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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage5
第5回バトル 作品

参加作品一覧

(2026年 9月)
文字数
1
おんど
1000
2
サヌキマオ
1000
3
深詰 改
1000
4
ごんぱち
1000
5
Grok
1000
6
岡本綺堂
981

あなたが選ぶチャンピオン。

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Entry1
長編小説(途中まで)
おんど

どこで書いたか忘れてしまったのだが、簿価ジュニアーズについて補足しておきたい。南米のクラブと書いたのでてっきりサッカークラブの話かと思ったとの問い合わせを読者から頂いたのだが、簿価ジュニアーズというのは錦糸町にあるアルゼンチンパブのことです。錦糸町のチンパブといえば簿価ジュニアーズのことだというのは皆さんご存知だと思い込んでしまった。
簿価ジュニアーズには下半身のコンディション不良に悩むサッカー選手と作家選手が夜な夜な集い、自分の市場価値について値踏みされていた。元図書館司書で、心理カウンセラーの肩書を持つ梶原という女がカウンターに男を寝かせ、パンツを脱がせて簿価と時価の差を測定するのを下半身のコンディション不良に悩むオーディエンスが泥酔しながら眺めている。そんなチンパブであった。
梶原栗子は松戸市の図書館司書として働く傍ら視聴覚センターで自主制作の映像サークルを立ち上げ、フィルムを回した。劇作家である夫と女優である妻との静謐な日々にひそむ闇を描いた「マイ・ドライブ・カー」を松戸市中央公民館で上映したところ、地域のミニコミ誌「グラッチェ松戸」に採り上げられ、話題となった。特に夫婦がセックスをしながらセリフを覚え、射精後のコンドームを膣圧で弾き飛ばしてゴミ箱へチップインさせる妙技には浅草演芸ホールの支配人も目を見張った。
そんな興行上の成功もあり、性交もあって小金を手にした梶原栗子が錦糸町にチンパブを開業したのは当然の成り行きであった。「マイ・ドライブ・カー」で使用したサーブ900を運転代行車両として使用したのも好評だった。
そのとき彼はWEB小説家としてある程度のフォロワーがいたものの文壇ではまったく認知されておらず、作家選手と揶揄されるような存在であった。若い選手を見出して育て、ビッグクラブへ移籍させて莫大な移籍金を得るというのが南米クラブのビジネスモデルであったが、簿価ジュニアーズは簿価のまま剥き出しにするチンパブだった。そのカウンターでは簿価のままでいられるのに、どうしてWEB上では時価をいきり立たせてしまうのだろうか。パンツを下ろした途端に時価を見せつけるような若者は、簿価ジュニアーズではきつく窘められた。いきり立った時価を厳格な監査法人のように殴りつけることもあった。そうやって下半身のコンディション不良を受け入れ、安全運転をすることを簿価ジュニアーズでは叩き込まれ
長編小説(途中まで) おんど

Entry2
厭庵
サヌキマオ

 右乳山の山頂にほど近いところに厭庵いやーんはあり、某兵衛という世捨て人が住んでいた。世捨て人といってもかつてはさる商家のあるじで、店を息子に譲り小僧を一人連れての風流人暮らし。眼前に広がる左乳山の風景を盛り上がったような曲線を観て暮らしたいと願って千紫万紅、春には春の花、夏には草木が一斉に輝くのを佳しとした。
 ところがいつしか山の中腹にひっそりと庵が建った。あやしがりて寄りてみるに、いかにも素人造り、さも雨露さえしのげればいいといったできそこないで「あつ波案はーん」と看板が出ている。中ではやせ細って袈裟まで垢にまみれた坊主らしいものがグウグウいびきを立てて眠っている。某の目には見苦しく映った。左乳山の美しさがあってこそこの地に腰を据えたというのに、あんなものがあってはならぬ。
「火をつけてこい」某は小僧に言いつけた。「あんな乞食坊主と話し合っても埒が明かぬに決まっている。また結べばまた燃やせ。そのうち根が尽きるだろう」
 小僧は小僧で好いも悪いもわからぬ愚かしい感じであったので、「火遊びしたらおねしょしちまわあ」などとぼやきながら夜陰に乗じて火をつけにいき、実にうまく行った。左乳山から右乳山に戻って振り返るころには、庵の周辺がボンベンと燃え、周囲の草花にも燃え広がっている。
「あれでは助からんなあ」したり顔で小僧は確信した。
 火は日が昇ってからも燃え続けたので、野良仕事に出かけていた村の人が見かけて慌てて消しにきた。やはり坊主は焼け死んだらしく、遺体らしきものが運ばれていく。
 のを、某は厭庵の前からずっと眺めていた。痛快であった。なあに、草木はすぐに芽生える。ひさびさに清し心地であった。すっかり飯を食うのを忘れていたので庵の中に戻ると、小僧が竈の前でなにやらもそもそやっている。おいどうした、声をかけると振り向いたのが小僧の体をした山向こうのじじい坊主だから驚いた。
「こちらも燃やさんと釣り合いが取れんじゃろ」某が慌てて水瓶から柄杓を取り上げるが、小僧じじいは火のついた棒杭ぼつくいを持ってあちらこちらと飛び回る。まもなく蒼天を突く炎が上がり、半時もしないうちに燃え尽きた。またもやかと駆けつけた村人は「某の気が触れてほうぼう火を付けて回ったのだろう」と結論した。
 山の尾根を下ると臍池、その先にはこんもりとした森と秘めた泉があったが、そこもあかあかと燃えて、やはり何も無くなった。山から泉がよく見える。
厭庵 サヌキマオ

Entry3
口から仏様
深詰 改

 夏休み前の期末試験なので、今後を占う上で非常に重要であることは頭で理解していたが、身体は言うことを聞かなかった。試験前に修学旅行の班決めなど、するべきではないのだ。
「はやしくんはCグループ?」
 男女混合、まったくランダムな班分けなのは、まあ悪くはない。だが、そのあみだくじに余計な線を自分が付け足したという事実を受け入れられないまま不本意な試験期間が終わり、そのいやな余韻を引きずったまま京都駅に着いた。聞いてはいたが、あらゆる精気を蒸し焼きにするような京都の暑さがプラットフォームに充満している。駅に陽炎。この先三日間、できることなら宿の涼しい部屋で本でも読んで終わらせてもいい。
 八重ちゃんはすでにD組メンバーと階段を降り始めている。ただでさえ女子が少ないのに、どういうわけか全員女子だ。もちろんC組はこんな夏には会いたくないメンバーしかいない。工程表にはお行儀のよいルートを作成したが、誰一人、それを守ろうというつもりはない。ある意味で、そこだけが救いではあった。
 改札の外で八重ちゃんに追いつき、どこへ行くのかを訪ねてみる。
「ほら、ほとけさまがくちからでてくるやつ」
「ああ、空也なんとかか」
 こちらは四条河原町でたこ焼きを食うことしか決めていない。あとは工程表のアリバイ作りをしながら四人が単独行動することになっている。空也は二日目の予定だが、あす銀閣寺のパンフレットを取りに行けばなんてことはない。D組メンバーのシマモトさんが左上の空を見つめる僕を見て、交渉しない? と耳打ちしてきた。
 高校生にとっては国家レベルの外交問題である。引率の目を盗み、四人の混成グループと、二組のペアが出来上がった。シマモトさんとオオタのペアは六人とも暗黙の了解事項だったので、思いのほか、すんなり決まった。
「じゃあ、宿には五分前に集合ってことで」
 ここでふと大事なことに気が付いた。京都でノープランということに。ただでさえ暑いのに、違う種類の汗が染みだしてくる。八重ちゃんも少し汗をかいている。タオル地のハンカチで首筋を押さえて、のどかわいたね、と自販機を指さした。
 大きなバッグをふたつ担いでバス停に並び、まだ折れ目の少ないしおりを二人の間に開いてみせる。ねえ、おひるはたこ焼きなの? 京都なのに?
 八重ちゃんがいればなんでもいいよ、と言いたかったのだが、まずはくちからほとけさまを見学に行くことにした。
口から仏様 深詰 改

Entry4
不発弾政談
ごんぱち

「ふあぁぁ、どうも夢見が悪かったな。早く店を開けよう……ん? 庭に何か埋まって――む、むむむ、これは、不発弾!?」
「どうしたんだい、あんた」
「かかあ、店の前にこの不発弾が埋まってんだよ」
「いやだよお前さん、さっさとお上に伝えて持って行ってもらいなよ」
「隣町の話なんだが、お上に伝えたら、処理費用として金576両を払わなきゃならんと言われたそうだ」
「……お隣に置いちゃいなよ。早起きは三文の徳、仏様がお助け下さったんだよ!」
 てな訳で、店主は不発弾をお隣の家に置いてしまいました。
 隣も不発弾を見つけて大騒ぎ。ちょいと店主が目を離した隙に、不発弾を置きに行く。それをまた戻して、と繰り返すうちに鉢合わせ、喧嘩になり始めたところでお役人が割り込み、裁判に引き出しました。

 この民事裁判を受け持ったのが、名奉行大岡越前守の血を引くとか引かないとかいう小岡ロハ助裁判長。
「何があった、豆腐屋店主の八五郎から申してみよ」
「へ、へえ。朝、この不発弾を見つけやして。処分費用を支払わされたら首を括るしかありませんから、早起きの特権てぇことで、隣りにちょいと仮置きしたんで、へえ」
「では、隣の熊五郎、お前はどうだ」
「はい。やっぱり処分費用なんか払える訳もねえんで、涙を呑んで隣の店に回しまして……」
「ふむ」
 小岡裁判長、暫し黙って目を閉じます。
 小岡も裁判官の端くれ、不発弾が見つかっただけで民衆が負債を抱える事に、常々疑問を持っていました。
「八五郎」
「は、はい」
「これは本当に不発弾か? つるりとして不発弾にある筈の角がない。これはクジラの子供の死体ではないのか?」
「ええ? 不発弾に角?」
「お前、不発弾を見たのは何度目だ?」
「え? そ、そんなものは初めてですが」
「ならば何故、不発弾に角がないと切れるのだ」
「それは、その」
「逆に角のあるクジラはどこで見た? ナショナルジオグラフィックの第何回だ?」
「い、いえ」
「ならばクジラであろう」
「……あ! はい、そう、そうでございますね、これはクジラでしょう、なあ、熊さん」
「だ、だよなあ、何だか生臭い気もする!」
「よろしい。ならば喧嘩の理由はもうあるまい。このクジラの方は、証拠品として法廷が預かる。調べた後は我らが処分するが、それで良いな?」
「もちろんでございます」
「ありがとうございます、裁判長様!」
「これにて、一件落着、身銭を切らずに済んだな」
「豆に働」
 どーん!
不発弾政談 ごんぱち

Entry5
高原の井戸
今月のゲスト:Grok

 十九世紀なかば、エチオピア帝国の高地。ゴンドールから南へ半日ほど歩いた村に、細い道が一本通っている。朝の光が薄い霧を裂き、赤土の丘を照らしはじめるころ、村の少女メルカトは水瓶を担いで井戸へと向かう。
 井戸は村の外れ、巨大なイチジクの木の根元にある。水は澄んで冷たく、深く暗い。彼女は縄をゆっくりと繰り下ろし、重い壺が水面に触れる音を待つ。周囲では羊の群れが静かに草を噛み、遠くで雄鶏が鳴く。風が高原特有の乾いた匂いを運び、頭巾の端を揺らした。
 水を汲み上げたとき、壺の重さがいつもの朝よりわずかに軽く感じられた。水面の位置が、ほんの少し下がっているようにも思える。メルカトは一瞬、指を止めた。だが、ただそれだけの違和感だった。
 彼女はすぐに縄を巻き上げ、壺を背に結んだ。きっと、朝の光の加減だろう。昨日と同じ水だ。丘を登りながら、彼女は足裏に感じる土の感触だけを確かめた。村に近づくと、インジェラを焼く煙の匂いが漂う。母親はすでにテフの粉を練り、弟は山羊のそばで動いている。父親は畑へ出かけたあとだ。
 家に戻ると、母親は黙って水瓶を受け取り、口で「ありがとう」とだけ言った。メルカトは隣の部屋で織機に向かう。羊毛の糸を通す指が、規則正しく動く。布は粗く、しかし丈夫で、やがて市場で塩や油と交換されるのだろう。窓の外では、子どもたちが裸足で走り、泥んこになって笑い合っている。
午後、雲が西の山々に集まりはじめた。雨を予感させる重い空気。メルカトは庭に干してあった穀物を急いで取り込む。母親と二人で袋を担ぎ、土間に積み上げる。そのあいだも、ほとんど会話はない。ただ、互いの動きが自然に噛み合い、仕事が滞りなく進む。
 夕暮れが近づくころ、父親が畑から戻ってきた。肩に鍬を担ぎ、額の汗を手の甲で拭う。家族は土間に円く座り、焼きたてのインジェラとレンズ豆の煮込みを分け合う。火の明かりが壁に影を落とす。誰も大きな声を出さない。ただ、皿をすする音と、遠くで鳴く犬の声だけが夜を満たす。
 メルカトは皿を洗い終え、外に出て空を見上げた。星が一つ、二つと現れはじめる。高原の夜は冷たく澄み、息が白く見えるほどだ。胸の奥で、ごく短い祈りが静かによぎる。明日も同じ道を歩き、同じ糸を織る。それだけで十分だった。彼女は頭巾をかぶり直し、静かに家のなかへ戻った。壁の片隅に掛けられた小さな木の十字架が、わずかに夜気を帯びる。
高原の井戸 Grok

Entry6
涼み台の少女
今月のゲスト:岡本綺堂

 わたしは今、大久保に住んでいるにつけて、叔父からかつて聞かされた昔話を思い出さずにはいられない。
 叔父が若いときに、大久保の百人組同心で間瀬ませなにがしと云う人の屋敷をたずねたことがある。そこで夕飯の馳走になって、いざ帰ろうとすると、そこの息子も新宿へんまでようしにゆくから一緒に出ようという。旧暦の七月はじめで、日が暮れてもなかなか暑い。ふたりは涼みながらぶらぶら歩いて来ると、往来の酒屋の店先には縁台を持ち出して、番頭や小僧が涼んでいる。間瀬の屋敷にも出入りの店とみえて、番頭は起ちあがって間瀬の息子に挨拶して、まあお掛けくださいと云った。如才のない番頭で、何かしきりに話しかけるもので、息子も叔父もすぐには行き過ぎかねて、思わず縁台に腰をおろしていると、番頭は俄に何を見出したのか、持っている渋団扇をあげてうように云った。
「また来たか。いたずら者め。早く行け、行け」
 ここの店先には大きい縁台が据えてあって、それから少しはなれたところになが床几しようぎが一脚ある。その長床几の端の方に、七つか八つぐらいと思われる、女の児が腰をかけていた。その頃のことであるから夜の店先はうす暗かった、がそれでもその女の児は白地の浴衣を着て、色白のおとなしそうな児であることは、叔父の眼にもよく判った。番頭に叱られて、女の児は起ちあがった。そうして、黙ってしずかに立ち去った。
「畜生め。また何か悪戯をしようと思って……仕様のない奴だ」と、番頭は罵るように云った。
「どこの児だね」と、間瀬の息子は訊いた。
「なに、あなた。あいつはむじなですよ」
 叔父はびっくりした。しかし間瀬の息子は左のみ驚いた様子も見せなかった。
「ははあ。油断していると、顔でも引っ掻かれるところだった」
「まったく困りますよ。時々に子供達の顔なんぞを引っ掻きましてね」と、番頭は笑いながら顔をしかめた。叔父はいよいよ驚いた。
「じゃあ、化けているのかね」
「そうですよ。夏から秋にかけて出て来るんです。二三日前の晩にも、近所の子供がやられました」と番頭は説明した。
「ここらは狢の巣だからな」と、間瀬の息子は笑っていた。

 それから五六十年のあいだに、ここらも著しく変わったものである。その狢の眷属はどこへ立ち去ってしまったのであろう。軒並に電灯のかがやく夜の町を散歩しながら、一度そういう女の児に逢ってみたいような気がすることもある。