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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage4
第97回バトル 作品

参加作品一覧

(2026年 1月)
文字数
1
サヌキマオ
1000
2
おんど
1000
3
ごんぱち
1000
4
Humanitext Aozora
1606
5
岡本綺堂
1325

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Entry1
湯島三角野郎伝説
サヌキマオ

 ちょいと出ました三角野郎が四角四面の枡酒飲んで、フイラリフーララ一杯加減で広小路から湯島までトントントーンと出かけると天神さまの下に出る。おりしも雪の年明け、おめでたのついでだってんで、えおらこんちきしょっと裏手から階段を上ると雪の白さに照らされて初詣と受験祈願の客でたいそう賑わっている――はずだったのだが境内から聞こえる悲鳴がこらまた尋常でない。酔いも手伝ってどうしたどうしたとしゃしゃりでると、とんでもねえ数の絵馬が束になって合体し、鎌首をもたげたヘビのようにゆらゆらと揺れている。逃げ惑う参拝客、東へ逃げる大八車。これは尋常ではない。これはあれですな、受験合格祈願のつもりで奉納されたべらぼうな数の絵馬がその重みに耐えかねて落ちたものの怨念でございます。まず、戦う前から落ちている。
 なるほどね、そっと出てきた説明野郎の説明を受けてすべてを理解した。三角野郎は持ち前の義侠心から調子よく化け物の前に躍り出て、てやんでえ馬鹿野郎め、世の中にゃ勝つもあれば負けるもあるんだ、そんなことでいちいち悲しんでたらお天道様も呆れ顔よ。とっとと家に帰って勉強でもなんでもしていいところに合格りやがれ! しかし、ようよう蛇とはおかしいじゃねえか、今年は真っ赤な丙午、そんなこともわからねえような間抜けが初詣になんぞくるんじゃねえや。もっと気の利いた格好になりやがれ!
 渾身の見事な啖呵。集まってきた野次馬野郎にもそうだそうだと囃されて、化け物の方もこれはしたりと感じ入ったらしく、みるみるうちににょきにょきと天高く首が伸び足が伸び、いよいよ立派な馬になった。おう、見事なもんじゃねえか。そんだけの芸当があれば大学なんぞいかなくたってやっていけらあ。三角野郎、急に楽しくなり、よし、これで手打ちと行こうじゃねえか、と馬に手を広げ――た刹那、大方の思惑とは関係なく、絵馬の馬はくるっと回れ右をしたかと思うと、後ろ足で三角野郎を思い切り蹴飛ばした。天空高く放り出される三角野郎。午年だけに真南に飛んでいく。飛んでいって飛んでいって、順天医院の駐車場に頭からめり込んだ。記録野郎によるとその距離九百八十二メートルと六十センチ。運よく病院の駐車場だったので医療野郎にすぐ助けられて半死半生で事なきを得た。
 話はその後どうしたかといえば、絵馬の怨念が本郷の方に飛んでいってぐるぐるまわり、東大野郎がみんな莫迦になった。
湯島三角野郎伝説 サヌキマオ

Entry2
あした、結婚します。
おんど

わたしの故郷では、結婚しても、ほかの男の人と寝てもいい。法律では、もちろん、だめよ。でも、日本でも、一時停止するところで、車は停まらない。法律で、決められているのに。

法律は、とりあえず、たてまえ。法律と掟はちがう。掟は守らなくてはいけない。掟をやぶると、火あぶりになる。わたしの故郷では、火あぶり用の油が、スーパーで安い。

ほかの男と寝るときにも、掟がある。男はジャングルから、シドレイラ・ド・マトを採ってくる。よくすりつぶす。レモンバームの香りがする。眠りに落ちる。寝ているあいだに何が起きたのか、わたしは知らない。それが掟。寝ているのに掟。なんか変ですか?

マサヒコはやさしいひと。ゆっくり話すと、わかってくれる。なんでも、わたしのこと、わかってくれる。故郷のパパ、ママのこともだいすき。わかってくれる。結婚しても、ほかの男と寝ちゃうよ。マサヒコ、笑っていた。じゃあ、おれも、ほかの女と寝ちゃうよ、だって。マサヒコ、かわいいひと。

高校のとき、日本にやってきた。ジャングルの川を上流へ、泳いでいた。先生が私をみつけて、日本に連れてきた。泳いでみなさい、と言われた。学校のプールで。みんな驚いた。いちばん速かった。でも、と先生は言った。水着を着なさい。

わたしたち、川で泳ぐときは、裸だった。それでは大会に出られない、と先生が言った。怖い顔をしていた。そんなとき、マサヒコはやさしかった。水泳部のキャプテンだった。かわいい乳首してるねって言ってくれた。更衣室で、乳首を舌で転がしてくれた。故郷の男たちは、ワイルド。そんなマイルドにしてくれない。マイルドに、乳首を舌で転がされて、わたし、もう立っていられなくなったよ。

「ねえマサヒコ、ここ、日本ではなんて呼ぶの?」と、濡れてる場所を指さして、聞いてみた。
「まんこ」と言って、指をいれてきた。
「まんこ?」
「そう、まんこ。とても、ぬれてる」
指の動かし方も、とてもやさしくて、わたし、更衣室でなんども、イッた。

それから5年。
わたしたち、あした、結婚する。オリンピックも終わったから。もう、たぶん、泳がない。マサヒコの赤ちゃんを産む。そして、ほかの男とも寝る。掟は守る。ご飯は、たべる。マサヒコのすきな、牛丼。つゆだく。ひと月分、作り置き。

マサヒコ、きょうは仕事。明日は結婚式。いままで寝た男たちへ、LINEで連絡。これからもよろしく。マサヒコ、やさしいから大丈夫。
あした、結婚します。 おんど

Entry3
私の彼は死に戻り
ごんぱち

「あの映画、面白かったね」
 戻夫が、映画館のポスターを指さす。
『スター・ジョーズ7~今度の鮫は恒星だ、秘密道具は電動河豚の夢を見るのか!~』
 かぁ。
 C級にも程があるタイトルの上に、酷いポスターだけど、それより。
 この1ヶ月、積み重なり始めていた僅かな違和感。
「それ、誰と行ったの」
 気のせい、偶然、思い過ごし、そんな色々のカケラがパラパラ剥がれ落ち、出た言葉がそれだった。
 戻夫は、私を見つめ、それから僅かに視線を逸らす。
「こっち見て」
 戻夫が視線を私に戻す。
 瞬間、私はバッグの中から出したスプレーを吹きかける。
 戻夫は、涙を流して咳き込む。近くだったせいで、私の目も痛い。
 股間を蹴り上げられ、悶絶する戻夫にロープをかける。
 幸い、周囲に通行人は誰もいず、邪魔は入らなかった。神様がいるなら、私の行動を認めてくれたのだろう。
「……静かなところで話し合いしよ」

 ラブホテルの一室で、戻夫を椅子に縛り付ける。
 オプションでソフトSM器具を借りておいて良かった。
「――誰と行ったの」
「き、君だよ、猟子――ぎゃああっ!」
 戻夫は、左の眼球に刺されたボールペンを、触る事も出来ないまま叫ぶ。
「分かった、話す、きちんと全部」
 右眼に、嘘の気配はない。
 良かった、いつもの戻夫だ。
「俺は、死に戻りして、人生を繰り返してるんだ」
「死に……どういう事?」
「知らないか? 小説とかで人気の設定だよ。死ぬと時間が戻って、人生をやり直せるんだ」
「バッドエンドなんか見たい人いる?」
「1度バッドエンド見ないと、主人公が命懸けで頑張る理由が分かんないじゃん。推測に命かけるより、ずっと説得力があるよ」
「……それに、なってるって?」
「うん。具体的に言うと、今年の11月2日から12月1日ぐらいまでを100回ほど繰り返している」
 1ヶ月を100回?
「映画は、前回まで20回ぐらい連続で君と行ってたから、つい今回間違えたんだ」

 3日後。
 私の包丁が、戻夫の鳩尾に深々と突き刺さる。
 その視線の先は、床で動かなくなっている間子に向いていた。
 映画は間子と行っていた。死に戻りなんて、下手な嘘だ。
 騙し続けていてくれれば。

 と。

 戻夫がキラキラ光り始め、すっと消えてしまった。
 次は浮気しないのだろうか。
 でも私は、戻夫のいなくなった世界で生きるしかない。
 パトカーのサイレンが聞こえる。

 逃げよう。
 それが正解かは分からないけど。
私の彼は死に戻り ごんぱち

Entry4
銭形平次 八五郎と成人式
今月のゲスト:Humanitext Aozora

 神田明神下の平次の家へ、いつものようにガラッ八の八五郎が飛び込んで来たのは、寒の入りも過ぎて、梅の蕾もようやく綻びかけようかという、ある日の昼下がりであった。
「親分、親分、てえへんだ!」
 相も変わらぬ大声である。この男、年中何かを「てえへん」だと騒いでいるが、その実、大したことではないのが常である。
 平次は、長火鉢の傍らで愛用の煙管きせるを掃除していたが、苦笑いを含んだ眼を上げて、
「なんだい八、薮から棒に。また何処かの飼い猫が仔でも産んだか」
「違いますよ、今日はあれですよ、セイジンシキってやつですよ」
「セイジンシキ?」
 平次はきょとんとした。江戸の世にそんなハイカラな言葉はない。元服や前髪執りなら知っているが、八五郎の口から出る言葉は、時折、未来の国から迷い込んだように奇妙なものがある。
「へえ。なんでも若え連中が、大人になった祝いだってんで、派手な着物を着て集まってるんで。町内も華やかなもんですよ。……ですがね、親分」
 八五郎はそこで声を潜め、じっと平次の顔を見つめた。その眼差しが、妙に熱っぽい。
「あっしはね、そんな若造どもを見ても何とも思わねえんですが、ふと親分の若けえ頃を想像しちまったんで」
「俺の若い頃?」
「ええ。親分が二十歳の頃は、さぞかしイイ男だったろうなあ、とね。いや、今が悪いってんじゃありませんぜ。今の親分はこう、渋みがあって、男の色気があって……」
 八五郎は頬を紅潮させ、うっとりと平次を見上げている。
 実はこの八五郎、明神下の親分に心底惚れ抜いていた。それは単なる子分としての忠誠心などという生温いものではない。平次が煙草を吸う横顔、銭を投げる指先、その一つ一つに胸を焦がし、夜も眠れぬほどの恋心を抱いているのである。だが、それは天地が引っくり返っても口には出せぬ、男八五郎、一生の不覚にして最大の秘密であった。

「何をブツブツ言ってるんだ。気味の悪い奴だな」
 平次は全く気づかない。この男の鈍感さは、捕物の勘の鋭さと反比例して、天下一品である。
 そこへ、奥からお静がお茶を運んで来た。
「八五郎さん、お茶が入りましたよ」
 その声は涼やかだが、置かれた茶碗の音が、心なしかカタンと強く響いた。
「お、こりゃ痛み入ります、姉さん」
 八五郎が愛想笑いを浮かべると、お静は静かな微笑を湛えつつも、その眼の奥だけは笑っていなかった。
「八五郎さん。あまり親分の顔ばかり見つめてると、お茶が冷めますよ。……それとも、親分の顔をおかずにすれば、お茶請けも要りませんかえ?」
 ドキリとして、八五郎は縮み上がった。
(いけねえ、この人は侮れねえんだ……)
 お静は、女の直感というやつで、八五郎の平次に対するただならぬ執着を、とうに嗅ぎつけているのである。夫に懸想する男が、毎日上がり込んで来るのだから、妻としては心中穏やかであるはずがない。

「へ、へへ……冗談言っちゃいけねえや。あっしはただ、親分の若え頃の武勇伝を聞きてえと思っただけで」
 八五郎が慌てて誤魔化そうとすると、平次はパンと煙管をはたいて、
「武勇伝ねえ。二十歳の頃と言えば、俺もまだ修業中の身でな。失敗ばかりしていたよ」
「へえ! 親分が失敗を? そいつは初耳だ。どんな失敗です?」
 八五郎が身を乗り出すと、平次は遠くを見るような目をした。
「ある雪の日だった。俺は一人の娘を助けようとして、逆に自分が川へ落ちちまったのさ」
「川へ! ああ、なんと勿体ねえ……いや、可哀想な! で、その娘ってのは?」
「それが、お静だよ」
「えっ」
 八五郎の顔が引きつった。お静は勝ち誇ったように、袖口で口元を隠してオホホと笑う。
「そうでしたねえ。あの時のあなたの濡れ鼠姿、今でも目に浮かびますわ」
「ち、ちぇっ……面白くねえ」
 八五郎が小声で毒づいた時、表で騒がしい物音がした。
「大変だ、大変だ! 親分、喧嘩だ!」
 近所の職人が血相を変えて飛び込んで来たのである。

(続く)
銭形平次 八五郎と成人式 Humanitext Aozora

Entry5
本園町の春
今月のゲスト:岡本綺堂

 Sさん。郡部の方もだんだん開けて来るようですね。御宅の御近所も春は定めてお賑やかいことでしょう。そこでお前の住んでいる本園町の春はうだと云う御尋ねでしたが、私共の方は昨今却ってあなた達の方よりも寂しい位で、御正月だからと云って別に取立てて申上げるほどのことも無いようです。しかし折角ですから少しばかり何か御通信申上げましょう。
 この頃は正月になっても、人の心を高い空の果てへ引揚げて行くような、のどな凧のうなりは全然まるで聞かれなくなりました。往来の少ない横町へ這入はいると、おい羽子はごの春めいた音も少しは聞こえますが、その群の多くは玄関の書生さんや台所の女中さん達で、お嬢さんや娘さんらしい人達の立ち交じっているのは余り見かけませんから、門松を背景とした初春の巷に活動する人物としては、その色彩が頗る貧しいようです。平手で板を叩くような鼓の音をさせて、鳥打帽子を被った萬歳が幾人も来ます。鉦や太鼓を鳴らすばかりで何んにも芸のない獅子舞も来ます。松の内はやまいの銭湯におひねりを置いてゆく人も少ないので、番台の三宝の上に紙包の雪を積み上げたのも昔の夢となりました。藪入やぶいりなどは勿論ここらの一角とは没交渉で、新宿行きの電車が満員の札をかけて忙しそうに走るのを見て、太宗寺の御閻魔様の御繁昌を窃かに占うに過ぎません。
 家々に飼犬が多いに引替えて、猫を飼う人は滅多にありません。屋根伝いに浮かれあるく恋猫の痩せた姿を見るようなことは甚だ稀です。ただ折々に何処からか野良猫がさまよって来ますが、この闖入者は棒や箒で残酷に追い払われてしまいます。夜は静かです、実に静かです。支那の街のように宵から眠っているようです。八時か九時という頃には大抵の家は門戸を固くして、軒の電燈が白く凍った土を更に白く照らしているばかりです。大きな犬が時々思い出したように、星の多い空を仰いで虎のようにうそぶきます。ここらでただ一軒という寄席の青柳あおやぎ亭が看板の灯を卸す頃になると、大股に曳き擦って行くような下駄の音がとしきり私の門前を賑わして、寄席帰りの書生さんの琵琶歌などが聞こえます。あとはひっそりして、シウマイ屋の唐人笛が高く低く、夜風にわななくような悲しい余韻を長く長く曳いて、横町から横町へと闇の奥へ消えて行きます。どこやらで赤児の泣く声も聞こえます。尺八を吹く声も聞こえます。角の玉突場でかちかちと云う音が寒そうに聞こえます。
 寒の内には草鞋ばきの寒行の坊さんが来ます。中には襟巻を暖かそうにした小坊主を連れているのもあります。日が暮れると寒参りの鈴の音も聞こえます。麴町通りの小間物屋には今日うし紅のビラが懸けられて、キルクの草履を穿いた山の手の女達が驕慢な態度で店の前に突っ立ちます。ここらの女の白粉は格別に濃いのが眼に着きます。
 四谷街道に接しているせいか、馬力の車が絶間なく通って、なきだに霜融けの路をいよいよ毀して行くのも此頃です。子供が竹馬に乗って歩くのも此頃です。火の番銭の詐欺の流行るのも此頃です。しかし風の無い晴れた日には、ほりどての松の梢が自ずと霞んで、英国大使館の旗竿の上に鳶が悠然と止まっているのも此頃です。
 まだ書いたら沢山ありますが、先ずここらで御免を蒙ります。ようなら。