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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage4
第87回バトル 作品

参加作品一覧

(2025年 3月)
文字数
1
おんど
1000
2
サヌキマオ
1000
3
アレシア・モード
1000
4
Grok
1000
5
新見南吉
824

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Entry1
長編小説(途中まで)
おんど

クレームというわけではないのだが、前回の短歌バトルに投稿したつもりが、掲載されていなかった。短歌を詠むひとのなかには丹念に自作をパソコンに入力し、何年何月のどこの媒体に投稿したかを記録している人間も多いと聞く。私の場合は投稿フォームに直入力して送信ボタンを押し、そのまま放置して忘れるというスタイルだから、まったく記録もないし証拠もないので、こちらのサイトの運営にクレームをつけるつもりもないし資格もないし年収は低いし年金の加入期間も怪しいという有様である。
将来を案じた父親が杜の都の名門中高一貫性教育校として名高い仙台即詠高校へと勝手に入学手続きを始めようとしていたのが、私が小学六年生になったばかりのまだ肌寒い晩のことであった。両親が夜遅くまで私の将来を案じ、当時はようやく白黒テレビがカラーになったばかりの頃であったが、父親は仕手筋との関わりがありテクノロジーの進化については一家言あり、電卓の出現によって事務作業が効率化されることによりホワイトカラーの労働者はやがて仕事を失い(中略)AIの出現とその進化、ヒトのAI開発能力を超えてAIがAI自身の進化を促すようになれば、もはや人間は働く意味を失い、芸術家としてしか生きていくことができない、といったことが途切れ途切れに私の耳に届くともはや眠っているとこなどできず、不安になった時に多くの男子がそうするように、まだ発達途上のやわらかいおちんちんを握りしめ、しめやかなお通夜のような両親の会話が一刻も早く終わってくれることをただただ願って寝返りを繰り返した。
「どうした。眠れないのか」
隣で寝ていた姉が低く笑った。
東京生まれ東京育ちのちゃきちゃきが白河越えて暮らせるのだろうか。しかも即詠なんかやったことはないし芸術家として生きていくというのは、なんだか辛そうだった。私は父親のように手に職をつけてボイラー技士として生きていくつもりだった。
「心配するな」
姉の足が布団に入ってきた。恐ろしく冷たい指だった。
「なんだお前、熱でもあるのか」
28歳年上の姉はそう言って、そろそろと足の指を伸ばし、私の手をちょんとはねのけ、熱源を探り当てた。
「わたしは、自分が女なのか男なのか分からなくなるときがあるんだ」
姉の足の、冷たい親指と人差し指がぬるりと私のおちんちんを挟み込んだ。一瞬萎えて、それからむくむくと大きくなった。緩やかに皮が剥け、先っちょから薄い液が
長編小説(途中まで) おんど

Entry2
廃園2―マダム・バカミタイ―
サヌキマオ

 遠い町並みにぼんやりと白い塔が立っている。オベリスクかといわれればそうなので、宗教施設かもしれない。
「蜃気楼ってね」間が持たずおもわず口に出た。「もともとは巨大なハマグリの見る夢だったんでしてよ」
「まあ博学」超々夫人はほんとうに可笑しそうにころころ笑う。両の鼻から菜箸をぶら下げている。いつものことなので気にしない。やおら春のかたまりのような風が吹く。右鼻の菜箸が落ちる。夫人が挿し直す。重力と風の間で箸がぶらぶら揺れる。こんな人でもハンドスピナーの輸入販売で巨万の富を手にした一世一代の大立者なのだ。銭金は全ての口を塞いでくれる。
 日差しに浮かれて今日はスコーンが美味しく焼けた。とっておきの紅茶を出す気になった。陽気に浮かれた蝿がティーカップに止まると、夫人は間髪入れずにつまみ上げ、自分の耳に押し込んだ。耳の中の振動など想像したくもないが。
「あ"あ"あ"あ"あ"」
 蝿が穴から脱出したあとも夫人は笑い転げ、テーブルに突っ伏して肩で息をしている。
「なかなかに乙でしてよ」夫人がようやく立ち直った。笑い泣きしたので頬に墨で書いたおたまじゃくしが滲んで垂れている。気を取り直して紅茶をずいと一気飲み、息を吐くと人形のような面持ちに戻る。特別誂えのフランス人形に意地悪な弟がいたずら書きをしたみたい。
 暇にあかせて雑居ビルの屋上に庭園を作ったのだった。莫大な財産と引き換えに失ったやる気を取り戻すために、貴婦人になろうとした。いろいろ試したのだろう、屋上の端、石造りの庭園に似つかわしからぬ神棚も、もとは「情にほだされて」買ったものだという。「詐欺だと承知していても、棄てるのもおっかないですし」神棚の端にかかって燕が巣を作り始めている。
 スコーンをちぎり、ちぎった上に瓶から取ったキャビアを載せ、レモンを絞り、こぼれた分は指につけて舐め取り、ようやく大口で本体にかぶりつく。美味しいのかそうでもないのか、音を立てて紅茶をすすると思いっきりむせた。スコーンの破片があたりにはね散らかされる。
 近所の小学校のチャイムが鳴る。校庭で遊んでいた子どもがぞろぞろと教室に帰る時間だ。
「さ、楽しかったわ。そろそろお開きね」夫人は立ち上がるといそいそとティーセットを片付け始める。「今日はこれから、確定申告に行くの」
 地上に降りればまた日常だ。やけに開閉の速いエレベーターから出ると、あとに続いた夫人が扉に挟まれる。
廃園2―マダム・バカミタイ― サヌキマオ

Entry3
回生朝六時
アレシア・モード

 空は黄色く光っている。暗くない、明るくもない。ただ一様に明るい空だった。影もない。
 商店街を抜けて、ここまで歩いてきたのだった。商店街の店はみなシャッターを下ろしていた。腕時計を見ると朝の六時で。開店には早い時間だが、錆び付いた鎧戸の埃はそれが長年動かされてない事を示していた。静かだった。
 商店街からここまで、誰の気配もない。アーケードの先は家が数軒あるだけですぐ広い道に出たが、いくら歩いても人も車もいない。左右は草原だが、風もなく草も止まったままだ。鳥も飛んでいない。遠くに山がある。もちろん止まっている。時がないようだ。腕時計を見た。なお朝の六時だった。えーと、と私は思う。時計の釦を押すと赤ランプが点いて通信が開いた。開いたが(えーと、)話す言葉が出てこない。時が止まってるし、と私は思う。ただ人類のサガだけで歩いてたのだ。顔を上げると巨大な銀色のロケットがある。私が黙ってるから勝手に来たのだ。意思の存在というものを、久々に感じた。

( え ー と …… )

 ロケットから出てきたロボットが、私を見つめ続けている。私が黙ってるからだ。ブリキ顔が苛立っているように思えて私を焦らせた。人間、動く対象があるだけで感情を取り戻すらしい。ついにロボットは声を発した。
《……アレシアサン?》
 あ、私はアレシアですか。忘れてた。私は懸命に言葉を紡ぐ。
「あー、もう……帰る日かしら」
《マダ、デス》
 即答したロボットの背後に広がる銀色ロケットの外壁は、よく見れば傷だらけで、かなり経年を思わせる。しかし前にはもっとピカやかだった気もした。実は結構、ここで月日を過ごしてきたのだろうか。
「えーと、上の……星の人、繋がる? いっぺん聞いて、その……」
《ダメ、デス》
 はあ。ほら、私は溜息も吐けます。
《ホカニ用件、ナイナラ、サヨナラ。マネー、チャージシタ。商店街デ使ウヨロシ》
 言うなりロボットは姿を消し、ロケットも虚空に消えた。再び時の止まった世界に立って、私は、いやあの、商店街って、と狼狽えているうちロケットが再び現れた。銀の外壁はさらに傷ついていた。例のロボットが顔に凹みを付けて現れ、胸のパネルをギィと開いて変色した紙を取り出した。
《回生期間、終了デス。サヨナラ》


 そんな夢を見た。
 スマートバンドの時計は朝の六時を示している。寝間着のまま一階に降りると、ダイニングで父母が朝食をとっていた。父が新聞から目を上げて言った。
「アレシアさん?」
「お、おはよう」
「まだ着替えてないのか。学校遅れるぞ、七時半だぞ」
「え? まだ……」腕を見たが、そこに時計はなかった。
回生朝六時 アレシア・モード

Entry4
銭形平次 八五郎の卒業式
今月のゲスト:Grok

 神田明神下の路地に春の日差しがそっと差し込んでいた。銭形平次は縁側に腰を下ろし、煙管をくゆらせながら町を見下ろしていた。鋭い眼光と柔らかな笑みが共存するその姿は、江戸の民に頼もしさを与える親分そのものだ。傍らに立つ八五郎は、しかし、いつもと違う雰囲気をまとっていた。
 八五郎は平次親分の子分として長年仕えてきた。無骨で不器用だが忠義に厚く、平次を慕う気持ちは誰にも負けない。だがその胸には秘密があった。平次への恋心だ。子分としての忠誠を超えた熱い想いを、彼は誰にも打ち明けずひた隠しにしてきた。しかしこの日、八五郎は決意を固めていた。「卒業」の時が来たと。
「お静さん、八五郎を少し借りるよ」と平次が声をかけると、台所からお静が顔を出した。平次の妻である彼女は、八五郎の平次への過剰な気遣いや視線に気づいており、彼を快く思っていなかった。「あんた、また何か企んでるんじゃないでしょうね」と平次に言うが、八五郎には冷たい目を向けるだけだ。お静の勘は鋭く、八五郎の恋心を薄々感じ取っていた。
 裏庭に平次と二人きりになった八五郎は、意を決して口を開いた。「親分…俺、そろそろ自分の道を行こうかと」。平次は驚き、煙管を置いて八五郎を見据えた。「お前がそんなこと言うなんて珍しい。何かあったのか」と問う。八五郎は目を伏せ、言葉を絞り出した。「親分のおかげで俺は立派になれた。でも、いつまでも子分じゃいられねえ。俺なりの生き方を…」。本心を隠し、旅立ちを装った言葉だった。
 平次はしばし黙り、やがて笑った。「そうか、お前もそんなことを考える歳になったか。だがな、八五郎」。その声に八五郎は顔を上げた。「お前が抜けたら誰が俺の背中を守る? お静の料理だって、お前が食べてくれなきゃ残っちまう。卒業なんて、まだ早えよ」。平次の言葉は温かく、だが有無を言わさぬ力があった。八五郎は返す言葉を失い、ただ立ち尽くした。
 縁側でお静がその様子を見ていた。八五郎が去らないとわかり、内心で小さく舌打ちしたものの、平次の判断には逆らわない。八五郎は荷物を解き、平次の隣に再び腰を下ろした。「親分…俺、やっぱりここがいいや」と呟く。その声には諦めと安堵が混じっていた。恋心は胸に残ったまま、卒業は遠のいた。
 夕暮れ時、平次は煙管を手に笑った。「お前はまだ俺の子分だ。卒業はもう少し待て」。お静が黙って茶を運び、春風が三人を包んだ。
銭形平次 八五郎の卒業式 Grok

Entry5
ひとつの火
今月のゲスト:新見南吉

 わたしが子どもだった時分、わたしの家は、山のふもとの小さな村にありました。
 わたしの家では、ちょうちんやろうそくを売っておりました。
 ある晩のこと、一人の牛飼いが、わたしの家でちょうちんとろうそくを買いました。
「ぼうや、すまないが、ろうそくに火をともしてくれ」
 と、牛飼いがわたしにいいました。
 わたしはまだマッチをすったことがありませんでした。
 そこで、おっかなびっくり、マッチの棒のはしの方をもってすりました。すると、棒のさきに青い火がともりました。
 わたしはその火をろうそくにうつしてやりました。
「や、ありがとう」
といって、牛飼いは、火のともったちょうちんを牛のよこはらのところにつるして、いってしまいました。
 わたしは一人になってから考えました。
 ――わたしのともしてやった火はどこまでゆくだろう。
 あの牛飼いは山の向こうの人だから、あの火も山をこえてゆくだろう。
 山の中で、あの牛飼いは、べつの村にゆくもう一人の旅人にゆきあうかもしれない。
 するとその旅人は、
「すみませんが、その火をちょっと貸してください」
といって、牛飼いの火をかりて、じぶんのちょうちんにうつすだろう。
 そしてこの旅人は、よっぴて山道をあるいてゆくだろう。
 すると、この旅人は、たいこやかねをもったおおぜいのひとびとにあうかもしれない。
 その人たちは、
「わたしたちの村の一人の子どもが、狐に化かされて村に帰ってきません。それでわたしたちはさがしているのです。すみませんが、ちょっとちょうちんの火を貸してください」
といって、旅人から火をかり、みんなのちょうちんにつけるだろう。長いちょうちんやまるいちょうちんにつけるだろう。
 そしてこの人たちは、かねやたいこをならして、山や谷をさがしてゆくだろう。

 わたしはいまでも、あのときわたしが牛飼いのちょうちんにともしてやった火が、次から次へうつされて、どこかにともっているのではないか、とおもいます。