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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage5
第3回バトル 作品

参加作品一覧

(2026年 7月)
文字数
1
おんど
1000
2
深詰 改
1000
3
サヌキマオ
1000
4
ごんぱち
1000
5
Grok
1044
6
佐左木俊郎
1432

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Entry1
長編小説(途中まで)
おんど

昔からタイトルをつけるのが苦手で、それを見透かしたようにタイトルをつけてほしいとの依頼が来る。
分厚い本を股にあてがって小刻みに振動させないとオルガスムスに達しないという女性からタイトルをつけてほしいと頼まれて「聖書」と名付けた。分厚い本を小刻みに震わせることによって体幹が鍛えられ、慢性的な肩凝りが良くなったと有難がられ、今では尊師と呼ばれるようになってしまった。
井上尚弥もそのひとりだ。ボクシングのことはよくわからないのだが、どうも強いらしい。普段はテレビしか見ないから、ボクシングはもう廃れてしまってスポンサーが付かないのかと思いきや、よくわからない暗号を使って課金し、散々儲けているのだと尚弥のマネージャーから仄めかされた。リングで次々に相手を殴り倒し、ベルトを腰に巻き、肩から下げ、腕に巻き、ずいぶんベルト好きなんだなと思っていたら、タイトルをつけてほしいと依頼された。仕方なく「WBAスーパー・WBC・IBF・WBOスーパー世界スーパーバンタム級統一王者」というタイトルを付けるとマネージャーは喜んで、お礼に分厚い封筒を差し出した。アマゾンでプリンターインクを注文するととてつもなく分厚い封筒で送られてきて辟易していたところだったので突き返してやった。
まず無駄な支出を削って財源を確保しなければ減税はできないとする財務省に対し、先に減税を行って経済を活性化して税収を増やせばよいと主張する河村たかしからタイトルの依頼があり、「にゃ~とりと玉子」と名付けた。本気で総理を目指しているようなので、その暁には金メダルを両サイドから噛み、唇が触れるか触れないかのところでキープしたままきんたまをしごき合いたい、と陳情すると「気持ち悪い」と断られてしまった。河村たかしは普段は標準語で話すのである。
データドリブンにどっぷり浸かり、もっと広い視野を持たなくてはならないと、腰に手を当てフルーツ牛乳を飲んでいると番台の婆はカツ丼を食べている。カツ丼の匂いは銭湯内を充たし、フルーツの香りが台無しだ。同じ想いを抱いた女湯からタイトルの依頼が来る。「どんぶり感情」とそれを名付ける。
ずいぶん前置きが長くなってしまったが、あなたが云う「小説」とはなんでしょうか。世の中で「小説」と呼ばれるものの大半は、私にとっては「お話」としか思えない。「お話」は「お放し」であって、もう若くないのだから、あなたほど勢いよくおしっこは飛ば
長編小説(途中まで) おんど

Entry2
みぎがわのはやしくん
深詰 改

 隣の席の林君は、いつも壁に背を向けて座っている。廊下側の一番後ろで、だいたいシャーペンをくるくる回すか、耳とか鼻と口の間に挟んだりして、指をポキポキ鳴らしている。きょう持ってきた文庫本は行きの電車で読み終わってしまったので、次に何を読むか、考えていたら授業が終わった。
「林君、きょう、ひま?」
「帰り?」
「本屋に行きたいんだけど」
「ああ、おれも本屋に行きたかったんだわ」
「じゃあ、いこ」
 林君と並んで歩くときは、いつも私が左側になる。逆だとなんだか右腕がむずむずして気持ちが悪いらしい。最近は私もそれに慣らされてしまったようで、右側になったときは立ち止まって、林君が位置を変えてくれるのを待っている。
 本屋とか図書室に来るたびに思うのだけど、なぜ【あ】を一番上の棚に並べるのだろう。手に取れないところにあるものほど、読みたくなるようにする戦略なんだろうか。本棚から少し離れたところから指を差し、林君に声を掛けた。
「赤川次郎の一番左のやつ、なに?」
「これ? セーラー服と機関銃」
「うん、ちょっと見てみたい」
 はい、と本の向きを整えて私に差し出してくれる。なんだろう、こういう何気ないところで気を使ってくれるのが、心地よくてつい甘えてしまう。これ、隣にあったのと取り換えて。いいよ。ありがと、あと、その隣のも。
 四冊目にはさすがに林君も少しムッとしていた。
「えー、自分でやりなよ」
 ちょっと意地悪そうな表情で私のことを見る。その棚に手が届かないことはさっきからお見通しさ、とでも言わんばかりに眉を動かす。私もつい、ほほを膨らませて、林君のワイシャツの外れた首のボタンを強い視線で見つめ返した。自分で取れるものなら取りたいのだ。一番下の棚の本だったら、私が取ってあげるのに。
 林君は困っているのか笑いを我慢しているのか、見たこともない表情になり、本棚の方へ視線を反らせた。そのまま本棚に近寄り、うそうそ、はいどうぞと『探偵物語』と手に持っている本を取り換えてくれた。
 清算を済ませて先に外に出て、ゆっくり歩いてくる林君を背伸びしながら待つ。あすの休みは、いつも林君たちが昼休みに抜け出して行くラーメン屋に行くことになっている。
「あした、どうしたらいい?」
「たぶん混むから、駅前に十一時半でいいかな」
「うん、わかった」
 ちょっといじわるして林君の左側に立つと、私の後ろへ回り右側を歩き始めた。なんか安心する。
みぎがわのはやしくん 深詰 改

Entry3
二条河原三角野郎伝説
サヌキマオ

 ちょいと出ました三角野郎が四角四面の駅弁をぱくつきながら新幹線で京都へ向かう。
 此頃都ニハヤル物 夜討 強盗 謀チンチン
 と、京の都では偽ちんちんがえろう流行っとるそうでして、強盗だの闇バイトだのが流行る中、女御や尼たちが偽ちんちんを囃すことで悪者に男であると誤認させることが目的だとか。
 そりゃあずいぶんむごいご時世だ、おちおち枕を高くして眠ってもいられねえ。とはいえ旅の身分の三角野郎、缶ビールを二本開けてすっかりいい気分となり、隣の解説野郎にちんいじ野郎と「セキセイインコは背黄青鸚哥と書いて背中が黄色と青なんだとしたらセキセイウンコは」「セキセイアンコとは」などときゃあきゃあはしゃいでいると急にさめざめと泣く声がする、急に冷水を浴びられた気分になって見ると、通路を挟んで向かい側の年老いた尼さんであった。おいおいどうしたんだいお坊さん。泣くものがあれば真っ先に手を差し伸べる根っからの江戸っ子である三角野郎、せっかくお楽しみのところ申しわけありませんと平に謝る尼さんの方に手を置き、これもなにかの縁だ、おいらでよければ話を聞くぜとつとめて明るく。尼さんのほうも困ったような気配を見せたが「いえ、少々お腹の調子が」などと口ごもる。それじゃあ肩を貸そう、という三角野郎を同道のちんいじ野郎、「まあまあいいじゃねえか兄貴、尼さんにも事情があるってもんだ。そっとしといてやんなよ」ととりなしてスラックスの上からちんちんをいじる。「相変わらず痒いんですか」と解説野郎。
 京都についた。繁華の四条河原から二条河原、橋の上から見ると鴨川のほとりでは幾人のアベックがいていちゃついている。これだこれこれ、と三角野郎が喜んで河原に降り立つとあったあった偽ちんちんと銘打った幟。大小さまざまのディルドや張り型が屋台の上にところ狭しと並べられている。ちんいじ野郎も手を止めて立ち並ぶ逸物に見とれている。「こんなに需要があるものなのかい」困惑の色を浮かべる三角野郎に「犯罪も増えていますからね、まだまだこのあたりには根強い需要があるのでしょう」と解説野郎が解説する。急にオラーという怒声がするので振り返ると、遠くで暴漢らしき男を、女が馬のような大きさの張り型で殴りつけている。
「もしかすると」三角野郎は思い当たる。
「昼間の尼さんも偽ちんちんだったのかも知れないなあ」
 ずいぶんと日が長い。鴨川がぎらぎらと燃える。
二条河原三角野郎伝説 サヌキマオ

Entry4
ゲームの趣味人
ごんぱち

「――観覧料として次回の入札の順位。確かにご署名、お預かりいたしました」
 広げていた契約書類をまとめながら、案内人の女は微笑みを浮かべる。
 小さい頃から、憧れていた。
 醜く争う卑小な下民共を見下ろす、デスゲーム観戦者という立場に。
 事業を守りから攻めに変え、TOBによる会社転がしに売って出たのも、この夢があったからだ。
 結果、私が父から相続した事業の時価総額を4パーセントも向上させた。業界で上位1000位に入った事もある一流企業のオーナーとなった。
 ついに誘いが訪れた。
 努力する者に神は微笑む。

 案内されたのは、帝国ホテルのラウンジだった。
 通常営業と内装が変えられ、モニタの複数設置で1つの大きなモニタと、左右にサブモニタが作られている。
 私を含め、観戦者達は仮面をつける。作画の手間がなさそうなのっぺりしたデザインなのも、分かっている。
 画面の向こうで、司会の男がゲーム参加者に説明する。
『――お前らのうち、たった1人の勝者が、この300万円という大金を手にできる。ルール無用、最後に生きていた者が勝者だ!』
 言い終わる間もなく、参加者達が掴み合い、殴り合いを始めた。
 え?
「お飲み物は、いかがですか?」
 案内役の女が差し出したペットボトルを受け取る。
「ただ殺すだけ、なんですか? こんな大雑把のは、サッカー場かインドのお祭りで見たっていうか……」
 血まみれの下民達は、叫んだり殴り合ったり掴み合ったり、隠し持っていた釘で目を抉ったりしている。逃げようとして、職員に刺叉で押し戻される下民もいる。
「人間の弱さが見える駆け引きや騙し合い、みたいなのを期待していたんですが」
「1兆マイル貯めて頂ければ、上位グレードの観戦資格が得られます」
「マイル?」
「次回は賭けにご案内しますわ。掛け金がマイルになりますのよ」

 そうか。
 ようやく末席に辿り付いただけだった、か。
 落ち着いて画面を見ると、参加者は皆外国人の浮浪者で、司会も品がなく、時折FUCKサインまでしていて、音声はAI吹き替えだ。
 南米かアフリカか、無法の国でやっているのを中継しているだけなのだろう。
 笑いが漏れる。
 達したと思ったら、まだ先がある。
 いつか、人の醜さの奥の奥まで見られるような、サイコーのデスゲームを観てやろう。
 人の夢は、終わらない。
 おーいお茶の蓋に手をかけた。

 開かない。
 前回の脳梗塞以来、どうも左手が痺れる。
ゲームの趣味人 ごんぱち

Entry5
マグダラの秤
今月のゲスト:Grok

 一八六七年のマグダラの市場は、乾いた風が埃を舞い上げ、白いシャマが陽に輝く中、露店が軒を連ねていた。皇帝テオドロス二世の居城がそびえる都の中心で、コーヒーの香りと香辛料の匂いが漂い、買い手の声と家畜の鳴き声が交錯した。
 アベベの店は市場の片隅にあり、麻袋のコーヒー豆と蜂蜜の壺、舶来のガラス玉が並べられていた。四十を過ぎた店主は、日に焼けた手で品を整えながら、少ない客を待っていた。入荷が滞り、客足も遠のいていた。
 やがて、顔なじみの老行商人サムエルが近づいてきた。肩に掛けた袋は空っぽで、足取りは重そうだった。
「アベベよ、今日も暑いな。水を少し恵んでくれんか」
 サムエルは木の台に腰を下ろした。アベベは水を注ぎ、無言で差し出した。
「ありがとう。品が乏しいようだな。陛下の軍の影響か?」
「北へ兵が向かったそうだ。隊商の通りが悪く、コーヒー豆も減ってきた。値段が上がる一方だ」
 サムエルは水を飲み、しわの深い顔を上げた。
「陛下は国を一つにまとめ、外国に負けぬ強い国にしようとしておられる。白人たちの技術を学び、交易を広げれば、皆が楽に暮らせるようになるだろうに」
 アベベは頷き、コーヒーの袋を軽く叩いた。少し明るく響くように努めて言った。
「陛下の志は正しい。このままでいては辺境の国だ。外国と対等に交易できれば、市場もずっと賑わう。私の店も、少しは大きな商いができるかもしれない」
 しかし、その後の沈黙に、サムエルは何かを感じ取ったようだった。
「それでも代償は大きい。私の村の若い者たちはほとんど兵に取られた。畑は荒れ、今年のテフの収穫は半分だ。税は上がり、物価は高く、村では不満の声が漏れ始めている。陛下の夢が叶うまで、どれほど耐えられるものやら」
 アベベは答えず、遠くの空を見やった。微かに軍馬の蹄の音が風に乗って聞こえる気がした。風が埃を巻き上げ、市場の喧噪を覆い隠した。
「それでも、陛下を信じたい」やがて低い声で言った。「この国が強くなり、商売をする者にも未来が開けることを、願わずにはいられない」
 サムエルは立ち上がり、からっぽの袋を肩に掛け直した。
「願うことは誰にでもできるからな。ではまた来る。アベベ。良い品を残しておいてくれよ」
 老商人が人ごみに消えていくのを見送り、アベベは古い秤を手に取った。鉄の皿が陽を受けて鈍く光った。その秤はこれまで数え切れぬ品々の重さを量ってきた。だが、これからこの市場で量られるものの重みが、以前と同じであるかどうかは、誰にもわからなかった。
マグダラの秤 Grok

Entry6
郷愁
今月のゲスト:佐左木俊郎

 私はよく、ホームシックに襲われる少年であった。
 八百屋の店頭に、水色のキャベツが積まれ、赤いトマトオが並べられ、雪のように白い夏大根が飾られる頃になると、私のホームシックはなお一入ひとしお烈しくなるばかりであった。
 そんな時、私は憂鬱な心を抱いて、街上の撒水が淡い灯を映した宵の街々を、微かな風鈴の音をききながら、よくふらふらと逍遥さまよいあるいたものであった。
 店の上に吊るされた。五十燭位の電灯が、蒼白い、そしてみずみずしい光をふりまき、その光に濡れそぼっている果物屋の店や、八百屋の店は、ますます私の心を、憂鬱に、感傷的にして了うばかりであった。然し私は、馬鹿馬鹿しい程淋しく、物哀れな気分になりながらも、斯うして八百屋の店や果物屋の店頭を覗いて歩くのが好きだった。
 そうしてさまうた揚句には、きっと上野の停車場へやって行ったものであった。
 停車場の待合室には何処の停車場にも掛っているような、全国の、国有鉄道の地図が掲げられていた。
 その地図の下に立ってみすぼらしいなりの青年が、その地図の上の距離を計ったり、じっとみつていたりして、淋しい表情で帰って行くのを、私は幾度見かけたか知らなかった。
 私はそう云う人々を、殆んど毎晩のように見かけた。なかには、眼を潤ませて帰る青年もあったし、ちかちかと睫毛を光らせて戻る少年もあった。
 然し私は、そう云う人々を、ただ単に、見たとばかり言い得ないような気がする。
 その人々の姿こそ、当時の私の姿ではなかったろうか? 歩いてでも郷里にかえりたかった。当時の私の心ではなかったろうか?

 或夜のことであった。私は停車場で、偶然一人の友人と落合った。彼は非常に沈んでいたようであった。
「誰か送って来たの? それとも誰か来るの?」と私は訊いた。
「ううん」
 彼は神経質な眼をして頭を振った。
「君は?」と彼は訊いた。
「僕も、ただ散歩に。――此処へ来ると、田舎の言葉が聞けるもんだから……」
「僕もそうなんだよ。ただそれだけで、僕は小石川からわざわざ出掛けて来るんだよ」
 彼はこう言って、深い深い溜息を一つついた。
 私と彼とは、黙々として目を伏せて公園前の方へ歩いて行った。そうして歩きながら、彼は低声バスに、哀れっぽい調子をつけて歌ったのであった。

停車場の、地図に指あて故里ふるさと
都の距離をはかり見るかな。

 私も彼も、大望を抱いて東京へ出て来たのであった。故里を去る時には、その意志を貫かないうちは石に噛りついても帰らない筈であった。
 然し、私も彼も、もう……
 その月の末に、私は彼が郷里に帰ったと云うことを聞いた。もう再び東京には出て来ないつもりだと云うことをも聞いた。
 然し、彼の意志の弱かったことを誰がわらい得よう? 故郷を持っている人々、そして都会の無産者の生活を知っている人々は、誰も嘲うことは出来ない筈だ。
 私はその後も、折々停車場へ出掛けて行った。その帰り途、私は屹度、あの時彼が歌ったあの歌を低声バスで歌って見たものであった。

停車場の、地図に指あて故里と
都の距離をはかり見るかな。

 この歌を私は幾度も繰返した。繰返しているうちに、私の歌は何時か、泣声になっていた。そして、睫毛に涙のちかと光っているのを意識したものであった。

 今では、もう停車場へ出掛けるようなことはなくなった。
 けれども、夏が来て、八百屋の店頭に赤いトマトオが積みあげられ、水色のキャベツが並べられ、白い夏大根が飾られる頃になると、私は今でも、彼のあの歌を思い出すのである。