤化促進のアイコンとして好事家の間でプチ注目されたことからプチ再独立、自分からの脱皮、抜け殻となるまで燃焼、燃え尽き症候群、エレベーター昇降軍などを経て現在はとある地方都市の市立図書館で勤務する傍ら痴呆都市の形成の一翼を担っている。
この夏は岸田首相の退陣表明もあってお盆休みも取れなかったが、ライフワークである反大仏集団の実態調査、いわゆるオシントによるお信徒たちの動向を探るため平日午後のサービスタイムで梶原さんとは濃厚なコミュニケーションをハメ合い、すり合わせ、こすり合わせ等の業務を推進した。この世に高い山があるならば登ってみないと気が済まない質だし下から見上げる梶原さんの胸の尾根はそそり立っていてとても四十路後半のものとは思えないほど張り出しているし、記念に写メを取ろうとすると梶原さんはフェラス女子っぽい恥じらいで腰をくねらせるし、その頂にあるマスカットオブアレキサンドリアみたいな乳首を口に含むと高島屋のバイヤーが今どきの高級ブドウは「大粒、糖度が高い、種なし、見た目がきれい」と大絶賛するほどジューシーなピオーネ&ニューピオーネの味わいであった。その反動で上から見下ろす梶原さんの山はもしかしたら読者諸氏の懸念するような60代女性の垂れ下がりの兆候が垣間見え、マスカットオブアレキサンドリアが肉の狭間に隠れてしまうかもしれない。だからこそ上から見下ろすような神の視点ではなく一人称の
長編小説(途中まで) おんど

Entry4
事後処理
ごんぱち

「……殺した、やと」
 族長は、眉をしかめる。
 居合わせた者達も、顔を見合わせる。
「やられそうになったけえやり返した、それだけや」
 若い男は、薄ら笑いを浮かべながら、粋がった風に答える。
「それとも、ワシがあのまま殺られとれば良かったんか」
「そうは言うとらん。ただ、何もせず逃げ出したら良かったんや」
「そいやと追われるやろ。逃げ続けは真っ平や」
「逃げ切れたんやろ」
「ええやろ。あない力もあらへん、頭の巡りも悪い連中の、一体どこに怯えるんや?」
 場の雰囲気を徐々に読み取り、若い男の笑いは引きつったものになっていく。
「分かった分かった、もうせえへん。それでこの話はしまいや、せやろ。死んだもんが生き返る訳でもあらへん」
「――なあ君」
 小柄な男が口を挟む。やや都の訛りがあった。
「そいつの家族、何ぞおるかい」
 笑みを浮かべつつも、はっきりした確かめるような口調だった。
「君が殺したって事、その家族に、何ぞ伝わっとるか?」
「や、そりゃ」
 反射的に言おうとして、若い男は1度言葉を呑み込み、改めて答える。
「言わんでも……伝わった、やろな。捕まっとったワシが逃げとって、後に死体が1つ、残っとる訳やし」
 嘘を言うより、まずい事を言わないだけにしてこう、若い男にはそんな判断があった。
「家族は何人だい」
「1人だけや」
「そうか。不幸中の幸いやな」
 小柄な男はにこにこ笑う。
「そんなら、その家族が仕返しを考えんよう、工夫しよか。付き合いたまえよ」
「えっと」
 若い男は族長の方に視線を向けるが、族長は視線を合わせる事はなかった。

 半日ほど後。
「――やあ、えらい、疲れた」
 小柄な男が、族長の元に戻って来る。
 腕が濡れ、水が滴っていた。
「あんまり気分の良いもんやありまへんね」
「……手間、かけたわ」
 族長は小柄な男と目を合わせなかった。
「連中は恨みを決して忘れん。個人が忘れても、文字に書き残してでも恨み続ける。放っておけば、我らの一族だけでは済まんですから」
「うむ……」
「誰かがやらなならん事です。些事はこちらに任せて、族長はもっと大きな事を考えて下さればええですよ」
「……しわしわ休みんさい。後で何か差し入れよ」
「そら有り難い。我ん家に置いておいてつかさい」
「……まだ行くんか」
「あの人間の爺にとっちゃ、一体何が起きたか分かりゃせんですからね。報告ば行かな」
 小柄な男は、葉っぱを一枚頭に乗せると、ぽんとウサギに化けた。

事後処理 ごんぱち

Entry5
王様を欲しがる蛙
アレシア・モード

 私は激怒した。必ず、かの無能怠惰の王を除かねばならぬ。私――アレシアには政治が分かる。私は、森の蛙である。小さな沼の水面で、泳いだり潜ったり、虫を喰ったりして暮らしてきた。けれども政治の無能に対しては、人一倍敏感であった。今日未明、意味なく起きていた私は、沼の様子を怪しく思った。ひっそりしている。まだ日も昇らず、沼の暗いのは当たり前だが、そればかりでなく沼全体がやけに寂しい。そこにいた老爺を揺さぶって、何があったか、昔のこの国はもっと活気があった筈だと詰問した。老爺は辺りをはばかる低音で答えた。
「王様は何もしません」
「なぜだ」
「中身がないのです。ご自身の考えは顕さず、自ら動かず、ぷかぷか浮いているばかり」
「王は、沼を統べる者として神が遣わし、内政に外交に大役を務めてきたはずだ」
「あれはエリート蛙たちが動かしているのです。財務蛙、外務蛙、防衛蛙、デジタル蛙、それから賢臣アレキス様が、皆で話し合って」
「驚いた。王は操り人形か」
「いいえ人形ではありませぬ。かつて神の寵愛を恣にした高級空気嫁だったと」
 聞いて私は激怒した。「呆れた王だ。生かしておけぬ」
 私は単純な蛙であった。刃渡り50センチの小刀を抜いたまま、のそのそ王城に入っていった。たちまち巡邏の警吏が囲んだが、そのまま血塗れで王の前へ進んだので騒ぎが大きくなってしまった。暴君デュオニスは静かに口を開いた。
「その刀の目的は何か。目的はある時もある、ない時もある。だから目的を言葉にする事は、言葉にしない事でもある。つまり言葉の力と沈黙の力。この両立が大切だと思うのです」そのビニールの顔は皺一つ無く艷やかで、水面下では幾多の黒子が息を切らして操作していた。私は無言で刀を突き立てた。王は甲高い音で破裂し、私は気流に吹き飛ばされ……

「……アレシア、道端で何寝てるのよ」
「その声は竹馬の友、マリではないか」
「あなた、素っ裸じゃないの」
「蛙だからな」
 私は起き上がると、最後の任務を果たすべく天に向かって両腕を拡げた。「神よ、我らが全能の神! 颱風女アレシアが求め訴える! 新たな王を授け給え! 厳格強大な絶対暴君を我らに授け給え! バーロース!」
 一天、俄かに掻き曇り、煌めく稲妻、轟く雷鳴、吹けよ風、呼べよ嵐! 七つの首の暴君が七つの喇叭を吹き鳴らす!
「ハレルヤ! ハレルヤ!」
 何かが頭にすっぽり被せられた。
「前が! 前が見えない!」
王様を欲しがる蛙 アレシア・モード

Entry6
香水
今月のゲスト:片岡鉄兵

 珍しくもない、あの九月一日の地震の時のお話ですが……私あの時、牛込の下宿に居ましたのです。
 一日の夜は、下宿の裏手に当たる或る小さな神社の境内に寝ました。
 その辺が、ご存知の通り、花柳街なものですから、境内には芸妓が、いっぱい避難して居ました。彼女たちは、べちゃべちゃ饒舌ったり、いぎたなく寝そべったりして居ました。野天の下に、ござを敷いて、私は、どこの何という名の芸妓かも知らぬ女と、殆ど肩を擦れ合わさんばかりにして、寝て居ました。
 空は夜どおし、真赤でした。盛んに焼ける下町の炎が、とおい山の手の神社の境内にまで、あるかなきかの明るみを投げて居ました。
 その、あるかなきかの明るみが、夜更けの境内を水底のように蒼白く濁して居ました。地震が、あらゆる文明の呼吸を切断し去ったその夜、勿論、電灯など人々の念頭にもなかった、電灯を諦め、心からその明かりを放棄した夜が、いかに底深く暗いものであるかを、あなたは想像することもできますまい――その底深いやみの世界が、ほのぼのと蒼白く、下町の大火の明るみで浮き出されて居る中に、無数の娼婦が、天変地変を怖れながら横たわって居るのでした。
 夜なかすぎ、女たちは、みんな饒舌り疲れて、騒々しかった境内もしいんと静まりました。
 ふと、誰かが、寝返りを打ち、私は、幾人かの腹を越した向こうで、白いハンカチが、一瞬間、剥落した鱗のように、翻るのを見ました。同時に、何とも云えぬ激しい、ヘリオトロープの匂いが、蒼白い水底をくぐって、無言のまま、私の顔面を叩いたのを感じました。
 私はその翌日の夕方、とうとう東京を逃げ出してしまいました。震源が伊豆なら、大宮まで歩いて行けば、きっと汽車に乗れると確信したからでした。
 慶大の学生のY君と二人で、東京を出て行ったのでした。私は文明のなくなった東京を見捨てるのに何の未練もない、それほど薄情な人間だったのでした。文明のない所に生活する事の出来ない人間だったのでした。私は文明のある大阪に、愛人があったのでした。そして私は、文明を否定するあらゆる企てに反抗する人間だったのでした。もし世界中に文明がなくなったら、私は滅亡するほかにない人間だったのでした。文明――然し、それは、現在私の生き馴れて来た文明と同じ種類の、同じ方向の歩みを持った文明のことを云うのです。
 市中を離れて、板橋までたどりつくと、歩き馴れぬ私の足は疲れ、弱い心臓は異常な鼓動を持ち始めました。もし、その時、汽車は程ちかい川口駅から出て居ると聞かなかったら、どんなに私は困ったことだったでしょう。
 川口から汽車が出ると聞いた時の、心躍りはたとえようがありませんでした。汽車がある。だから私は再び文明に迎えられた! この歓びに、私の足は溌剌と進み出したのでした。
 板橋から、その辺の地理を、よく心得て居るY君の案内で、川口駅につづく間道を二人は採りました。
 間道を越えると、やがて川口町に入りました。するとどうでしょう、多分、いま着いたばかりらしい汽車から吐き出された群衆が、夥しく列をなして、東京へ、東京へ、と急いで居るではありませんか。肉親や知人の安否を気遣う地方人たちが見舞いに走せ付ける途中である事は、勿論分かりました。
 東京に行ったって、駄目ですよ、あの混乱の中で、諸君の肉親や知人を探すことがどうして出来ようぞ、『危ない!』と私は彼等に声を掛けて忠告したい欲望が、胸一杯に湧き上がるのを感じました。然し、薄情な私は黙って、停車場の方へ急ぐ他はありませんでした。
 すれちがう群衆の中には、若い女や女学生もありました。川口町に日はとっぷり暮れて、乏しい提灯の明かりが僅かに行き交う人々の顔を照らして居ました。と、突然、私はすれちがった群衆の中から、激しく私の鼻を射た一道の香気を感じました。
 ヘリオトロープの匂いです!
 その時、私は何という事もなく、文明の幽霊に取り憑かれた私を今発見したような気がしたのでした。私の推理によれば、丁度その頃、食糧を失った下町の民が山の手で乱舞している時刻だと想わずには居られないのでした。そうして、なぜ自分は、その壮大な乱舞に――私のでない他の所有である文化の出達に参与して、花々しい私自身の文化の滅亡を見なかったのであろうと、私自身に問うたのでした。
 斯く自らに問うのが、逃げ出して行く私の力なのでした。そうして汽車に乗って、翌日の夜大阪の電灯の美しさに驚いたのが、私の行き着いた生活なのでした。
 大阪では、ヘリオトロープの香水が、美しくショーウインドウに並んで居ました。

――十五年七月――