Entry1
長編小説(途中まで)
おんど
「セックス依存症なんじゃない?」と上司は言った。
もう職場には誰も残っていなかった。日清焼そばUFOの匂いがした。私は食べていなかった。給湯器の電源は定時になったら切るというのがルールだった。ルールを定めたのは上司だった。本店から異動してきた理由は誰も知らなかった。切れ者という噂だった。異動してくる前は、最終退出者が切るのだった。給湯器は有名人だった。それは正確には湯名人だった。蛇の目の湯名人だった。24時間お風呂に入れるのだった。電気代はわずかなものだった。わずかなものだと蛇の目の湯名人の営業マンは言うのだった。誰も確かめた者はいなかった。湯名人が導入される前とされたあとを比べるものはいなかった。しょせん会社の金だった。される前とされたあとを比べることほど楽しいことはなかった。24時間お風呂でされる前とされたあとでは明らかに違うのだった。蛇の目の営業マンだった。上司は蛇の目ではなかった。細い目をしていた。切れ長だった。切れ長の切れ者だった。毎日どんな仕事をしているのかわからなかった。定時に来て定時に帰る上司が今日は残っていた。日清焼そばUFOを食べていた。食べながら私の背中を見ていた。背中を見ている上司を私が見ることはできなかった。背中を見られているのを見るのは物理的に無理だった。肩が凝っていた。首が回らなかった。プロミスに借金があった。アイフルの返済期限が迫っていた。プロミスで借りてアイフルに返すのだった。50万円だった。ひんやりとしたものが盆の窪に押し当てられた。コツコツと靴底が床を叩く音が響いた。上司だった。ドップラー効果だった。コツコツと近づいてきてから鉄の塊が押し当てられるのが道理だった。
「パスワードは?」と上司が言った。
画面はスリープしていた。スリープという名の狸寝入りだった。鉄の塊は銃身だった。画面が明るくなってそんな気がした。パスワードなどしょせん銃身の前では無力だった。
「そのフォルダを開いて」と上司が言った。
公用パソコンで高揚小説を書いていることはお見通しだった。Wordを開いた。生暖かい息がつむじに当たった。少し脚を開いたようだった。
「読んでみなさい」と上司が言った。
私は読んだ。公用パソコンに書きためていた高揚小説をゆっくり読んだ。背後の息が荒くなるのがわかった。私は上司の真っすぐな長い髪を思い浮かべた。ギシッと椅子の背もたれが音を立てた。上司の下腹が押し付けら