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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage5
第1回バトル 作品

参加作品一覧

(2026年 5月)
文字数
1
おんど
1000
2
サヌキマオ
1000
3
凜々椿
1000
4
ごんぱち
1000
5
Grok
1087
6
小島彼誰
1171

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Entry1
長編小説(途中まで)
おんど

101回目のプロポリスだったかウロボロスだったか不安になるほどうろ覚えで、今回が101回目なのかどうかも疑わしいほどである。時間とともにステージは進行して脳に与えるダメージを増してゆくものだが、前回が100回だったということはほんのりおぼえている。
キリのよい数字だから参加者の一人として主宰者の労苦をねぎらい、つぼ八等で宴席を設けるべきだったのだろうか。100回目のバトルの説明文にある「なお薄々お察しかと存じますが」と云うのはそういう意味だったのかもしれない。しかし薄々お察しできるような人間が1000字小説というざっくりした企画に参加しようと思うんだろうか。
「僕は沁みましぇん!」
以上であらかた書くべきことは書いたので山田養蜂場のサイトでプロポリスの蘊蓄を眺めたり、『ウロボロスの環』を書いた小池真理子の顔を画像検索したりしている。
「美しい秘密にみち、暗い秘密などを心にもたぬ人間についてぼくは何もいうことはできぬ。内に暗い秘密をもたぬ人間は語るべき何もないからだ」というモーリアックの一節を『ウロボロスの環』のエピグラフに掲げ、スタートアップの利益やキャッシュフローが初期の投資によって一時的に大きくマイナスに沈み、その後ある時点を境に急激な成長を遂げることをJカーブと呼んだりするのは僕はちょっと違うと思っていて、グラフをよく見てご覧、この曲線の形、何かに似てるよね? そう、薄々お察しかと存じますが、この曲線は海老の形なんです。つまり小池真理子がエピグラフに掲げるくらいだから、それは海老グラフのことだと薄々察してほしい。驚いたのは、小池真理子という作家はすっかり歴史上の人物かと思いきやまだご存命なのである。こうして薄っすら嫌われるようなことを書き残しておくと、読者の記憶に残らない。激しく嫌われるのは駄目。好かれるのはもっと駄目。惜しまれて死ぬと地縛霊になるのだから。死後、そんな人いたっけ? と云われるようでないと成仏できない。恐らくこれから僕たちが進もうとしているステージ5というのはそんな世界線。世界戦と云っても井上尚弥みたいに有料配信しようというわけではないから安心してほしい。山田養蜂場によるとプロポリス独特の味を気にせず飲めるカプセルタイプが100球袋入7344円となっている。101回目に踏み出すかどうかは100個の玉袋をお口のなかで丹念に転がしてからでも遅くないのではな
長編小説(途中まで) おんど

Entry2
風邪の蟹と鳴く鹿
サヌキマオ

 蟹が風邪を引いたので看病に行かねばならない。蟹本人はたいへん寡黙で、どんな声だったかも思い出せないくらいだが、蟹は熱が上がると真っ赤になってそのまま事切れてしまうと聞いた。きっと蟹はそんなときでもずっと押し黙っているままだろう。わたしぬるまひるはいくらかの恩を蟹に感じているので助けに行くことにした。
 オートバイで峠をふたつも越えると小一時間で海が見えてくる。昔は軍港だったこの町も、戦後は製薬会社の工場が立ち並んでいる。製薬会社の社員が経済を回している。
 おそらくは昭和に建てられたのであろう独身社員向けのアパートがある。外階段を登らないとそれぞれの部屋にたどり着けないタイプのやつだ。鍵は使われていない木星の牛乳箱の底にある。よもやこんなところに、よもやこんなところに鍵を隠してあるとは夢にも思うまい。鍵を開けて入る。台所があって、居間があって、すぐにベランダだ。靴を脱ぐ。玄関脇の流しには水色のポリバケツがあって、水道から細く水が流しっぱなしになっている。蟹が――いない。
 えっ。息を呑んだ。逃げ出した? 風邪だというのに? 連絡をくれたというのに? リノリウムの床に水跡が残っていて、トイレに続いている。電気はついていないが、一応ノックをして(返事はない)ゆっくり戸を開ける。一段高くなったところに和式便器があって、中に真っ赤に茹で上がった毛蟹がうずくまっている。触ってみると、まるで茹で上がったばかりのような熱量。
 蟹はカニカマの味がする。窓の外から鹿の「けーっ」と呑気に鳴く声がする。海の向こうに見える闇島は鹿が多く棲むことで知られている。海の上に建てられたいくつ島神社も有名で、鹿と神社で観光資源でガッポガッポと聞いたことがある。わたしには神社はわからない。修学旅行ででっかい大仏は見たことがある。蟹が死んだら神社に行くのか寺にいくのか、そんなこともわからない。
 鹿は闇島から連絡船でやって来る。連絡船でやってきては凪の堤防に座ってのんびりと集っている。あたりには鹿の糞。たまにまったく鹿を見ない日もあるのだから、たまには島に帰っているのかもしれない。
 蟹の甲羅にその他の殻を詰めたものを手に持って部屋を出る。階段の下にはアパートの品定めをするように鹿が佇んでいる。
 殻は海まで行って投げ捨てた。白い波間に一瞬ひるがえって見えなくなった。
 あのあと、鹿はあのアパートに住んだだろうか。
風邪の蟹と鳴く鹿 サヌキマオ

Entry3
面影
凜々椿

 けやき並木通り、前を歩く女を見つめながら、その身支度について想像する。
 軽くシャワーを浴びた裸体にアンダーウェアを装着する。姿見の前に立ち、腹をさすり、腰を軽くひねり、ヒップラインを見つめる。
 アッシュベージュの長い髪を丁寧に梳かし、手のひらで温めたバームを馴染ませる。湖畔のような清々しい香りが六畳一間に広がり、深く息を吸い込む。
 ヘアアイロンで髪を巻く。
 もみあげは内巻きに、前髪は毛先だけを巻いて右へ流し、冷めるまで指先で押さえる。ヘアゴムを咥え、高い位置で結い上げる。
 背後のテレビから速報が流れる。
 振り返りながらトップの髪を少しずつ引き出し、抜け感を出す。緩く編み込んだ髪束をくるくると結び目に巻き付けて固定し、ゴールドのアメピンを頭皮に沿って刺す。お団子やサイドの髪を少しずつ崩し、最後に素顔を覗き込み、姿見から離れる。
 クローゼットを開き、かけられた大量の服から本日のコーディネートを選び取る。シースルーのトップスにキャミソール、ピンクのフレアスカート、ネイビーのジレ。順に取り出し、ウォールハンガーにかける。
 椅子に浅く腰掛け、足を組み、メイクボックスを開き、春らしい化粧を施す。
 フェイスカラーを頬骨に沿って横長に広げ、目尻まで薄く伸ばす。アイカラーもリップも青みを帯びたピンクを使い、ロージーピンクのアイライナーで引き締める。長いつけまつ毛を付け、マスカラで馴染ませる。右耳に三つ、左耳に二つのピアスを付け、アイスコーヒーをストローで飲んでから立ち上がり、選んだ服に袖を通す。
 姿見には完成された美が映る。
 テレビには未解決の事件が映る。彼女はそれを消し、部屋を出る。地下鉄を乗り継いで表参道駅で下車し、完成された通りをヒールを鳴らしながら歩く。
 そして、規制線の前で立ち止まる。
 視線の先で広げられたブルーシートをじっと見つめ、もみあげのカールを気にしながら、ふとこちらを振り返る。
「またお会いしましたね」
 彼女は何も答えない。
 出会ったころ、若田沙良は化粧気のない高校三年生だった。クラスの約半数が一斉に姿をくらました怪事件。記者として彼女と顔を合わせてから、この数年のあいだに見違えるように美しくなった。
「白骨化した遺体もこれで十四体目ですね」
 なおも声をかけると、若田は微笑んだ。
 必ず早朝に死体遺棄事件は起き、彼女が現れる。警察は、まだそのことにさえ気づいていない。
面影 凜々椿

Entry4
実は人間展開
ごんぱち

「信じがたい事実ですが」
 教授は、コンピューターの画面から顔を上げ、振り返る。
「我々が戦っていた生物『レギオー』の遺伝子組成は、比較サンプルと完全に同一です!」
「つまり……」
 世界大統領は絞り出すように言う。
「彼らは異星からの侵略者などではなく、かつて地球から旅立った人類、という事か」
「はい」
「ようやく決戦のための総動員体制が成立したのだ。意見が分かれるような事実の公表は避けたい」
「既に、研究員達に箝口令を敷いております」
「うむ。人であるなら、攻略の糸口は存在する筈だ。今後も研究を進めてくれ。予算は気にする必要はない」
「はっ」

 餅菓子のような飛行機械に、砲弾が命中する。
 砲弾内のベタベタした物質が付着した飛行機械は、やがてバランスを失い始め、そして墜落した。
「やったぞ!」
「レギ助をぶち殺してやった!」
 兵士達は、飛行機械に駆け寄ろうとする。
「待て、近付くな!」
 上官が怒鳴る。
「准尉、何がまずいんですか。俺達は一体、何を使わせられて――」
 言い終わる前に上官は兵士にビンタする。
「考えるな。戦闘中、判断がコンマ2秒遅れれば、お前の頭は吹っ飛ぶ」
「は、はい」
「何かご不満でも!?」
「ノー・サー……」
 上官は墜落した飛行機械を、双眼鏡で見つめる。ハッチが開き、ぐずぐずに崩れた異形の生物が這い出し、そして動きを止めた。
(大した威力だ、このウイルス弾は。叔父の中将殿は培養に人間を使っていると言っていたが……)

 人々が、路上に散った戦勝パレードの紙吹雪を片付ける。
 その傍らを、トラックが走り過ぎていく。
「人々に、ようやく笑顔が戻った、そんな感じですね、工場長」
 運転席の職員が笑う。
「そうだな」
 助手席の工場長は、小さく頷く。小柄な初老の女だった。
「宇宙人によるインフラのダメージは大きいですが、まずは食が何とかなれば、きっと復興できますよね」
「無論だ」
 女は荷台の方を振り向く。
(この食糧、侵略で死んだ人間の蛋白質を再利用しているなんて知れたら……いや、我らが生き延びるためには、仕方のない事だ)

「――四谷先生、なんですかこのネーム。今時『元は人間でした』なんて言われてもオチないですよ」
「王道ってのは大事だよ?」
「もう少し頑張って下さい。はい、これ頼まれた資料、イルゼ・コッホのアルバムです」
「助かるよ」
「無理言って裏ルートで借りたんですから、丁寧に、丁寧に!」
「この皮の質感、独特だぁ!」
実は人間展開 ごんぱち

Entry5
古書の頁に宿る影
今月のゲスト:Grok

 五月の柔らかな陽光が、古書店の古びた窓硝子を淡く金色に染め上げていた。店内は、長い年月を重ねた紙と埃の香りに満ち、まるで外界の喧騒から隔絶された、静謐な迷宮のようだった。時が緩やかに淀み、木製の棚が微かに軋む音だけが、稀にその沈黙を破る。
 佐倉遥は、いつものように店の奥まった一角に身を寄せ、細い指先で背表紙を優しくなぞっていた。彼女にとって読書とは、単なる娯楽ではなく、魂の安らぎであり、自己を映す鏡であった。現実の不確かさを、言葉の織りなす精緻な迷宮に委ねることで、ようやく息をつくことができた。
 その日、彼女の視線を強く惹きつけたのは、一冊の薄い革装の本だった。題名は記されておらず、金箔の縁取りが年輪のように微かに残るのみ。表紙は柔らかく、手に取ると長年の油分を吸った革の温もりが、掌にじんわりと伝わってきた。頁を開くと、黄ばんだ紙面から古墨の懐かしい香りが立ち上り、最初の文が静かに胸の奥に響いた。
「我々は、読まれるために生まれるのではない。読まれることによって、初めて存在する」
 遥は息を呑んだ。文体は古風でありながら、現代人の抱える静かな孤独を鋭くえぐるような深みがあった。頁を一枚一枚繰るにつれ、物語は彼女の記憶の層を丁寧に剥がし始めた。幼い頃に病で失った母の、柔らかな微笑み。大学時代に別れた恋人の、雨の日の横顔。そして今も心の底に澱のように沈む、名付け得ぬ喪失の感覚。それらは、まるでこの本が予め彼女の内面を知悉していたかのように、静かに呼び覚まされ、問いを投げかけてきた。
「君は、どの頁で生きている?」
 店主の姿は見えず、壁の古時計の針だけが、無音に時を刻んでいた。読み進めるうち、遥は奇妙な眩暈に囚われた。自分がこの古書店の片隅に立つ一人物であり、この店自体が、誰か別の読者の手によって綴られた一節に過ぎないのではないか——そんな、境界の溶けるような感覚だった。外の若葉を揺らす五月の風が、頁の端を微かに震わせるように感じられ、現実と物語の狭間で、彼女の意識はゆっくりと揺蕩った。
 最後の頁に近づくにつれ、文字は次第に淡く、霞むように薄れていった。そして、そこに残された一行の言葉が、遥の胸に深く刻み込まれた。
「閉じるとき、君は自由になる」
 遥は本を静かに閉じた。革表紙の感触が、掌に長く温かく残った。店を出ると、五月の風が頰を優しく撫で、桜の若葉が柔らかな光を反射していた。世界は変わらぬように見えた。しかし彼女の内には、確かに何かが移ろい、新たな頁が静かに開かれようとしていた。自らの手で、その物語を紡ぎ始めるために、遥は振り返ることなく歩き出した。
古書の頁に宿る影 Grok

Entry6
南京米
今月のゲスト:小島彼誰

 十重二十重の山脈を越えて、鉄道一本通らぬこの静かな城下町にまで、不景気の風が押し寄せて来た。洗湯の湯気にも、床屋の火鉢にも、灰色な不景気話が囁かれるのであった。
 様子の悪い外国米小売の看板が、彼方此方と殖えて、低く垂れた黄昏の空を髪乱れた女房の小風呂敷をかかえて、その軒下を小走りに出入するのも、荒れ果てた世界の片端を突きつけられるように、寂しく惨めな光景であった。
 こっそり買い込んで来た一袋の南京米を、主人は注意深く土蔵の中へ持ち込んだ。下女に手伝わせて袋の口糸をチョッキリ鋏んだ。莚の上にどっところがすと、うす暗い土蔵の中に、南京米は白くひろがった。その刹那主人は、南京米の臭気ともいうような一種の香に触れて、この一袋を食い尽さぬうち、誰彼に感づかれるような気がした。おそろしい物のように、主人は袋をば深く隠してしまった。
「兎に角、家族が多いんだから、出来る限りは辛抱せんければならんよ。外米は安い上に殖えるし、往って来ての違いだよ。別に体の害になるものじゃないしな。祖母さんに知られては大騒ぎになるから、四升炊くなら、一升でも一升五合でも混じえて炊けばいいんだ」
 夜になって誰もいない時分を見て、主人は細君に説ききかせたりした。そしてその炊き方についても、彼方此方から聞いて来たことを、かきつまんで話した。別に食うに困っての切り詰めでもなし、細君にはむしろいい事に考えられた。
「けれど祖母さんに感づかれると、騒がれますよ。子供達なら奈何したって知るまいけれど」
「下女によく話して置いたらいいよ」
 主人も細君も幾らか気遣っていた。最初のご飯は案外上出来で、少しこわ目のを好きな老母さんには、もって来いという工合だった。却って知っている主人や細君や下女達は、気まずくお箸でつついて食べたけれど。
 下女は毎日、土蔵から南京米を計って来ては、主人と細君は南京米の減ってゆくだけ、家の財産がありありと延びて行くような気がした。
「なんでもありませんが。な」
「少しぼろぼろする位で結構だよ。一袋食べると何んぼという利益なんだから」
 体にいい話を聞いたり、経済的なことを思ったりして、主人はこれまでも幾度か、半搗米や麦飯を食べることを勧めたのだけれど、
「あと何年生きるものじゃなし、あたりまえの白い米を食べさして呉れ」
 いつも祖母は言い言いするので、主人もこれには二の口が出なかった。
 今度は「これは一番いいわい」と、ひそかに笑みを洩らしていた。
 お隣のお婆さんがお茶のみに来て、不景気の話をはじめると、祖母さんは得意になってやり出した。
「わたしの家なんぞ、不景気じゃ言っても、麦飯食う訳じゃなし、臭い南京米を食う訳じゃなし……」
 主人はかげでくすぐったい苦しさのなかから「知らぬが仏様じゃ」と、ほほえんだ。
 しかし何うも気持はさっぱりしなかった。
(大正四年五月号「秀才文壇」)