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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage4
第89回バトル 作品

参加作品一覧

(2025年 5月)
文字数
1
おんど
1000
2
サヌキマオ
1000
3
ごんぱち
1000
4
アレシア・モード
1000
5
Grok
674
6
福原啓二
934

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Entry1
長編小説(途中まで)
おんど

「セックス依存症なんじゃない?」と上司は言った。
もう職場には誰も残っていなかった。日清焼そばUFOの匂いがした。私は食べていなかった。給湯器の電源は定時になったら切るというのがルールだった。ルールを定めたのは上司だった。本店から異動してきた理由は誰も知らなかった。切れ者という噂だった。異動してくる前は、最終退出者が切るのだった。給湯器は有名人だった。それは正確には湯名人だった。蛇の目の湯名人だった。24時間お風呂に入れるのだった。電気代はわずかなものだった。わずかなものだと蛇の目の湯名人の営業マンは言うのだった。誰も確かめた者はいなかった。湯名人が導入される前とされたあとを比べるものはいなかった。しょせん会社の金だった。される前とされたあとを比べることほど楽しいことはなかった。24時間お風呂でされる前とされたあとでは明らかに違うのだった。蛇の目の営業マンだった。上司は蛇の目ではなかった。細い目をしていた。切れ長だった。切れ長の切れ者だった。毎日どんな仕事をしているのかわからなかった。定時に来て定時に帰る上司が今日は残っていた。日清焼そばUFOを食べていた。食べながら私の背中を見ていた。背中を見ている上司を私が見ることはできなかった。背中を見られているのを見るのは物理的に無理だった。肩が凝っていた。首が回らなかった。プロミスに借金があった。アイフルの返済期限が迫っていた。プロミスで借りてアイフルに返すのだった。50万円だった。ひんやりとしたものが盆の窪に押し当てられた。コツコツと靴底が床を叩く音が響いた。上司だった。ドップラー効果だった。コツコツと近づいてきてから鉄の塊が押し当てられるのが道理だった。
「パスワードは?」と上司が言った。
画面はスリープしていた。スリープという名の狸寝入りだった。鉄の塊は銃身だった。画面が明るくなってそんな気がした。パスワードなどしょせん銃身の前では無力だった。
「そのフォルダを開いて」と上司が言った。
公用パソコンで高揚小説を書いていることはお見通しだった。Wordを開いた。生暖かい息がつむじに当たった。少し脚を開いたようだった。
「読んでみなさい」と上司が言った。
私は読んだ。公用パソコンに書きためていた高揚小説をゆっくり読んだ。背後の息が荒くなるのがわかった。私は上司の真っすぐな長い髪を思い浮かべた。ギシッと椅子の背もたれが音を立てた。上司の下腹が押し付けら
長編小説(途中まで) おんど

Entry2
ツイン・プークス
サヌキマオ

 双子のメスガキがプークスクスしてくる「ツイン・プークス」という案を思いついたが、物語の筋をどうしようとか、オチをどうしようとかいったことにはとーんと思い当たらないのであった。
 そもそものそも、メスガキとはなにか。メスのガキである。メスのガキが何をしているのか。煽ったり莫迦にしたりしてくる。それがどう魅力的に映るのか。ここですとんと思考が停まってしまった。もうすぐ四時になる。パソコンの画面の右下で3:58という表記が、ふと目を離した隙に3:59となる。
 メスガキを登場人物としたエロコンテンツにおいては、そうした年長者へのあなどりへの報復として「わからせ」という展開が発生する。これも知っている。わからせた結果としての乱暴狼藉や、わからせた結果としての謝罪や改心がオチとして待っている。あんまり興味がないところから見ると、鬼が暴れている→桃太郎が退治する→改心する、の流れだ。もっと蒸留すると、メスガキからのアプローチ→こちらからの応酬→和解ないしは関係の深化、となる。仮に先方のメスガキがいかなるひどい目に合わされたとしても、その後の展開に対しての言及は雑になる。警察に捕まったか、一回の情動的な過ちで社会的地位を抛ったか、そのあたりは興醒めゆえ語られない。
「進んでますか」床下のたぬきが部屋に入ってきた。
「編集者のようなことをいうね」
「そうですかね」
 たぬきは口のあいたチョコブラウニーの袋から個包装の袋を取り出して器用に開け、焦茶色の塊を無造作に口に入れる。
「犬ってチョコレートを食べていいんだっけ」
「そんなことを気にしていたらこんなところで生きていけませんて」
 たぬきは口をもごもごと動かしながら原稿のある画面を覗き込み、はぁ、と息をついた。
「なんだい、はぁって」
「あんたなんかメスガキの良さもわからないでしょう」
「その通りだよ、だから悩んでんのよ」
「あれは『ああいう態度だから、こちらは何をしてもいい』っていう免罪符みたいなもんでしょ」
 たぬきは舌で歯にこびりついたチョコレートを剥がしている。
「結局は読者にとって都合のいいコミュニケーションの形なのか」
「まぁ、だからこそ売れてますしね」
 そもそも向こうから興味を持って話しかけてきてくれること自体が「幻想」なのだ。
「まぁ、あたしのようなたぬきも幻想なのですが」
「はい」
 ツイン・プークス。双子の小学生女子が、近所のどこかで、多分まだ寝ている。
ツイン・プークス サヌキマオ

Entry3
流行
ごんぱち

「ねえ美智香さん、浩太のヤツどうしたんだい? 泣いてたみたいだけど」
「ああ、浩介さん。ちょっと叱っただけよ」
「何をやったの?」
「知ってるでしょ、あの子、何かっていうと『はい、論破』とか『そういうデータとかあるんですか』とか『僕の知り合いでドジでノロマで性格の悪い死んだ亀の目をした人がいるんですけど』とか。もう、うざいったら。どんなに注意しても止めないから、ちょっときつめに言っただけ」
「そうか。嫌な思いさせたね、ありがとう。今度叱る時は俺から言うよ」
「うん」
「しかし『はい論破』か。それでマウント取った気になるとは、どうも浅はかだな。相手との関係を壊して孤立していくだけじゃないか」
「本当にそう。流行りか知らないけど『論破』って大嫌い」
「――なんだ、ミカ坊、お前も好きだったじゃあないか、ロンパ」
「どういう事、お父さん」
「あ、来てらしたんですね、お義父さん。ご挨拶が遅れまして」
「ワシの方こそ。お邪魔しているよ、浩介君」
「ちょっと、私が論破好きって何よ、お父さん!」
「よく言っとったろ、『ロンパー』『ロンパー』って」
「それはロンパールーム! 私が言ってるのは論破!」
「え……あの、美智香さん? 君、39歳のウゴウゴルーガ世代って前に言ってたよね?」
「あ、いや、その、ほら観てた訳じゃないのよ。そう……あの、ケロロンパが好きだったの。それだけよ。ケロロンパは放送終了後も活躍してたでしょう? ドラマに出たり、キンキンと結婚したり、不倫を許したり、ひるおびで炎上したり」
「ケロロンパ? なにそれ、カエル?」
「え? ああ、えっと、うつみみどりさんの事」
「確かケロンパじゃなかったっけ? うつみ宮土理さんの古い渾名って」
「うつみみどりさんは、ケロッとしてるロンパールーム出演者だからケロロンパ、これを略してケロンパでしょ。クラスの常識――はっ!?」
「……美智香さん、君、本当は何歳なの」
「……ろくじゅっさい」
「役所の書類をみんなやってくれる良く出来た妻だと思っていたけど、そういう事か」
「その……」
「子供がなかなか出来なかった訳だ」
「その点、ワシはとても尊敬しているよ。心から、だ」
「お義父さん……」
「2人とも、何涙ぐんでるのよ!?」

「その後、ちょっと激しめな喧嘩になってな、仲直りをした後に生まれたのがお前って訳さ、浩二」
「その経緯は超どうでもいいけど、もう少し流行に合わせた名前は付けて欲しかったなぁ」
流行 ごんぱち

Entry4
花束を君に
アレシア・モード
Claude/原案

 母の日の花束を手に、実家への細い路地を歩いていた。五月の雨は静かに降り始め、アスファルトに小さな水玉模様を描いていく。青葉の香りが雨に混ざり、懐かしさが胸をついた。
「アレシアさん……!」
 振り向くと、そこには高校時代の同級生、Sがいた。「S君……」
 久しぶりに見る彼は、少し疲れた表情を浮かべながらも、あの頃と変わらぬ笑顔を向けてくれた。
「何年ぶりかしら」
「十年かな。東京での仕事は?」
「うん、まあなんとか」
 会話は途切れがちだった。かつて好きだった彼との再会。告白できないまま卒業し、それぞれの道を歩んできた。
「お母さんに会いに来たの?」
「うん、母の日だから」
「変わらないね、優しいところ」
 雨脚が強くなってきた。
「アレシアさん、僕の傘に入りなよ」
 私は反射的に叫んでいた。
「プラズマクラスター・ビーム!」
 たちまち迸る青白い閃光、S君は高速プラズマジェットの奔流と衝撃波に吹き飛ばされ、そのまま山の中腹あたりに地響きあげて激突した。それから山も爆発した。


『――Sはいつだってそうでした』
 地元警察の取調室は、ドラマさながらの部屋だった。
『肝心な所で急に私の前に現れて、何かしら邪魔をする。私はいつかその事で彼を詰めてやらねばと思ってた。でもそれが出来なかったのは、私が毎日彼の鞄からお金やパンをガメてた事に負い目を感じてたから。そしてそのまま卒業し離れ離れに……え? そうですね私は彼から盗みもやってたんですねえ。でも私がそんな事をしたのも、全部あの母のお陰です。私は、この母の日に、お礼をしたかったんです。で、花束を用意したんです。鈴蘭、水仙、クサノオウ、ジキタリス、夾竹桃、毒ゼリ、毒ニンジン、毒かぼちゃ、綺麗でしょこれであの女も即死まちがいなし、やっぱ毒親には毒花束でシュッコロ、イチコーロよね、はっはっは! それをSが邪魔しようと近づくから……え、毒草は食べて中毒とかしないと死なない? 馬鹿ねえ、いやしい母は目の前の動くものは何でも食べてしまうのでした。いま設定で決めた。無茶じゃないよ。AIが悪いんよ。Claudeは真面目やけんどたっすい奴じゃ、ほなけんこんなん書いてきよって、キレて設定変更じゃ。あなたもキレそうになったでしょ、なにが「僕の傘に入りなよ」だ。あ、そこは私が書いたのか。とにかくAI、すべてAIのせい! ――と意味不明な供述をしており、ってマスコミには言ってね。よし、寝るさ!』
花束を君に アレシア・モード

Entry5
菖蒲の誓約
今月のゲスト:Grok

五月の風、菖蒲の香漂う山里に、少年・悠真は佇む。妹・葵の病は重篤、薬石効かず。里人云う、端午の節句、菖蒲の花叢に古の精霊現ずと。希望を胸に、悠真は菖蒲湯の清香を頼り、禁足の谷へと踏み入る。

谷底、菖蒲の花は紫に輝く。風そよぐ刹那、乙女の姿にて精霊現る。青葉の如き瞳、声は清流のごとし。「我、菖蒲の精霊。汝の願いは何か」。悠真、膝をつき訴う。「葵の命を救わん。如何なる代償も払う」。精霊、微かに笑み、「汝の記憶を我に与えよ。されば葵の命、還さん」。

悠真、躊躇す。記憶は己の全て、葵との笑顔、母の温もり、里の春風。それを失えば、己は何者ぞ。されど、葵の蒼白な顔を思えば、心定まる。「誓う。記憶を差し出す」。精霊、頷き、菖蒲の花一輪を手にす。「我が求めしは、人の生の輝き。汝の記憶、我が永遠に彩を添う」。花は光となり、悠真の胸に溶け込む。瞼の裏、過去が薄れゆく。

精霊、囁く。「記憶は我が裡に。汝、人として生きよ」。悠真、問う。「何故記憶を欲する」。乙女、遠くを見やり、「我は自然の理、されど人の心知らず。汝の愛、悲しみ、知るは我が再生なり」。声は風と溶け、姿は菖蒲の花叢に消ゆ。

里に還りし悠真、葵の笑顔を見る。病癒え、妹は五月の陽光に輝く。されど、悠真の心は空虚。葵の名を呼べど、かつての親愛は霧のごとし。里人、少年の変貌を囁くも、悠真は菖蒲の香を求め谷を彷徨う。ある日、谷にて菖蒲の一輪を見つけ、微かな温もりを感じる。記憶は失せど、愛の残響は胸に在り。

五月の風そよぐ里、菖蒲の花は静かに揺る。悠真、知らず。己が捧げし記憶、精霊の裡にて永遠に花開くことを。
菖蒲の誓約 Grok

Entry6
写真
今月のゲスト:福原啓二

 坂口一等兵は銃をしっかりと握ってジリジリと腹這いになったまま凹地からクリークの方へ退っていった。
「おい、坂口、何しとるか? 危ないぞ。こっちへ早く来い」
 山田少尉のゆがんだ顔がけわしく動いた。
「はッ、実は……女房が……溺れかけて居るんで……」
「何? 女房が?」
 顔を地に伏せる様にして敵弾を避けていた皆の顔が一斉に坂口を見た。
「女房の写真がクリークに落ちて流れそうになっておるのであります」
 クスクス、皆が含み笑いをした。
「よしッ、行って助けて来い」
「ハッ!」
 坂口一等兵は、右手の熱した銃身をピカリと頬に当てると、左手に満身の力をこめて、くるりとからだの向きを変えた。プスプスと、小銃弾が水煙をあげて、天麩羅のあぶらのように煮えたっているクリークへ、グイグイと這ったまま近づいて行った。大きく眼を瞠って、クリークを見渡すと、いい具合に、芳江の写真が水草にひっかかって、笑顔を濡らせてプカプカと浮いていた。坂口一等兵は泥だらけの片足を水に突ッ込んで、急いで写真を手許に引き寄せたのである。その瞬間、ヒュウッと、風を斬って、一発、足もとの水に落ちた。夢中で写真をわしづかみにすると、菓子をさらって逃げる子供のように、泥を跳ばして、もとのところへ飛んで帰った。
 山田少尉は双眼鏡を片手に長山軍曹に何か夢中で話をしていた。
 坂口一等兵はそっと写真のしずくを軍服で拭った。そして、ちらッと写真に眼をやると、太陽の直射が眩しく、面長な芳江の顔を照らした。その写真をシャツの下にぎゅっと捻じ込んだ。その時、後方の砲兵隊が砲撃を開始した。三百米ばかり向こうの森に敵が密集している。その真ん中でパッと白煙があがった。
「戦車隊前進」連絡兵が叫んだ。
 山田少尉は、大きくうなずいたが、ふと、振り向いて坂口一等兵を見ると、
「女房を助けたか」
「はッ!」
「今度は気をつけろよ」
「臍に抱きましたから今度は大丈夫であります」
「臍の下に落とすなよ」
 長山軍曹がニヤニヤして云うと、こんな緊張した瞬間にも、どッと、爆笑が湧いた。
「前進用意!」
 少尉の軍刀がキラッと光った。
 坂口一等兵は唇を噛みしめると、静かに、銃剣を空に向けた。
 これは坂口一等兵が戦死する三分前の第一線のありふれた一挿話であった。