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湯島三角野郎伝説
サヌキマオ
ちょいと出ました三角野郎が四角四面の枡酒飲んで、フイラリフーララ一杯加減で広小路から湯島までトントントーンと出かけると天神さまの下に出る。おりしも雪の年明け、おめでたのついでだってんで、えおらこんちきしょっと裏手から階段を上ると雪の白さに照らされて初詣と受験祈願の客でたいそう賑わっている――はずだったのだが境内から聞こえる悲鳴がこらまた尋常でない。酔いも手伝ってどうしたどうしたとしゃしゃりでると、とんでもねえ数の絵馬が束になって合体し、鎌首をもたげたヘビのようにゆらゆらと揺れている。逃げ惑う参拝客、東へ逃げる大八車。これは尋常ではない。これはあれですな、受験合格祈願のつもりで奉納されたべらぼうな数の絵馬がその重みに耐えかねて落ちたものの怨念でございます。まず、戦う前から落ちている。
なるほどね、そっと出てきた説明野郎の説明を受けてすべてを理解した。三角野郎は持ち前の義侠心から調子よく化け物の前に躍り出て、てやんでえ馬鹿野郎め、世の中にゃ勝つもあれば負けるもあるんだ、そんなことでいちいち悲しんでたらお天道様も呆れ顔よ。とっとと家に帰って勉強でもなんでもしていいところに合格りやがれ! しかし、ようよう蛇とはおかしいじゃねえか、今年は真っ赤な丙午、そんなこともわからねえような間抜けが初詣になんぞくるんじゃねえや。もっと気の利いた格好になりやがれ!
渾身の見事な啖呵。集まってきた野次馬野郎にもそうだそうだと囃されて、化け物の方もこれはしたりと感じ入ったらしく、みるみるうちににょきにょきと天高く首が伸び足が伸び、いよいよ立派な馬になった。おう、見事なもんじゃねえか。そんだけの芸当があれば大学なんぞいかなくたってやっていけらあ。三角野郎、急に楽しくなり、よし、これで手打ちと行こうじゃねえか、と馬に手を広げ――た刹那、大方の思惑とは関係なく、絵馬の馬はくるっと回れ右をしたかと思うと、後ろ足で三角野郎を思い切り蹴飛ばした。天空高く放り出される三角野郎。午年だけに真南に飛んでいく。飛んでいって飛んでいって、順天医院の駐車場に頭からめり込んだ。記録野郎によるとその距離九百八十二メートルと六十センチ。運よく病院の駐車場だったので医療野郎にすぐ助けられて半死半生で事なきを得た。
話はその後どうしたかといえば、絵馬の怨念が本郷の方に飛んでいってぐるぐるまわり、東大野郎がみんな莫迦になった。